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「それはまぁいい。そんなことよりもっと大切なことがある」
「大切なこと? まさか床が抜けたか⁉︎」
「本関係じゃない。あと床より家賃気にしろよ!」
「あ」
ダリュカの住んでいる貸家は、月換算だとかなり安いが代わりに一年分一気に払う契約となっている。旅に出る少し前に契約を結んで金は払っておいたので出る時にはすっかりと頭から抜け落ちていた。そしてそのまま忘れて二年間ーーダリュカが留守の間に二回は契約が行われていたことになる。
「代わりに金を払ってくれた人がいたからいいものを、契約切れるところだったんだぞ!」
「助かる、ってキルシュカが払ってくれたんじゃないのか?」
「俺にニ年分の家賃を建て替えておく金はない。ってそんなことより行くぞ」
「行くってどこに?」
「金払ってくれた人のとこ。ついてこい」
荷物を背負ったままキルシュカの後を追って行くが、ダリュカにはキルシュカ以外に金を建て替えてくれる相手に心当たりがない。だが見ず知らずの相手に二年分の家賃を貸してくれる人など相当良い人か相当な変わり者かである。
キルシュカの知り合いだろうか? 銀行に預けてある金と合わせても二年分となると一気に返せるだけの金はない。稼いでくるまで待ってくれるといいのだが、そこまで頼むのも……。ぐるぐると考えていれば、見覚えのある場所に到着していた。
二年前のあの日、キルシュカと通ったお城の門の真ん前である。キルシュカは門番に何やら説明をしてからダリュカについてこいと指示を送る。
一体この場所にどんな用事があるというのか。
家賃を建て替えてくれた相手に会いに行くんじゃなかったのか。
頭に大量のはてなマークを浮かべながらも、ダリュカは遅れないように着いて行く。ズンズンと慣れた様子で進んでいく彼の背中を追っていくと、とある部屋の前にたどり着いた。いや、途中からここを目指していることに気がついてはいたのだ。ただ、キルシュカがここに用がある理由が分からなかった。
「王宮図書館か……懐かしいな」
「今は一部改築されていて、中に会って欲しい人がいる」
会って欲しい人と聞いて真っ先に浮かぶのはあの時の少年だが、彼はすでに五人の子どもを産んでいる。今さら彼がダリュカと会いたがる理由がない。
あの時汚れた毛布代の請求でもされるのだろうか。相手の名前を告げないキルシュカに続いて進んでいく。改築されたとの言葉通り、図書館内はダリュカの記憶とは大きく変わっている。
入り口にあったカウンターがなくなり、棚の数もずいぶん減った。人もいない。代わりにソファや机が置かれており、床にそのまま座って本が読めるようにクッション性の高いマットが敷かれている場所まである。
マットの上には毛布があり、思わず目を逸らした。あの夜使っていたものとよく似ていたのだ。王宮で使っている毛布はどれも同じなのかもしれないが、ダリュカにとってあれは特別なものなのだ。
変わっていても、未だこの場所には思い出が残っている。顔を歪めれば、背後でモゾモゾと何かが動く音がした。
「ウサギ、さん?」
「王子、こちらにおりましたか」
聞き覚えのある、少年の声だ。
この場所で再会することになろうとは……。手のひらに爪を立ててなんとか歪んだ顔を元に戻してからゆっくりと振り返る。
「久しぶりだな」
そこにいたのは毛布にくるまった少年の姿だった。司書室で寝起きした朝と違うのはあの頃よりもずっと大人っぽくなったところだろう。普通のアルファなら放っておかないほど色っぽい。
「なぜいなくなったんですか? それにお金ももらわなかったと」
「報酬ならすでにもらってたからな。本のタイトル、書いてくれただろ? あれ以上もらう理由がない」
「あんなの報酬になりません! あの時の私が渡せるものがそれしかなかっただけで、あの後に報奨金があること前提で……」
「俺はあんたが提示した対価に納得したから取引に応じた。俺が認識した取引範囲内に金は含まれていない」
素直に答えれば少年はグッと唇を噛み締めた。そこでようやくあれは手切れ金だったのかもしれないと気づいた。ダリュカが受け取らなかったから、あとで何か仕掛けてくるのではないかと不安でたまらなかった、と。二年間も行方をくらましていて、さぞ気苦労をかけてしまったことだろう。
「大切なこと? まさか床が抜けたか⁉︎」
「本関係じゃない。あと床より家賃気にしろよ!」
「あ」
ダリュカの住んでいる貸家は、月換算だとかなり安いが代わりに一年分一気に払う契約となっている。旅に出る少し前に契約を結んで金は払っておいたので出る時にはすっかりと頭から抜け落ちていた。そしてそのまま忘れて二年間ーーダリュカが留守の間に二回は契約が行われていたことになる。
「代わりに金を払ってくれた人がいたからいいものを、契約切れるところだったんだぞ!」
「助かる、ってキルシュカが払ってくれたんじゃないのか?」
「俺にニ年分の家賃を建て替えておく金はない。ってそんなことより行くぞ」
「行くってどこに?」
「金払ってくれた人のとこ。ついてこい」
荷物を背負ったままキルシュカの後を追って行くが、ダリュカにはキルシュカ以外に金を建て替えてくれる相手に心当たりがない。だが見ず知らずの相手に二年分の家賃を貸してくれる人など相当良い人か相当な変わり者かである。
キルシュカの知り合いだろうか? 銀行に預けてある金と合わせても二年分となると一気に返せるだけの金はない。稼いでくるまで待ってくれるといいのだが、そこまで頼むのも……。ぐるぐると考えていれば、見覚えのある場所に到着していた。
二年前のあの日、キルシュカと通ったお城の門の真ん前である。キルシュカは門番に何やら説明をしてからダリュカについてこいと指示を送る。
一体この場所にどんな用事があるというのか。
家賃を建て替えてくれた相手に会いに行くんじゃなかったのか。
頭に大量のはてなマークを浮かべながらも、ダリュカは遅れないように着いて行く。ズンズンと慣れた様子で進んでいく彼の背中を追っていくと、とある部屋の前にたどり着いた。いや、途中からここを目指していることに気がついてはいたのだ。ただ、キルシュカがここに用がある理由が分からなかった。
「王宮図書館か……懐かしいな」
「今は一部改築されていて、中に会って欲しい人がいる」
会って欲しい人と聞いて真っ先に浮かぶのはあの時の少年だが、彼はすでに五人の子どもを産んでいる。今さら彼がダリュカと会いたがる理由がない。
あの時汚れた毛布代の請求でもされるのだろうか。相手の名前を告げないキルシュカに続いて進んでいく。改築されたとの言葉通り、図書館内はダリュカの記憶とは大きく変わっている。
入り口にあったカウンターがなくなり、棚の数もずいぶん減った。人もいない。代わりにソファや机が置かれており、床にそのまま座って本が読めるようにクッション性の高いマットが敷かれている場所まである。
マットの上には毛布があり、思わず目を逸らした。あの夜使っていたものとよく似ていたのだ。王宮で使っている毛布はどれも同じなのかもしれないが、ダリュカにとってあれは特別なものなのだ。
変わっていても、未だこの場所には思い出が残っている。顔を歪めれば、背後でモゾモゾと何かが動く音がした。
「ウサギ、さん?」
「王子、こちらにおりましたか」
聞き覚えのある、少年の声だ。
この場所で再会することになろうとは……。手のひらに爪を立ててなんとか歪んだ顔を元に戻してからゆっくりと振り返る。
「久しぶりだな」
そこにいたのは毛布にくるまった少年の姿だった。司書室で寝起きした朝と違うのはあの頃よりもずっと大人っぽくなったところだろう。普通のアルファなら放っておかないほど色っぽい。
「なぜいなくなったんですか? それにお金ももらわなかったと」
「報酬ならすでにもらってたからな。本のタイトル、書いてくれただろ? あれ以上もらう理由がない」
「あんなの報酬になりません! あの時の私が渡せるものがそれしかなかっただけで、あの後に報奨金があること前提で……」
「俺はあんたが提示した対価に納得したから取引に応じた。俺が認識した取引範囲内に金は含まれていない」
素直に答えれば少年はグッと唇を噛み締めた。そこでようやくあれは手切れ金だったのかもしれないと気づいた。ダリュカが受け取らなかったから、あとで何か仕掛けてくるのではないかと不安でたまらなかった、と。二年間も行方をくらましていて、さぞ気苦労をかけてしまったことだろう。
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