あやかし担当、検非違使部!

三+一

文字の大きさ
上 下
13 / 24
二章 甘味の恨み

草木も眠る

しおりを挟む
被さる雲はなくなって、やや欠けた月が街の上でひっそりと輝く夜。
時刻は深夜二時を過ぎた頃——草木も眠る丑三うしみつ時だ。

真っ暗な501号室の部屋の中、人知れず勝手に光る何かがあった。

それは奥の和室の左隅…使われずに置いてある姿見だ。
鏡に発光する機能はついていないというのに、鏡面が白く輝き、光量が収まった後は水面の如く波紋ができる。

やがて波紋の向こうから、ぼんやり黒い影が現れた。
影はどんどん濃くなって、ついには鏡面を越えて和室にその身を晒す。

影は音なく慎重に抜け出ると、暗くても道を知ったかのように襖の方へ首を回した。
すっ、すっ、とねずみの呼吸くらいの微かな足音だけで、戸に近づき、開いてぬっと廊下に出る。

次に影は暗闇の中を壁を伝って進み、ザラザラとした触り心地からすべすべしたものに変わるとそこで歩みを止めた。
その辺りを調べると出っ張りを見つける。ドアノブに触れたのだ。

ためらいなく、だがゆっくりと、影はそのドアを開いていった。

部屋は廊下に比べて明るい。
電気はついていないが、カーテンを開いた窓から微かな外の明かりが差し込んでいるのだ。
その窓のちょうど前にはベッドがあり、寝具は丸く膨らんでいる。

ニヤ、と影は初めて表情を変えた。
頼りない光が、白く尖った歯を浮かび上がらせる。獲物を見つけた、夜中の肉食獣のように。

笑みに呼応して影の動きは速まって、ベッドに近づき間を空けることなく掛け布団をバサリと剝ぎ取った。


ところが——そこに眠っている人間の姿はなかった。


代わりに丸く巻かれた毛布が積まれているだけである。
三日月型に弧を描いていた口元も、これには丸くなって動揺を表す。

すると後ろから何者かの気配がして、影は素早く振り向いた。

だがすらりとした背丈の、目を吊り上げた女が髪をふり乱してこちらへ向かってきたとわかった時にはもう、ベッドの上に力強く押し倒されてしまっていた。
しおりを挟む

処理中です...