二度目の聖女は御免です〜超一流薬師は、伝説の神獣を連れて自由な旅に出ることにしました〜

雪平もち

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第14話:黄金の晩餐と、仕組まれた求婚

(……どうしてこうなったのかしら)

豪華絢爛なシャンデリアの下、私は場違いなほど美しいドレスに身を包み、所在なく立っていた。

事の始まりは三日前。港町の市場で「幻の深海エビ」を頬張っていた私を、フェルゼンのカイル王子がキラキラとした子犬のような瞳で捕獲したことだった。

「エルナ様! 僕、君がいないと夜も眠れなかったんだよ?」

そう言って差し出されたのは、喉から手が出るほど欲しかった**『失われた古代薬学の写本』**。これを受け取る条件が、この「800年祭」の前祝パーティに出席し、直接功績の報奨を受け取ることだったのだ。

壇上に上がった私に、カイル王子は「星霜の銀時計」を授与した。万雷の拍手の中、私は一刻も早く退散しようとしたが、カイル王子は私の手を離さなかった。

「皆さん、聞いてください! この気高き薬師こそ、我が国の危機を救った女神です。……僕は、彼女を一生離したくない!」

彼は大衆の面前で、私の前に膝をついた。

「エルナ、僕の妃になってくれないか? 君の自由も、研究も、僕が王家の名にかけて全力で守るから」

(……はあ!? 何言ってるのこの子! 公衆の面前でこんなこと言ったら、断りづらいじゃない!)

会場が騒然とする中、背後から氷のように冷たい声が響いた。

「――待て。その方は我が国の国民だ。勝手に他国の妃にされては困るな、フェルゼンの王子」
漆黒の礼装を纏ったルシアン王子が、人混みを割って現れた。

「……ようやく見つけたぞ、私の『聖女』。……他国の王子に口説かれる暇があるなら、私の元へ戻ってもらおうか」
ルシアン様の氷のような視線が、私の首元のペンダントを貫く。

(……嘘でしょ、人魚の真珠による認識阻害を、視線だけでこじ開けたっていうの!?)

「ルシアン……! 君がなぜここに!」

右からはカイル王子の「可愛い顔した強制プロポーズ」。左からはルシアン王子の「冷徹な所有宣言」。
(……最悪。どっちに行っても詰んでるじゃない……!)

華やかなワルツが流れ出し、私は二人の王子の視線に挟まれ、絶体絶命のピンチに陥った。
その時。

「――お迎えに上がりました、我が主(マスター)」

混雑するフロアを割り込むようにして現れたのは、見たこともないほどの絶世の美青年だった。
前世で見てきたどの美形騎士よりも野性的で、それでいて気高い。銀色の髪をなびかせ、黄金の瞳を怪しく光らせた彼は、二人の王子の手を冷酷に跳ね除け、私の腰を強引に抱き寄せた。

「……は、ハティ……なの!?」
……ただの珍しい幻獣だと思っていた。けれど、目の前の美青年から放たれるのは、伝説に語られる『神獣』そのものの、魂を震わせる威圧感だった。

『……少し食べ過ぎて、判断力が鈍ったようだな、エルナ。……さあ、帰るぞ。汚い手で触られるお前を見ているのは、もう限界だ』

彼がニヤリと不敵に笑った瞬間、フロア中に凄まじい「神獣の威圧」が放たれた。
二人の王子が息を呑んで怯んだ隙に、ハティは私をお姫様抱っこで軽々と攫い、開け放たれた窓から夜の海へと飛び出した。

「ちょ、ちょっとハティ! あんた人間に化けられたの!?」

『ああ。……お前が自由でいたいなら、俺がその翼になってやる。……あの腹黒どもに構うのは、もう終いだ』

月明かりの下、絶世の美青年に抱えられて夜風を切る。
背後からは二人の王子の「待て!」という絶叫が聞こえてきたけれど、私はハティの首にしっかりとしがみつき、初めて心の底から大声で笑った。

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