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俺と彼女と営みの巣
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夏実と村川くんの密着はエレベーターを出る時まで続き
「鍵開けてきますね!」
エレベーターが到着するなり、村川くんは夏実からサッと離れて廊下を先に通って行ってしまった。
「夏実」
エレベーターの中に居ても何も出来なかった悔しさはあるものの、解放された夏実の腕を掴んでグッと抱き寄せる。
「どうしたの湊人」
「どうしたのじゃねーよ! 村川くん、ヤバくなかったか?」
彼の後についていくように俺らも廊下を渡りながらコソコソと会話する。
「ヤバいって何?」
「どう考えてもヤバかっただろ、さっきまで夏実の腰に手を回してきたし」
俺の指摘に夏実は何故かキョトン顔をする。
「確かに最初はビックリしたけど、そこまでじゃなかったよ? 会話も普通だったし」
「えっ!?」
(普通だと?!! 2人の背後から見た俺には全く普通に感じられなかったんだが!!)
「それになんか……昔の湊人に似てるなぁって、ちょっと思っちゃった」
夏実はイラつく俺の方を見上げて、照れ臭そうにそう言う。
「昔の俺?」
「うんっ♪」
夏実は頷くと今度は俺の腕に両腕を絡めて胸をムニムニさせながら、村川くんが開けた扉へと俺ごと連れ込もうとする。
「大したことない普通の部屋ですが、どうぞ」
俺らに微笑みかけながら部屋の中を案内する村川くんの姿や声に注目して
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎながら「眼鏡もかけた事ないし、声も俺よりは低くないし似てないだろ」という感想を持つ。
「お邪魔しまーす♪」
夏実の方はというと、駅で待ち合わせした時とは違いリラックスした様子で楽しげな声を上げている。
そして夏実の目線は村川くんにまっすぐ向けられていてちょっとこっちの気持ちに靄がかかってすごく嫌な感じだ。
「こっちがリビングなんでどうぞ♪」
夏実に合わせて語尾に音符がついてそうな声色で村川くんは廊下の先にある扉に手を向けた。
(夏実への腰抱きは流石にもうしないか)
さっきのは本当に俺に向けた牽制だったようで、悪ノリまではしないタイプのようだ。
「あの、これ手土産……大した物じゃなくて申し訳ないんだけど」
扉を開けられた先に入った部屋は広いLDK。
村川くんはすぐにキッチンに立ってしまったので、カウンター越しからランチ後に購入したスイーツショップの焼き菓子詰め合わせが入った紙袋を村川くんに見せる。
村川くんはその時冷蔵庫から麦茶ボトルのようなガラス製のボトルを取り出していて、俺がチラ見させた紙袋のロゴを目にした途端に表情をパアッと明るくさせた。
「その店!! 最近テレビで紹介されてましたよね!?」
「えっ?」
村川くんの強い口調と瞳の煌めきにたじろいで、思わずテーブルの席に座っていた夏実に助けを求める。
「多分紹介されてたのはチョコレート専門店の方かもしれないです。そちらは最近お店出したんで」
「あー……そうなんだぁ」
夏実の返答に村川くんは眉を下げて軽く落ち込んだ様子だった。
「え? 村川くんってチョコレート好きなの?」
チョコレートじゃなくて悪かったな。という気持ちと、他人が持ってきたものに対してあからさまに落ち込むなよ。という気持ちが入り混じりながら、俺は夏実の隣に座る。
「甘いの全般好きなんですけど、特にチョコレートが好きですね。ちょっと前までは下品なくらい甘いのが好みだったけど、今は専門店のとかも少しずつ買いに行きます」
「ふーん……いわゆるスイーツ男子ってヤツか」
「まぁ、そんなとこですかね。良かったらアイスコーヒー飲んで下さいね」
村川くんは慣れた手つきでグラスに注いだ飲み物を夏らしい柄のコースターに乗せてこっちまで持って来てくれた。
「ちなみにこのチョコレートは大学時代の友達に教えてもらった店のです。就職してから会わなくなっちゃったけど、俺が定期的に買ってるんです」
それから村川くんはこれまたお洒落な柄や綺麗な形のチョコレートを乗せた小皿も出してくる。
「わあぁ……有名なショコラティエのチョコレートって感じですね」
夏実は彼の出したスイーツに目を輝かせていた。
「そうそう、まさにそれって感じの。
……あとこれ、水出しコーヒーなんだけど夏実ちゃんは苦いの苦手かな? ミルクやシュガーシロップ要る?」
「チョコレートあるし、ミルクお願いします!」
村川くんは笑顔で夏実にミルクや砂糖が必要かを確認した後で「一応」とばかりに俺の方も向き、
「広瀬さんは無しで良いですね」
と勝手に判断してキッチンに戻っていった。
(おいおい、俺にも訊いてくれよ。確かにブラックで構わないんだけどさぁ。
要るかどうか確認されたとしても「要らない」と答えるかもしれないけどさぁ)
俺の彼女にあんなイケメン笑顔見せておいてこっちにはサラッとスルーしたような表情で「お前は無しで良いよね」みたいにサラッと流されるのもどうかと思う。
3ヶ月一緒に仕事してるから村川くんとしては「訊くほどの事じゃない」って意味なのかもしれないけど。
「鍵開けてきますね!」
エレベーターが到着するなり、村川くんは夏実からサッと離れて廊下を先に通って行ってしまった。
「夏実」
エレベーターの中に居ても何も出来なかった悔しさはあるものの、解放された夏実の腕を掴んでグッと抱き寄せる。
「どうしたの湊人」
「どうしたのじゃねーよ! 村川くん、ヤバくなかったか?」
彼の後についていくように俺らも廊下を渡りながらコソコソと会話する。
「ヤバいって何?」
「どう考えてもヤバかっただろ、さっきまで夏実の腰に手を回してきたし」
俺の指摘に夏実は何故かキョトン顔をする。
「確かに最初はビックリしたけど、そこまでじゃなかったよ? 会話も普通だったし」
「えっ!?」
(普通だと?!! 2人の背後から見た俺には全く普通に感じられなかったんだが!!)
「それになんか……昔の湊人に似てるなぁって、ちょっと思っちゃった」
夏実はイラつく俺の方を見上げて、照れ臭そうにそう言う。
「昔の俺?」
「うんっ♪」
夏実は頷くと今度は俺の腕に両腕を絡めて胸をムニムニさせながら、村川くんが開けた扉へと俺ごと連れ込もうとする。
「大したことない普通の部屋ですが、どうぞ」
俺らに微笑みかけながら部屋の中を案内する村川くんの姿や声に注目して
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎながら「眼鏡もかけた事ないし、声も俺よりは低くないし似てないだろ」という感想を持つ。
「お邪魔しまーす♪」
夏実の方はというと、駅で待ち合わせした時とは違いリラックスした様子で楽しげな声を上げている。
そして夏実の目線は村川くんにまっすぐ向けられていてちょっとこっちの気持ちに靄がかかってすごく嫌な感じだ。
「こっちがリビングなんでどうぞ♪」
夏実に合わせて語尾に音符がついてそうな声色で村川くんは廊下の先にある扉に手を向けた。
(夏実への腰抱きは流石にもうしないか)
さっきのは本当に俺に向けた牽制だったようで、悪ノリまではしないタイプのようだ。
「あの、これ手土産……大した物じゃなくて申し訳ないんだけど」
扉を開けられた先に入った部屋は広いLDK。
村川くんはすぐにキッチンに立ってしまったので、カウンター越しからランチ後に購入したスイーツショップの焼き菓子詰め合わせが入った紙袋を村川くんに見せる。
村川くんはその時冷蔵庫から麦茶ボトルのようなガラス製のボトルを取り出していて、俺がチラ見させた紙袋のロゴを目にした途端に表情をパアッと明るくさせた。
「その店!! 最近テレビで紹介されてましたよね!?」
「えっ?」
村川くんの強い口調と瞳の煌めきにたじろいで、思わずテーブルの席に座っていた夏実に助けを求める。
「多分紹介されてたのはチョコレート専門店の方かもしれないです。そちらは最近お店出したんで」
「あー……そうなんだぁ」
夏実の返答に村川くんは眉を下げて軽く落ち込んだ様子だった。
「え? 村川くんってチョコレート好きなの?」
チョコレートじゃなくて悪かったな。という気持ちと、他人が持ってきたものに対してあからさまに落ち込むなよ。という気持ちが入り混じりながら、俺は夏実の隣に座る。
「甘いの全般好きなんですけど、特にチョコレートが好きですね。ちょっと前までは下品なくらい甘いのが好みだったけど、今は専門店のとかも少しずつ買いに行きます」
「ふーん……いわゆるスイーツ男子ってヤツか」
「まぁ、そんなとこですかね。良かったらアイスコーヒー飲んで下さいね」
村川くんは慣れた手つきでグラスに注いだ飲み物を夏らしい柄のコースターに乗せてこっちまで持って来てくれた。
「ちなみにこのチョコレートは大学時代の友達に教えてもらった店のです。就職してから会わなくなっちゃったけど、俺が定期的に買ってるんです」
それから村川くんはこれまたお洒落な柄や綺麗な形のチョコレートを乗せた小皿も出してくる。
「わあぁ……有名なショコラティエのチョコレートって感じですね」
夏実は彼の出したスイーツに目を輝かせていた。
「そうそう、まさにそれって感じの。
……あとこれ、水出しコーヒーなんだけど夏実ちゃんは苦いの苦手かな? ミルクやシュガーシロップ要る?」
「チョコレートあるし、ミルクお願いします!」
村川くんは笑顔で夏実にミルクや砂糖が必要かを確認した後で「一応」とばかりに俺の方も向き、
「広瀬さんは無しで良いですね」
と勝手に判断してキッチンに戻っていった。
(おいおい、俺にも訊いてくれよ。確かにブラックで構わないんだけどさぁ。
要るかどうか確認されたとしても「要らない」と答えるかもしれないけどさぁ)
俺の彼女にあんなイケメン笑顔見せておいてこっちにはサラッとスルーしたような表情で「お前は無しで良いよね」みたいにサラッと流されるのもどうかと思う。
3ヶ月一緒に仕事してるから村川くんとしては「訊くほどの事じゃない」って意味なのかもしれないけど。
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