【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と彼女の事情

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(そりゃ、野崎さんも滉も「広瀬主任」に失望し嫌悪感を抱くよなぁ……塩対応されるのも当然だ)

「滉は、その広瀬主任の彼女が夏実だと気付かなかったのか?」

 1ヶ月半程のタイムラグがあるとはいえ、どちらも滉の周囲で起こっている出来事とは気付かなかったんだろうか?と俺が質問してみたのだが

「いや、それは思わなかったなぁ。なつことおっさん付き合いだしたのが夏休み前で、広瀬主任の彼女バレしたのが夏休み終わる頃だろ?
なつこに勉強教えられるくらい頭良い大人の男が、プライベートを会社にバラすなんて低俗なポカやらかすなんて思いもしなかったし、『主任』って言ってたからおっさんよりもっと歳上だと思ってたし」

 例の間抜けな会社バレの所為で「夏実の彼氏はそんな馬鹿な人じゃないだろう」とチビガキに思われたという事実に心を抉られる。

「低俗で悪かったな……っていうか、俺だって嬉々としてバラした訳じゃねぇし」
「おっさんの今の様子だとそうなんだろうな」
「いやまぁ、バレちゃいけない先輩にバレちゃった時点で俺が悪いんだけど」
「おっさん側から見た会社バレの話も最近ゆづきちゃんの話として姉ちゃんを経由して俺も知ったからなんつうか……お気の毒にっていうか」

 そして18にもなっていない男子高生に「ゲス顔のチャラい先輩にバレちゃって気の毒っすね」的な気の遣いをされたのも恥ずかしい。

「そこも筒抜けか。野崎さんそれについてなんか言ってた?」
「んー……なんか色々言って呆れてたけど『バラした人も悪いけど、迂闊うかつなのはバレた方』って最後の方は言ってた」
「やっぱそうだよな」

(あー、どうせ俺が馬鹿なのが悪いんですよーってか……)

 こういう状況って、一体どういうもので言い表せば良いのだろうか?
 例えば短い線ばかりのものが辺り一面に散らばっていて、それが今一つに繋がっていっている実感があるのだが、俺の作り出した線自体が拙いものばかりで出来上がった線がなんとも間抜けで不恰好な一本になってしまい、いっそのことそれごと丸めて今すぐに捨ててしまいたくなるような恥ずかしさが今ある。

「……とまぁ、これが理由って訳だ。姉ちゃんは、今はおっさんに対して失望してなければ男としても何とも思ってないし。今話した事をおっさんにバラすのも姉ちゃんから了承を得ている」

 滉が飲んでいたグラスが空になったのか、テーブルに頭をくっ付ける俺の耳元で氷が動く音とグラスの底がテーブルにぶつかる音が同時に聞こえ、次に炭酸飲料を注ぐ爽快的な音も聞こえてきた。

「ん?」

 爽快な音が俺の頭を起こし、首を傾げさせる。

(ん?? またこいつ変な事言わなかったか?)

「野崎さん、未だに俺を嫌ってそうな態度とってるんだが?」

 顔をあげると同時に、視界に収めた滉の表情はキョトンとした様子で

「いや……少なくともここ半年くらいは広瀬主任を気持ち悪いとかいう愚痴すら聞いてないけど。っていうか、姉ちゃん今は彼氏いるから他の男がどうとか全く考えてないんじゃないか?」

 とか言う。

「かれし????!!!!!」

 改めてそのワードで俺の目は点になった。

「なんだよ馬鹿にすんなよ! 姉ちゃん25だし彼氏くらい居るっつーの!!」

 怪訝な目で睨む滉に俺は慌てて首を横に振りながら言い方を変える。

「いやいや野崎さんに彼氏居るのがどうとかじゃなくてさ、本当に野崎さんは俺を嫌ってないのか? 俺に対する態度、本当に変わらずの塩対応だぞ?」
「ああ……」

 滉はと小さく言ってゴクゴク喉を鳴らし

「姉ちゃん……ポーカーフェイスだからなぁ」

 と、息を吐きながらそんな風に言う。

「あれ、ポーカーフェイスっていうか? いうのか本当に」
「でも事実なんだから仕方ないだろ。俺は嘘言ってねぇから」
「いや別に滉が嘘ついてるって疑ってるんじゃなくて」
「じゃあ姉ちゃんに『おっさんまだ勘違いしてるからなんも面白くなくても笑ってみて』って言っとく」
「いや、面白くないのなら無理に笑ってもらわなくてもいいんだが」
「はいー、この話終わりー! ごちそうさまー!」

 滉は急に俺との話をぶった切ると、腰をあげ立ち上がった。

「あっ……おいっ!」
「話したい事は大体済んだから帰る。そもそもこんな話なつこの前じゃ出来ないだろ? 今日しかチャンス無くてここに寄っただけだから」

 俺を見下ろしながらそんな事を言う滉を見つめて、俺は改めてこいつがこんな時間にいきなり訪ねてきたのかその意味を頭の中で探った。

「そう言えば滉、家に来た理由を『色々』って言ってたけど、それって部屋の偵察と姉のプライベート話だけって意味だったのか? まだなんかあるんじゃねぇの?」

 部屋の偵察は置いとくとして、姉のプライベートな内容を一方的にバラすなんておかしいんじゃないだろうか?同じくバラすなら野崎さん本人から直接聞かされる方が筋が通っている。
なんでわざわざバトンリレーみたいな方法をこのガキは取ったのか、今の説明だけでは不明瞭だ。

「それは……」

 俺の発言に対して一瞬で焦り顔を見せる滉の表情に、俺も立ち上がってその顔に目線を逸らさぬまま、今度はこっちが見下ろす。

「他にも言いたかった事でもあるんじゃないのか夏実の事でも姉絡みの事でもない、何か別の理由が」

 また顔を近付けたら絶対に押し返されてしまうから、一定の距離を保ったまま言葉のみで滉に詰め寄ると、滉は口をアワアワさせつつも

「ねぇし!! 何にも!!」

 と、明らかに動揺し声を上擦らせながらリビングを出て行く。

「おい滉っ」

 いそいそと玄関で靴を履き、靴紐を結び直す滉の背中に呼び掛けると

「ん~~~~」

 と、滉は背中を細かく震わせて唸り声みたいなものを数秒あげ

「んっ」

 と、鼻にかかる音を出して俺の方に振り返り

「茉莉からノート受け取りましたぁ! 早速今週のテストに活用させていただきましたぁ! ありがとーございましたぁ!!!」

 と、小学生が年長者向かってクラス一斉に御礼の言葉を言うみたいな言い方で、ペコッとお辞儀すると

「どうせまた明日か明後日の夜に会うと思うけど、じゃあなおっさんっ!」

 と、また後ろを向いてドアを開けながら俺にそう言い……帰ってしまった。


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