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彼女と俺の可愛い甘え
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俺がビールジョッキを掴んだのは、同席していた女の挑発に乗ってしまったからだ。
「酒が飲めないなんてダサ過ぎる。ビールくらい飲めるようにならなきゃこの先社会人となる時に困る筈だ」
「自分が鍛えてやるからこのジョッキを空にしてみろ」……思えば、昨夜の鏑木さんと言動がソックリだ。なんとなく容姿も似ていたような気もする。
その女は友人の想い人でもなんでもなかったのだからやはりシカトしても良かったのだが、俺の携帯に送りつけた何十何百というメールの主がその女によるものだと知り、俺は余計に腹が立って一杯どころか何杯も飲み続けたのだった。
「一応さ……聞いたよ? お母さんからもおばちゃんからも、ビールを大量に飲んで酔っ払った湊人が何をしたのか。
でも、物を壊した訳じゃなくて、態度の悪い女の人をクドクド叱ったってだけじゃん。そんな湊人がお酒を10年我慢しなきゃ行けなくなる程の行動でもなかったんじゃないかなって私は思うよ」
夏実はテーブルの真ん中に置いていたメンチカツの大皿を持ち上げ、温め直しを始めた。
「夏実……」
「湊人は10年前も、昨夜も『自分のした事は見苦しい』って思うのかもしれない。だけど、10年前の女の人だって昨夜の社員さんだって、やっぱり一度は誰かに叱られないといけないような言動をしたんだよ。じゃないとこの先もっとその人達は迷惑をかけてしまうから」
「……」
「私は湊人に叱られまくってきた人間だから分かるの。湊人は絶対に理不尽な叱り方をしない。寧ろ、相手に1番良い効果を与える言葉で真面目に真摯に叱るんだよ。
私は10年前も、昨夜も、湊人がそういう立場となって女の人の考えを良い方向に変えられたんじゃないかなって信じてる……勿論それは、私が湊人を特別好きだからっていうのもあるんだけどさ。」
「でも」
「要はさ、アルコールそのものが悪いんじゃなくてアルコール摂取量の問題じゃないかなって私は思うんだ!!」
「??!」
メンチカツの温めが完了した夏実が、再び大皿をテーブルの真ん中に置くと、俺の背中をグイグイ押して椅子に座らせる。
(アルコール摂取量??! 急に何を言い出すんだ夏実は!)
さっきまでの話と唐突に彼女の口から飛び出した「アルコール摂取量」の言葉が繋がらず俺は困惑する。
夏実はそれでも平然とした顔付きで桃の缶チューハイを開封すると、グラスに半分ほど注いで俺の手に持たせた。
「一気にいっぱい飲むから酷い酔っ払い方をするんだよ! アルコールの低い飲み物を、ゆっくり飲めばきっと湊人もお酒を楽しめるんじゃないかな?」
そして自分のグラスには桃入りのミックスジュースをやはり半分程度注いで俺のグラスとカチンと接触させた。
「夏実は……酔っ払った人嫌いだろ? 和明さんの酔った顔を見ては毎回辟易してんのに」
「それは摂取量や飲み方の問題だって、私も昨日学んだの。
同じ熱燗同じ日本酒でもお父さんみたいな飲み方だと他人に迷惑かけてしまうけど、静華さんみたいにしっとりゆっくりと味や香りを味わいながら飲んだらとっても素敵でかっこいいんだって」
「えっ? 静華??」
そして、夏実の口から「静華」の名前がちょいちょい出ている事にもようやく気付く。
(そういえばこのチューハイは静華に買ってもらったって言ってたな。
文化祭ではあんなに静華へ敵意を向けて嫉妬していたのに、この数日でまた仲良くなったのか?)
静華が飲酒する姿は、俺の記憶する限りあの焼き肉ディナーでの赤ワインしかチャンスが無かったはずだ。
夏実は赤ワインではなく熱燗などの日本酒を例にあげたのだから、俺の知らない内に静華と夏実が会ってその場を見たという事になる。
「静華さんね、お父さんと日本酒の飲み方が全然違うの! すっごく素敵で綺麗でかっこいいの。お父さんみたいに顔が真っ赤にならないの!!」
「顔が真っ赤にならないのは単に静華が酒に強い体質だからって理由だろ……」
「湊人自身はどうか分かんないけど、おじちゃんもおばちゃんもお酒に強い体質でしょ。おじちゃん、今は飲んでないだけで湊人にも素質はあるんだよ」
「確かに……」
「おじちゃんの親戚も、おばちゃんの親戚も、みーんなお酒大好きでめちゃくちゃ飲むじゃん!!」
「……確かに」
「亮輔さんからは『昨夜湊人は日本酒を2合くらい飲んだ』って言ってたし、10年前だってビールをいきなり沢山飲んだんでしょ? 少しずつ飲めば絶対に変な事にはならないよ」
確かに夏実の言い分には一理ある。
10年前震えて泣く幼い夏実を振り払ってまで酒を飲んだ結果所謂大魔王状態となったから酒を飲む事を躊躇ったのであって10年前や昨夜のように一気に大量にアルコールを摂取しなければ普通に酒を楽しめるのかもしれないのだ。
「酒が飲めないなんてダサ過ぎる。ビールくらい飲めるようにならなきゃこの先社会人となる時に困る筈だ」
「自分が鍛えてやるからこのジョッキを空にしてみろ」……思えば、昨夜の鏑木さんと言動がソックリだ。なんとなく容姿も似ていたような気もする。
その女は友人の想い人でもなんでもなかったのだからやはりシカトしても良かったのだが、俺の携帯に送りつけた何十何百というメールの主がその女によるものだと知り、俺は余計に腹が立って一杯どころか何杯も飲み続けたのだった。
「一応さ……聞いたよ? お母さんからもおばちゃんからも、ビールを大量に飲んで酔っ払った湊人が何をしたのか。
でも、物を壊した訳じゃなくて、態度の悪い女の人をクドクド叱ったってだけじゃん。そんな湊人がお酒を10年我慢しなきゃ行けなくなる程の行動でもなかったんじゃないかなって私は思うよ」
夏実はテーブルの真ん中に置いていたメンチカツの大皿を持ち上げ、温め直しを始めた。
「夏実……」
「湊人は10年前も、昨夜も『自分のした事は見苦しい』って思うのかもしれない。だけど、10年前の女の人だって昨夜の社員さんだって、やっぱり一度は誰かに叱られないといけないような言動をしたんだよ。じゃないとこの先もっとその人達は迷惑をかけてしまうから」
「……」
「私は湊人に叱られまくってきた人間だから分かるの。湊人は絶対に理不尽な叱り方をしない。寧ろ、相手に1番良い効果を与える言葉で真面目に真摯に叱るんだよ。
私は10年前も、昨夜も、湊人がそういう立場となって女の人の考えを良い方向に変えられたんじゃないかなって信じてる……勿論それは、私が湊人を特別好きだからっていうのもあるんだけどさ。」
「でも」
「要はさ、アルコールそのものが悪いんじゃなくてアルコール摂取量の問題じゃないかなって私は思うんだ!!」
「??!」
メンチカツの温めが完了した夏実が、再び大皿をテーブルの真ん中に置くと、俺の背中をグイグイ押して椅子に座らせる。
(アルコール摂取量??! 急に何を言い出すんだ夏実は!)
さっきまでの話と唐突に彼女の口から飛び出した「アルコール摂取量」の言葉が繋がらず俺は困惑する。
夏実はそれでも平然とした顔付きで桃の缶チューハイを開封すると、グラスに半分ほど注いで俺の手に持たせた。
「一気にいっぱい飲むから酷い酔っ払い方をするんだよ! アルコールの低い飲み物を、ゆっくり飲めばきっと湊人もお酒を楽しめるんじゃないかな?」
そして自分のグラスには桃入りのミックスジュースをやはり半分程度注いで俺のグラスとカチンと接触させた。
「夏実は……酔っ払った人嫌いだろ? 和明さんの酔った顔を見ては毎回辟易してんのに」
「それは摂取量や飲み方の問題だって、私も昨日学んだの。
同じ熱燗同じ日本酒でもお父さんみたいな飲み方だと他人に迷惑かけてしまうけど、静華さんみたいにしっとりゆっくりと味や香りを味わいながら飲んだらとっても素敵でかっこいいんだって」
「えっ? 静華??」
そして、夏実の口から「静華」の名前がちょいちょい出ている事にもようやく気付く。
(そういえばこのチューハイは静華に買ってもらったって言ってたな。
文化祭ではあんなに静華へ敵意を向けて嫉妬していたのに、この数日でまた仲良くなったのか?)
静華が飲酒する姿は、俺の記憶する限りあの焼き肉ディナーでの赤ワインしかチャンスが無かったはずだ。
夏実は赤ワインではなく熱燗などの日本酒を例にあげたのだから、俺の知らない内に静華と夏実が会ってその場を見たという事になる。
「静華さんね、お父さんと日本酒の飲み方が全然違うの! すっごく素敵で綺麗でかっこいいの。お父さんみたいに顔が真っ赤にならないの!!」
「顔が真っ赤にならないのは単に静華が酒に強い体質だからって理由だろ……」
「湊人自身はどうか分かんないけど、おじちゃんもおばちゃんもお酒に強い体質でしょ。おじちゃん、今は飲んでないだけで湊人にも素質はあるんだよ」
「確かに……」
「おじちゃんの親戚も、おばちゃんの親戚も、みーんなお酒大好きでめちゃくちゃ飲むじゃん!!」
「……確かに」
「亮輔さんからは『昨夜湊人は日本酒を2合くらい飲んだ』って言ってたし、10年前だってビールをいきなり沢山飲んだんでしょ? 少しずつ飲めば絶対に変な事にはならないよ」
確かに夏実の言い分には一理ある。
10年前震えて泣く幼い夏実を振り払ってまで酒を飲んだ結果所謂大魔王状態となったから酒を飲む事を躊躇ったのであって10年前や昨夜のように一気に大量にアルコールを摂取しなければ普通に酒を楽しめるのかもしれないのだ。
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