この花言葉を君に

silverchaff

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本編

165㎝の夕紀2

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「夕紀さん、来月のブレンドレシピを考えたので後で見ていただきたいんですけど」

 この日も慌ただしく時間が過ぎ、もう閉店クローズ間際。
 そのタイミングで朝香が、焙煎室に居る夕紀の前に顔を出し、ブレンド豆のサンプル品を持ってきた。

「いいよ。今月のブレンド、すごく好評でめちゃくちゃ売れてるから私も楽しみ♪ 今お客さん居ないならレシピ見るけど」
「分かりました! すぐにレシピノート持ってきます!」

 丁度手がいたところだったので笑顔を向けると、朝香は急いでスタッフルームの中へと入っていく。

「朝香ちゃんは純粋に珈琲が好きなんだなぁ……」

 パタパタと小走りする彼女の背中を見つめながら夕紀は思っている事そのままを呟き

(幼い頃からお母さんの美味しい珈琲とお父さんのコーヒーカップに親しんでいたんだから、ある種英才教育ってやつよねぇ……)

 と感心した。

 夕紀がこの店をオープンしたばかりのころ、高校生になったばかりの朝香から電話があり「高校卒業したら『雨上がり珈琲店』を手伝いたいです!」といきなり直談判された。有り難い話ではあったが彼女の最終学歴が高等学校であって本当に良いのかを気にした夕紀が村川夫妻に相談したところ、すんなりとOKをもらって拍子抜けしたものだ。夕紀は「彼女が将来他に就職する際困らないように」と大学進学を提案したものの「彼女の人生に大卒の学歴が必須であるとも言えない」というのが村川家3人の総意であったのだという。

 確かに朝香は学歴など気にしなくて良いくらいに社会性豊かで人当たりが良く、接客や配達など臨機応変に動いてくれている。彼女の貢献度は高いし、プライベートでは亮輔という運命的なパートナーと出会い楽しく過ごしているようだ。

 そんな朝香には1年ほど前より月限定のブレンドを一から任せている。
 自己研鑽けんさんに励む彼女のブレンド豆はお客様に好評で、次の新作レシピを見せてくれるのが楽しみだった。

「まだテスト段階なんですけど……」

 朝香が持ってきたレシピノートを夕紀が読み込み、密閉容器に入った焙煎豆の色味を目視して

「試しに淹れてみるわね」

 と、返事してカウンターへと歩を進める。

「はい! お願いします!」
「初恵さんはまだ店の作業してるだろうから試飲持っていってもいいかしら?」

 豆は30gあるようだったので隣の八百屋を指差しながら朝香に問うと

「良ければ是非是非!!」

 と、にっこり笑ってくれた。朝香はやっぱり優秀で可愛い。

「じゃあ、淹れるわね」

 静かに閉店作業をする朝香を尻目に、夕紀は早速電動ミルできペーパードリップでゆっくりと落としてみる。

「その豆、夕紀さんから頂いたロースターで焙煎してみたんです」

 掃除を終わらせた朝香がハンドドリップ中である夕紀の立ち位置まで駆け寄ってきた。

「この前の誕生日プレゼント、早速使ってくれて嬉しいなぁ♪」

 先月末21歳を迎える朝香には、誕生日プレゼントとしてチタン製の高級ハンドロースターを渡していた。
 日々の研鑽の役に立ててくれればと思ったのだけれど、こうしてきちんと仕事に活用してくれるのは店主マスターとして非常に嬉しい。

「頂いた直後は『もったいなくて使えない』って思っちゃいましたけどいざ使ってみると便利だし綺麗に焼けたんです」
「家庭でも使えるテスト用ロースターだから熱伝導の面で金属ロースターに負けちゃうの。とはいえキッチン焙煎する朝香ちゃんは偉いわよね。私なんてわざわざ家に帰ってまでやろうとは思わないから」
「去年のブーツもですけど、素敵なプレゼントを今回もありがとうございます!」
「どういたしまして」

 従業員であっても誕生日プレゼントを贈り、喜んでもらえるのは幸せな事だ。
 
(ブーツもロースターも……出来る事なら皐月に贈りたかったんだよなぁ)

 「実の妹に20歳の祝いも21歳の誕生日プレゼントも贈れなかったから」というよこしまな想いを含んでしまってはいるが、去年も今年も朝香の欲しがりそうなデザインや仕様にこだわって真面目に誠実に選んで手渡して本当に良かったと夕紀は思っている。


 サーバーに入ったコーヒーを軽く揺らしながら紙コップに注いでいく。
 今月は甘い香りだったけれど、今回のはまた違った香りがする。

「秋が深まって紅葉も始まるじゃないですか。コクが深いけどクドくない感じを目指してみたんですけど……」

 夕紀が香りや味を確かめているそばで朝香が丁寧に説明してくれる。

「紅葉を見に行った先で、家から持ってきたコーヒーを飲むイメージって事?」
「そんな感じです」
「なるほどね」

 朝香が構築したものを脳内に描きながら、夕紀は出来上がったコーヒーを口に含んだ。

「どう……ですか?」

 10月のブレンドが好評だったからこそ、プレッシャーがかかっているのかもしれない。もっとリラックスすれば良いのに弟子の表情は硬くかなり緊張しているようだった。

「そうね……来週入ってくる新豆をサブに使ったら良いんじゃないかな。もっと後味スッキリして朝香ちゃんの思い描くイメージにより近くなりそう」

 だから夕紀は店主マスターの顔をチラつかせながら優しくアドバイスする。

「来週入荷する豆って、仕入れ値段が高くなってましたよね?」
「だからサブに使うの。入荷したら生豆なままめあげるから試してみて」
「ありがとうございます。もう一回やってみます!」

 すると朝香の顔はパアァっと明るくなった。

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