【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

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本編

上原亮輔の兄5

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(えっ? 「? アパート??)

 質問にはとりあえず頷いてみせた朝香だったが、頭の中ではクエスチョンマークを浮かべている。
 勿論その直前の「金髪モジャモジャ」や「エグピアス」といった表現も変だと感じているし「彼女」のワードに頷いてしまった自分の大胆さも恥ずかしくて赤面してしまう。
 だがそれよりも一番驚いたのは、自分や向日葵さんが住んでいる一人暮らし向けアパートが、さもであるかのような言い回しをしたコンビニ店長の存在で……。

「あ……ごめん、説明し忘れてたんだけど。俺達が住んでるアパートや周辺の建物や土地の幾つかは上原家のものなんだよ」
「!!!!!!」

 更に向日葵さんから補足説明を受けて更に驚く。

(向日葵さんのご家族は資産家??!!!)

 目の前でにこやかな表情を向けている向日葵さんの兄はただのコンビニ店長ではなかった。その事実に驚いたが、すぐに朝香は

(だからあの高級車やバイクや服……!)

 疑問に思っていた事柄が「上原家のもの」の言葉で繋がり、納得してコクコクと首を前後に動かした。

(まさかコインランドリーの上にあるマンションもそういう……。
 って事は、私って凄いお家の次男さんとお付き合いしてるって意味に……あわわ)

 思った以上に凄い兄弟なのだと知った朝香は思わず後退りして彼らから離れようとするも

「そっかぁ~♪ そうなんだね~~♪ 亮輔もだけど、お世話になっております♪」

 と、ニコニコ顔で朝香と間合いを詰めながら会釈する。

「あっ、いえっ……その! 今まで管理されてる方の事よく分かってなくてこちらこそすみません」

 どうすればいいのか分からない朝香はプルプル震えながらよく分からない謝りをした。
 今住んでいるアパートを契約してくれたのも振り込み先を朝香の通帳引き落としに処理したのも朝香の父であり、アパートの管理会社の名称も担当者も把握していなかった。そもそも日祝以外の日中は珈琲店で働いているので大家さんに当たる人と今まで顔を合わさなかったのは当然で不可避でもある。

 震える朝香、恥ずかしがっている向日葵さんに対し、コンビニ店長兼アパートの管理人はニコニコ顔を崩さない。

「いえいえ、これまで顔を合わさなかったって事は大したトラブルもなくお客様が安心して過ごせている証拠ですから。
 っていうか亮輔の隣にこんな可愛い子が住んでるんだったらいくらでも家賃交渉してあげるのに♪」

 寧ろ余裕ある心持ちで朝香に家賃値下げの話をぶら下げてきた。

「いえいえそんなそんなっ!」

(アパートを管理されてる方がこんな長身のハンサムさんだなんて向日葵さんから事前知識貰わなければ想像もつかないし、今もこんな風に美しい微笑みを私に向けてくるなんて夢なんじゃないかとさえ思うし!!)

 兄弟共にイケメンなので、更に朝香は慌てふためく。

(イケメンという言葉よりもハンサムの言葉が似合うお兄さん……)

 ハンサム男性に初対面で家賃交渉とか言われても恐縮して頭が追いつかないのだ。

「こいつの家賃を半額にしてるの俺の権限だなんで。他の物件は母と姉貴がやってるんですが、あのアパートとマンション一軒、あとは何ヶ所かの駐車場かな。俺が受け持ってるのはそんなもんなんですよ」

 そう言いながらハンサム男性はニコニコ顔で向日葵さんを指差して説明してくれても

(アパートとファミリー向けマンションと駐車場何ヶ所かで程度……いやいや! それだけでも充分凄いんですが!!!!)

「えっと……私は学生ではなく働いているので家賃は払えるんです。勤務先に転勤はありませんから長くお世話になりますし。
 ひまわ……じゃなかった、亮輔さんは学生さんでフルタイムで働けないから家賃半額にされるのは良いと思うんですが私まで下げられるのは申し訳ないと言いますかっ」

 そもそも彼らは兄弟なのだから家賃値引きは家庭内で簡単に処理出来るのだろうが、赤の他人である朝香までお世話になるわけにいかない。そこは両手を横に振って家賃値引きの件を断った。

「でも若い女性だったらお金もっと自由に使いたいんじゃないの? まして長期で住んでもらうこと考えてらっしゃるのなら是非値引きさせて下さいよ」

 けれども彼はニコニコ顔をキープしたまま一歩も引かない。

「でも」
「今度お時間が合えばその話を詰めましょう。その際、貴女あなたの契約書を用意しておきますから」
「ええ……」

(そんな事、本当にしてもらってもいいのかな?)

 向日葵さんに助け舟を出してもらおうと目配せしようとした朝香であったが、丁度のタイミングで客が入店してきてしまい、向日葵さんはサッとレジについてしまった。
 
(ああっ……向日葵さんとアイコンタクトが取れないぃ)

「書類の準備が出来次第連絡します。連絡先を教えて下さいますか?」
「えっ? あぁ……はい」

 向日葵さんがそばに居ないのなら自分で判断するしかない。
 状況的にも彼からの強い圧に逃れられず、私はスマホを取り出す。

「じゃあ連絡先交換しましょ♪」
「はいぃ」
 
(うわぁ……言われるがままお兄さんとスマホで繋がっちゃった。向日葵さん心配してるかなぁ?)

 チラリとレジカウンターの方へ目線を遣ると、向日葵さんは客対応しながらもこちらをチラチラと目線を向けてくれており、数回目が合う。

「よし、後は帰って書類の準備か! 忙しくなるなこれは♪」

 「忙しくなる」と言っているのに向日葵さんの兄はウキウキ顔だ。
 メッセージアプリの友だち欄を見ると、「上原俊哉うえはらとしや」の名前が新しく追加されていた。

「まだ名乗ってなかったね。俺は上原俊哉と言います」
「村川朝香です」

 互いに名を名乗り、俊哉は何かを確かめるかのようにウンウンと頷く。

「じゃあえっと……ここでいろいろ買い物します! 卵とかお豆腐とか足りないものあるんでっ!」

 なんだか恥ずかしくなってきた朝香は、お店のカゴを取るなり買い物を始めた。
 向日葵さんは既に接客を終え今はレジカウンターで補充の作業をしていて、上原俊哉氏はというとその長身な身体をちっちゃな朝香の背後へピッタリとつきながらスマートに商品の位置直をしている。

「えっと、パンと卵と……あっ、冷凍食品も買わなきゃ!」

 高校時代、コンビニはお菓子くらいしか注目してこなかった朝香。こうして店内をゆっくりじっくり見回してみると意外にも商品数が多く種類豊富なのがよく分かる。
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