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本編
夏の向日葵5
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月曜日~土曜日まではお互いに忙しいが、日曜日は外デートを楽しめている。
都内に移り住んで2年目だが、観光すら出来ていなかった朝香の為に向日葵さんがオーソドックスな東京案内をしてくれたり、水族館や映画などデートの定番スポットへ連れて行ってくれたり。
夏休み期間でどこへ行っても混雑しているお出掛けで多少の鬱陶しさを感じたけれど、大好きな向日葵さんと一緒なら苦に感じないし、彼は花のヒマワリと同じように朝香を見つめてにこやかに接してくれるので非常に楽しかった。
「あー、配達のバイトもあと2週間くらいかぁ。楽しいから終わるのが少し寂しいよ」
「お花の配達、そんなに楽しいんだね」
「うん、田上家の皆さんもお客様もみんな優しくてさ。花を届ける仕事っていいなぁって思ってるところ」
「そっかぁ~向日葵さんにとって良い経験になってるんだね」
9月2週目に入った日曜日の夜。
お出掛けから帰ってきた朝香達は商店街からほど近いレストラン『 Jolie Mante』で名物のエビグラタンに舌鼓を打っていた。
店の出入り口には大きな花瓶にたくさんの花が生けられており、毎週土曜日に向日葵さんが届けている事を知っている朝香はそれを視界に入れただけでも微笑ましく感じてしまう。
「本当ならこの先ずーっとやり続けたいバイトだけど、大学の授業と被ってしまうからなぁ。土曜日なら出来るんだけど」
「平日は大学と深夜のコンビニで、土曜日も朝から配達バイトで……って、そんな生活続けてたら体が持たないよ?」
「夏休みの今がまさにそんな感じなんだから。大丈夫だよ」
「でも無理してほしくないなぁ。新しいアルバイトさんは10月から入るんでしょ?」
「うん……朝から昼過ぎまでにパートさんが短期で1人と夕方から閉店時間までの高校生が見つかったみたいだよ。残念ながら俺はお払い箱だね」
向日葵さんは溜め息をついてゆっくりと目を伏せていった。
長いまつ毛が散りゆく花びらのようにも見えて寂しさが朝香にもじんわりと伝わっていく。
「でも、新しい従業員さんが早めに決まったのは向日葵さんの頑張りのおかげだよ。向日葵さんが真面目にお仕事してたから健人さんだって『サンちゃんのおかげでどんな人を採用したらいいかイメージが固まったからすごく助かった』って言ってたし、向日葵さんのおかげで奥さんがゆっくり休めて入院も数日だけで済んだって言ってたし」
「奥園さんが入院ってなった時は健人さん青ざめていたからね。すぐに退院出来て良かったよ本当に」
「健人さんも奥さんも、美優ちゃんもみんな向日葵さんに助けられたんだよ。だから『お払い箱』じゃないんだよ」
短い契約期間の中で、向日葵さんは『フラワーショップ田上』に大変貢献していると朝香は商店街メンバーからも話を聞いているし奥さん入院中も真面目に取り組んでいる向日葵さんの様子を見掛けていたので彼の寂しげな「お払い箱」は首を振ってしっかりと否定したかった。
「ありがとう、あーちゃん。そんな優しい言葉をかけてくれるのはあーちゃんだけだよ」
マイナスワードである「お払い箱」を跳ね返したい朝香の気持ちが伝わったのか、向日葵さんは笑顔の表情に戻す。
「優しいあーちゃん大好き♡」
向日葵さんによる朝香への愛は日に日に深まり今では「溺愛」と言って相違ないくらいだ。
それ自体は朝香も非常に嬉しかったが
「お外で『大好き』は照れちゃうよぅ……」
同時に照れ臭くなる。
「じゃあ、あーちゃんのお部屋ならいっぱい言ってもいい?」
イケメンかつイケボで愛の言葉を囁かれたら全身が熱くなるし我慢出来なくなる。
「う……」
朝香は素直にコクンと頷くと
「可愛い♡」
向日葵さんはたまらず囁いてきたので
(んもぉ~! お外で囁いちゃダメぇ♡)
日頃からの耳責めを受けてるせいで、自分の内股が湿っていくのを感じる朝香。
「あっ……えっと! そうだ!! もうすぐ向日葵さんの誕生日だよねっ! 何か欲しいプレゼントってある?」
エビグラタンは食べ終わったが、この後デザートとドリンクが待ち受けている。
エッチな気分になりつつあったがまだ店を退出出来ないので、朝香は無理矢理別の話題を持ち出して意識の転換を試みた。
「誕生日?」
向日葵さんが不思議そうに自分自身を指差したが、すぐに
「それを言うならあーちゃんも誕生日でしょ。9月30日」
と言い返す。
「私よりも向日葵さんの方が先だよぅ。9月23日でしょ」
確かに9月30日は朝香の誕生日だが、向日葵さんはそれより1週間前。今優先されるべきなのは向日葵さんの誕生日なのだ。
「9月23日……あ、そっか」
それなのに、向日葵さんは「たった今思い出した」とでもいうようなリアクションを取っている。
「そうだよぅ。9月23日で向日葵さんは20歳になるんだから、大事なお誕生日だよ」
月曜日~土曜日まではお互いに忙しいが、日曜日は外デートを楽しめている。
都内に移り住んで2年目だが、観光すら出来ていなかった朝香の為に向日葵さんがオーソドックスな東京案内をしてくれたり、水族館や映画などデートの定番スポットへ連れて行ってくれたり。
夏休み期間でどこへ行っても混雑しているお出掛けで多少の鬱陶しさを感じたけれど、大好きな向日葵さんと一緒なら苦に感じないし、彼は花のヒマワリと同じように朝香を見つめてにこやかに接してくれるので非常に楽しかった。
「あー、配達のバイトもあと2週間くらいかぁ。楽しいから終わるのが少し寂しいよ」
「お花の配達、そんなに楽しいんだね」
「うん、田上家の皆さんもお客様もみんな優しくてさ。花を届ける仕事っていいなぁって思ってるところ」
「そっかぁ~向日葵さんにとって良い経験になってるんだね」
9月2週目に入った日曜日の夜。
お出掛けから帰ってきた朝香達は商店街からほど近いレストラン『 Jolie Mante』で名物のエビグラタンに舌鼓を打っていた。
店の出入り口には大きな花瓶にたくさんの花が生けられており、毎週土曜日に向日葵さんが届けている事を知っている朝香はそれを視界に入れただけでも微笑ましく感じてしまう。
「本当ならこの先ずーっとやり続けたいバイトだけど、大学の授業と被ってしまうからなぁ。土曜日なら出来るんだけど」
「平日は大学と深夜のコンビニで、土曜日も朝から配達バイトで……って、そんな生活続けてたら体が持たないよ?」
「夏休みの今がまさにそんな感じなんだから。大丈夫だよ」
「でも無理してほしくないなぁ。新しいアルバイトさんは10月から入るんでしょ?」
「うん……朝から昼過ぎまでにパートさんが短期で1人と夕方から閉店時間までの高校生が見つかったみたいだよ。残念ながら俺はお払い箱だね」
向日葵さんは溜め息をついてゆっくりと目を伏せていった。
長いまつ毛が散りゆく花びらのようにも見えて寂しさが朝香にもじんわりと伝わっていく。
「でも、新しい従業員さんが早めに決まったのは向日葵さんの頑張りのおかげだよ。向日葵さんが真面目にお仕事してたから健人さんだって『サンちゃんのおかげでどんな人を採用したらいいかイメージが固まったからすごく助かった』って言ってたし、向日葵さんのおかげで奥さんがゆっくり休めて入院も数日だけで済んだって言ってたし」
「奥園さんが入院ってなった時は健人さん青ざめていたからね。すぐに退院出来て良かったよ本当に」
「健人さんも奥さんも、美優ちゃんもみんな向日葵さんに助けられたんだよ。だから『お払い箱』じゃないんだよ」
短い契約期間の中で、向日葵さんは『フラワーショップ田上』に大変貢献していると朝香は商店街メンバーからも話を聞いているし奥さん入院中も真面目に取り組んでいる向日葵さんの様子を見掛けていたので彼の寂しげな「お払い箱」は首を振ってしっかりと否定したかった。
「ありがとう、あーちゃん。そんな優しい言葉をかけてくれるのはあーちゃんだけだよ」
マイナスワードである「お払い箱」を跳ね返したい朝香の気持ちが伝わったのか、向日葵さんは笑顔の表情に戻す。
「優しいあーちゃん大好き♡」
向日葵さんによる朝香への愛は日に日に深まり今では「溺愛」と言って相違ないくらいだ。
それ自体は朝香も非常に嬉しかったが
「お外で『大好き』は照れちゃうよぅ……」
同時に照れ臭くなる。
「じゃあ、あーちゃんのお部屋ならいっぱい言ってもいい?」
イケメンかつイケボで愛の言葉を囁かれたら全身が熱くなるし我慢出来なくなる。
「う……」
朝香は素直にコクンと頷くと
「可愛い♡」
向日葵さんはたまらず囁いてきたので
(んもぉ~! お外で囁いちゃダメぇ♡)
日頃からの耳責めを受けてるせいで、自分の内股が湿っていくのを感じる朝香。
「あっ……えっと! そうだ!! もうすぐ向日葵さんの誕生日だよねっ! 何か欲しいプレゼントってある?」
エビグラタンは食べ終わったが、この後デザートとドリンクが待ち受けている。
エッチな気分になりつつあったがまだ店を退出出来ないので、朝香は無理矢理別の話題を持ち出して意識の転換を試みた。
「誕生日?」
向日葵さんが不思議そうに自分自身を指差したが、すぐに
「それを言うならあーちゃんも誕生日でしょ。9月30日」
と言い返す。
「私よりも向日葵さんの方が先だよぅ。9月23日でしょ」
確かに9月30日は朝香の誕生日だが、向日葵さんはそれより1週間前。今優先されるべきなのは向日葵さんの誕生日なのだ。
「9月23日……あ、そっか」
それなのに、向日葵さんは「たった今思い出した」とでもいうようなリアクションを取っている。
「そうだよぅ。9月23日で向日葵さんは20歳になるんだから、大事なお誕生日だよ」
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