62 / 171
本編
秘密の待ち合わせ2
しおりを挟む「先に大事なお金の話をするからとりあえずドリンクだけ頼もうか。それとも何か食べたいものある?」
「食事は済ませたばかりなのでドリンクで充分です」
「そっか、亮輔と食べてたんだっけ? じゃあドリンクだけで」
俊哉はスマートにタッチパネルでドリンクバーを2人分注文してしまうと、「お先にどうぞ」と朝香をドリンクバーのカウンターへ促した。
(ファミレスのドリンクバーって久しぶりだなぁ。アレンジコーヒーも色々あって迷うけど、ここは敢えて紅茶にしてみようかな)
珈琲オタクの朝香ではあるが、紅茶もそれなりに好きでフレーバーティーも高校時代たまに専門店で購入していた。
(蘭子ちゃんが紅茶大好きで良く連れてってもらったなぁ)
ふと、高校の同級生であった長岡蘭子を思い出す。高3で関西へ引っ越してしまったので2年ほどの交友であったが今でも時々メッセージアプリで連絡を取り合っている。
(ここのところ忙しくて連絡出来てないんだよね。彼氏出来た報告も出来てないし、蘭子ちゃんも素敵な人もう居るのかもしれないなぁ……)
朝香は梨のフレーバーティーを選んで湯を入れたカップにゆっくりと浸す。
(妹の華子ちゃんも元気してるかなぁ。華子ちゃんはまだ小学生なのに蘭子ちゃんからいつも「朝香は華子にソックリ」って揶揄われてたなぁ……あ! いけないっ! お兄さんを置いてきぼりにしすぎたかも!! お兄さんの飲み物も聞いて用意しとけば良かったかなぁ)
友人との楽しい思い出に浸りながら席に戻る途中で、俊哉の飲み物も聞いて持ってくるべきだったと後悔する。
「ごめんなさい。上原さんのも用意するべきでしたよね……」
希望を聞いてすぐに取ってこようとしたけれど制止されて
「俺はとりあえず水でも良いから」
と、朝香に早く席に座るよう手の仕草を俊哉はしてくれた。
「……で、家賃変更の書類とか用意しようと思ったんだけどさ。よく考えたらあと半年で更新時期がきちゃうし、この時期で書類を作り直すのも面倒でさ」
俊哉はニコニコ顔でそう言うなり、スッと朝香の目の前に封筒を差し出す。
「え……」
かなり分厚い封筒に目を白黒させていると
「値引き2年分。受け取って♪」
サラリとそう言ってのける俊哉にまた驚いてしまう
「えっ!!!」
(えええええ?!! この時代にまさかの現金手渡し?!)
大きな声をあげてしまいたかったが、周囲の迷惑になるので口を両手で押さえて良かったと朝香は思ったが、何より目の前の封筒が恐ろしくてたまらない。
(2年分にしては分厚過ぎない??!)
無垢な高校生だったらそれでも指を伸ばして封筒に触れようと勇気を出せたのだろうが、社会人2年目の今となると恐ろしさが勝ってそれを見つめる事しか出来ないでいる。
「こんなに沢山のお金なんて受け取れませんよ!! ビックリします!!」
(詐欺みたいな分厚さだもん! 無理無理っ!!)
朝香が首をブンブン左右に振って受け取り拒否をお願いしても
「いや、いいんだ。亮輔をあのアパートに住まわせる時に20歳未満の住民は値引きする事を決めてたんだけど仲介業者に伝えるのをすっかり忘れててね。仲介業者は『値引きは学生対象』って勘違いしてたみたいで。駅や学校から離れてるからそもそも居住者に亮輔以外の学生さんが居なかったのもあるんだけど」
「でも」
「こちら側のミスだから受け取ってね。お願いします」
そう言って頭を下げられてしまったので封筒を鞄に入れるしかなかった。
「……分かりました」
「中に領収書と金額が入ってるんだけど、ちゃんとお家に着いてから開けてね」
しかもその念押しで、朝香は黙って頷くしかなくなる。
(この場で開けて中身を見たら受取らないだろうって予想した上での念押しなんだろうな……)
向日葵さんの兄だから顔のつくりや表情などが似ているのだが、彼からはコンビニ店長という枠では収まりきらない圧を感じる。
「ああそうだ! 来週は亮輔の誕生日だからプレゼント代の足しにしてよ。それなら受け取れるでしょう?」
「はい……」
1週間後の9月23日は向日葵さんの20歳の誕生日。
「プレゼントの足しに」という割には分厚い封筒なんだけど、ちょうど彼の好みに合うプレゼントを選んであげようとしていたので有り難く受け取る事にした。
「朝香さんからプレゼントもらったら、アイツ絶対に喜ぶよ」
(えっ? プレゼント、喜んでくれそうなの?!)
サラッと言ってのけた俊哉の言葉に朝香は目を見開かせた。
「え? そうなんですか??」
(あんなに興味なさそうだったのに、プレゼント大丈夫なのかな?)
「俺の知ってる限り、友達とか女の子とプレゼント交換の類いをした経験ないんだよね。クリスマスやバレンタインも楽しんだ様子ないし」
「……」
(そういえば向日葵さんって……)
俊哉の話から、朝香は気付いてしまった。向日葵さんから友人の話を一切聞いていないし過去の思い出話もほとんど聞かされていない事を。
(まぁ、私も蘭子ちゃんの話を向日葵さんにはしてこなかったけど)
が、それは向日葵さんが友人関係の話題を出してこないからだ。朝香もここ数ヶ月蘭子とメッセージを交わしてない所為もあるのだが。
「……ここからは雑談になるから食事させてね」
俊哉は落ち着いた口調でメニューを開いき、タッチパネルで注文を始める。
「君も何か食べる? パフェ美味しそうだよ?」
「いえ、本当にお腹いっぱいなので」
「そうじゃ、俺の食べ物だけで」
またスマートに俊哉が注文を終えると、朝香の飲み物のお代わりを聞かれてサッと席を立った。
それから間もなく、朝香の分のカップとアイスコーヒーが入ったグラスを手に戻り再び着席する。
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる