【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

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本編

秘密の待ち合わせ2

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「先に大事なお金の話をするからとりあえずドリンクだけ頼もうか。それとも何か食べたいものある?」
「食事は済ませたばかりなのでドリンクで充分です」
「そっか、亮輔と食べてたんだっけ? じゃあドリンクだけで」

 俊哉はスマートにタッチパネルでドリンクバーを2人分注文してしまうと、「お先にどうぞ」と朝香をドリンクバーのカウンターへ促した。

(ファミレスのドリンクバーって久しぶりだなぁ。アレンジコーヒーも色々あって迷うけど、ここは敢えて紅茶にしてみようかな)

 珈琲オタクの朝香ではあるが、紅茶もそれなりに好きでフレーバーティーも高校時代たまに専門店で購入していた。

蘭子らんこちゃんが紅茶大好きで良く連れてってもらったなぁ)

 ふと、高校の同級生であった長岡蘭子ながおからんこを思い出す。高3で関西へ引っ越してしまったので2年ほどの交友であったが今でも時々メッセージアプリで連絡を取り合っている。

(ここのところ忙しくて連絡出来てないんだよね。彼氏出来た報告も出来てないし、蘭子ちゃんも素敵な人もう居るのかもしれないなぁ……)

 朝香は梨のフレーバーティーを選んで湯を入れたカップにゆっくりと浸す。

(妹の華子はなこちゃんも元気してるかなぁ。華子ちゃんはまだ小学生なのに蘭子ちゃんからいつも「朝香は華子にソックリ」って揶揄われてたなぁ……あ! いけないっ! お兄さんを置いてきぼりにしすぎたかも!! お兄さんの飲み物も聞いて用意しとけば良かったかなぁ)

 友人との楽しい思い出に浸りながら席に戻る途中で、俊哉の飲み物も聞いて持ってくるべきだったと後悔する。

「ごめんなさい。上原さんのも用意するべきでしたよね……」

 希望を聞いてすぐに取ってこようとしたけれど制止されて

「俺はとりあえず水でも良いから」

 と、朝香に早く席に座るよう手の仕草を俊哉はしてくれた。

 
「……で、家賃変更の書類とか用意しようと思ったんだけどさ。よく考えたらあと半年で更新時期がきちゃうし、この時期で書類を作り直すのも面倒でさ」

 俊哉はニコニコ顔でそう言うなり、スッと朝香の目の前に封筒を差し出す。

「え……」

 かなり分厚い封筒に目を白黒させていると

「値引き2年分。受け取って♪」

 サラリとそう言ってのける俊哉にまた驚いてしまう

「えっ!!!」

(えええええ?!! この時代にまさかの現金手渡し?!)

 大きな声をあげてしまいたかったが、周囲の迷惑になるので口を両手で押さえて良かったと朝香は思ったが、何より目の前の封筒が恐ろしくてたまらない。

(2年分にしては分厚過ぎない??!)

 無垢な高校生だったらそれでも指を伸ばして封筒に触れようと勇気を出せたのだろうが、社会人2年目の今となると恐ろしさが勝ってそれを見つめる事しか出来ないでいる。

「こんなに沢山のお金なんて受け取れませんよ!! ビックリします!!」

(詐欺みたいな分厚さだもん! 無理無理っ!!)

 朝香が首をブンブン左右に振って受け取り拒否をお願いしても

「いや、いいんだ。亮輔をあのアパートに住まわせる時に20歳未満の住民は値引きする事を決めてたんだけど仲介業者に伝えるのをすっかり忘れててね。仲介業者は『値引きは学生対象』って勘違いしてたみたいで。駅や学校から離れてるからそもそも居住者に亮輔以外の学生さんが居なかったのもあるんだけど」
「でも」
「こちら側のミスだから受け取ってね。お願いします」

 そう言って頭を下げられてしまったので封筒を鞄に入れるしかなかった。

「……分かりました」
「中に領収書と金額が入ってるんだけど、ちゃんとお家に着いてから開けてね」

 しかもその念押しで、朝香は黙って頷くしかなくなる。

(この場で開けて中身を見たら受取らないだろうって予想した上での念押しなんだろうな……)

 向日葵さんの兄だから顔のつくりや表情などが似ているのだが、彼からはコンビニ店長という枠では収まりきらない圧を感じる。


「ああそうだ! 来週は亮輔の誕生日だからプレゼント代の足しにしてよ。それなら受け取れるでしょう?」
「はい……」

 1週間後の9月23日は向日葵さんの20歳の誕生日。
 「プレゼントの足しに」という割には分厚い封筒なんだけど、ちょうど彼の好みに合うプレゼントを選んであげようとしていたので有り難く受け取る事にした。

「朝香さんからプレゼントもらったら、アイツ絶対に喜ぶよ」

(えっ? プレゼント、喜んでくれそうなの?!)

 サラッと言ってのけた俊哉の言葉に朝香は目を見開かせた。

「え? そうなんですか??」

(あんなに興味なさそうだったのに、プレゼント大丈夫なのかな?)

「俺の知ってる限り、友達とか女の子とプレゼント交換の類いをした経験ないんだよね。クリスマスやバレンタインも楽しんだ様子ないし」
「……」

(そういえば向日葵さんって……)

 俊哉の話から、朝香は気付いてしまった。向日葵さんから友人の話を一切聞いていないし過去の思い出話もほとんど聞かされていない事を。

(まぁ、私も蘭子ちゃんの話を向日葵さんにはしてこなかったけど)

 が、それは向日葵さんが友人関係の話題を出してこないからだ。朝香もここ数ヶ月蘭子とメッセージを交わしてない所為もあるのだが。



「……ここからは雑談になるから食事させてね」

 俊哉は落ち着いた口調でメニューを開いき、タッチパネルで注文を始める。

「君も何か食べる? パフェ美味しそうだよ?」
「いえ、本当にお腹いっぱいなので」
「そうじゃ、俺の食べ物だけで」

 またスマートに俊哉が注文を終えると、朝香の飲み物のお代わりを聞かれてサッと席を立った。

 それから間もなく、朝香の分のカップとアイスコーヒーが入ったグラスを手に戻り再び着席する。



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