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本編
秘密の待ち合わせ4
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「本来ならこういった話は朝香さんと2人きりになれる場所でした方が適切なんだろうけど、それは亮輔が好まない。敢えてこういう混み合った空間を選んだのは弟である亮輔の心と身体を守る意味があるんだよ。人がこれだけ多かったら角の奥まったテーブル席なんて誰も気にしないから」
俊哉がこちらを真っ直ぐに見つめながらそう言った時点で朝香はようやく周囲を見渡し
(そういえばこのテーブル席、角にあって周りに目立ちにくい場所だ!)
この席が半個室状態になっている事に気付いた。
(えっ……でも、私この店に入って名前を名乗ってないし店員さんにそのまま席を案内されて)
だが、この席は22時の段階でたまたま空いており従業員には自分の素性を明かさないままここに座った筈である。約束を取り次ぎした俊哉は後から入店した。この席を確保したいのであれば俊哉から先に席に着いておかなければならないのだが……
「まぁ、ここの地域一帯は俺の家族が支えているようなもんだから♪」
俊哉は小声で囁き、朝香にウインクしてみせたので
「あっ……」
(色々理由つけて向日葵さんをコンビニへ向かわせるように仕向けたんだもんね……そりゃあここのファミレスの店員さんとも知り合いだろうし根回ししようと思えばいくらでも出来ちゃうのかぁ)
全てはこの日この時間朝香が俊哉と会う為にセッティングされたのだと理解した。
(この人ちょっと怖いなぁ……)
今までの話からして、上原家は相当な資産家でありこの地域を昔から支えてきた一族なのだろう。笠原グループをさらに大きくしたのは上原家が援助したと先程俊哉が漏らしていた。
20代後半でコンビニのフランチャイズオーナーをしている事自体凄いと朝香は思っていたが、実はそれは上原俊哉のほんの一部分でしかなくいくつもの顔を持っているのだと気付かされる。
(悪い人ではないんだろうけど……)
悪どいことを一切していないのだろうが、朝香の背筋はゾクッと震えた。
「えっと……朝香さんは亮輔とお付き合いを始めてどのくらい経つのかな? 2ヶ月? それとももう3ヶ月くらい経った?」
冷や汗をかいているところ、俊哉は朝香にそのような質問をした。ハンバーグはグラッセ含め綺麗に食べ終えてしまったようで、満足そうにこちらへ笑みを向けている。
「えっと……」
朝香は頭の中で向日葵さんとの触れ合いを時系列に並べながら恋人となった時期はいつかを思い出し始めた。
(私が好きって向日葵さんに伝えた日は初デートの後だったから……)
朝香はこの時気付いたのだが、お互いに「お付き合いしましょう」と言葉にして恋人になったわけではなかった。
栄養失調の彼を助ける意味で夕食を共にするようになり、次第に向日葵さんから好意を持たれ少しずつ互いに気持ちを深めていったような感覚がある。
もちろん朝香は口にしなかっただけで夕食を一緒に食べるようになった頃には彼を好きになっておりほぼ付き合っているようなものであった。
「3ヶ月半……くらい、でしょうか」
なので朝香はドライブデートした6月あたまより多めの日数を含めてそう回答すると
「ほぉ」
俊哉は両目を見開いて
「新記録だね」
と、感心したような表情で呟いた。
「新記録?」
それが不思議で朝香が首を傾げていると
「亮輔さ、女遊びしてた時期があったんだよね。遊び目的のマッチングアプリみたいなのを使ってたようだから合意の上ラブホ行ってプレイしてたみたいなんだけど」
「!!!!」
と、俊哉は明け透けに向日葵さんの過去について話し始める。
「1人に対しての関係は長くても1ヶ月ちょい……2ヶ月弱かなぁ確か。
だから3ヶ月半って亮輔にとっては新記録なんだよ」
「そっ……そう、なんですか」
「正直な話、亮輔ってさ。最後まで出来ないでしょ。だからどの女性も物足りなく感じるみたいで。亮輔もそれなりに相手を楽しませようと頑張るんだけどさ『舐め犬キモい』って最終的にフラれちゃってたんだよね」
「なめいぬ、きもい……デスカ」
「うん。だからね、朝香さんはちゃーんと亮輔に付き合えてて凄いなって感心するんだよ」
(会話を聞かれにくいとはいえどストレート過ぎる!!)
恐らく俊哉は朝香に対し「舐め犬キモいと言わずにここまで付き合ってきてくれてありがたい」という気持ちがあり、褒めているのだろう。
……が、内容が内容なので朝香は喜んでいいのか分からず硬直するばかり。
「ねぇ、朝香さん。亮輔の事をさ、イヤとかキモイって本当に思ってない? まさか別れたいと思ってるけど性格上言い出しにくいって可能性あったりする?」
俊哉は実に心配そうな表情で朝香に訊ねていた。
「それは……」
よく見ると俊哉の眉は八の字に下がっており不安な様子が伺える。
「俺みたいな立場の人間が朝香さんに頼んでしまうのはズルイと自覚してるし、してはならないと理解もしているよ。だけど亮輔は本来ならあんな男にならず一般的な男女交際が出来ていたはずなんだ。あんな事にならなかったら、きっと」
朝香は以前、向日葵さんの過去———つまりは、初恋からくるトラウマの話を聞かされていた。
(あんな事っていうのは……「騙された」っていう話と関連してるんだよね?)
キスはようやく出来るようになったが、セックスはまだ擬似的な行為までしか出来ていない。
(最後までしたら、吐いてしまうかもしれないから……)
その話を彼から聞かされた時「向日葵さんに無理をさせないようにしよう」と心に決めた。
朝香は異性と交際するのが初めてで、性行為の知識に疎い。快楽は今でも充分に感じられているし向日葵さんも今の段階で吐精出来ているので「互いに満足出来ている」という認識でいるのだ。
俊哉がこちらを真っ直ぐに見つめながらそう言った時点で朝香はようやく周囲を見渡し
(そういえばこのテーブル席、角にあって周りに目立ちにくい場所だ!)
この席が半個室状態になっている事に気付いた。
(えっ……でも、私この店に入って名前を名乗ってないし店員さんにそのまま席を案内されて)
だが、この席は22時の段階でたまたま空いており従業員には自分の素性を明かさないままここに座った筈である。約束を取り次ぎした俊哉は後から入店した。この席を確保したいのであれば俊哉から先に席に着いておかなければならないのだが……
「まぁ、ここの地域一帯は俺の家族が支えているようなもんだから♪」
俊哉は小声で囁き、朝香にウインクしてみせたので
「あっ……」
(色々理由つけて向日葵さんをコンビニへ向かわせるように仕向けたんだもんね……そりゃあここのファミレスの店員さんとも知り合いだろうし根回ししようと思えばいくらでも出来ちゃうのかぁ)
全てはこの日この時間朝香が俊哉と会う為にセッティングされたのだと理解した。
(この人ちょっと怖いなぁ……)
今までの話からして、上原家は相当な資産家でありこの地域を昔から支えてきた一族なのだろう。笠原グループをさらに大きくしたのは上原家が援助したと先程俊哉が漏らしていた。
20代後半でコンビニのフランチャイズオーナーをしている事自体凄いと朝香は思っていたが、実はそれは上原俊哉のほんの一部分でしかなくいくつもの顔を持っているのだと気付かされる。
(悪い人ではないんだろうけど……)
悪どいことを一切していないのだろうが、朝香の背筋はゾクッと震えた。
「えっと……朝香さんは亮輔とお付き合いを始めてどのくらい経つのかな? 2ヶ月? それとももう3ヶ月くらい経った?」
冷や汗をかいているところ、俊哉は朝香にそのような質問をした。ハンバーグはグラッセ含め綺麗に食べ終えてしまったようで、満足そうにこちらへ笑みを向けている。
「えっと……」
朝香は頭の中で向日葵さんとの触れ合いを時系列に並べながら恋人となった時期はいつかを思い出し始めた。
(私が好きって向日葵さんに伝えた日は初デートの後だったから……)
朝香はこの時気付いたのだが、お互いに「お付き合いしましょう」と言葉にして恋人になったわけではなかった。
栄養失調の彼を助ける意味で夕食を共にするようになり、次第に向日葵さんから好意を持たれ少しずつ互いに気持ちを深めていったような感覚がある。
もちろん朝香は口にしなかっただけで夕食を一緒に食べるようになった頃には彼を好きになっておりほぼ付き合っているようなものであった。
「3ヶ月半……くらい、でしょうか」
なので朝香はドライブデートした6月あたまより多めの日数を含めてそう回答すると
「ほぉ」
俊哉は両目を見開いて
「新記録だね」
と、感心したような表情で呟いた。
「新記録?」
それが不思議で朝香が首を傾げていると
「亮輔さ、女遊びしてた時期があったんだよね。遊び目的のマッチングアプリみたいなのを使ってたようだから合意の上ラブホ行ってプレイしてたみたいなんだけど」
「!!!!」
と、俊哉は明け透けに向日葵さんの過去について話し始める。
「1人に対しての関係は長くても1ヶ月ちょい……2ヶ月弱かなぁ確か。
だから3ヶ月半って亮輔にとっては新記録なんだよ」
「そっ……そう、なんですか」
「正直な話、亮輔ってさ。最後まで出来ないでしょ。だからどの女性も物足りなく感じるみたいで。亮輔もそれなりに相手を楽しませようと頑張るんだけどさ『舐め犬キモい』って最終的にフラれちゃってたんだよね」
「なめいぬ、きもい……デスカ」
「うん。だからね、朝香さんはちゃーんと亮輔に付き合えてて凄いなって感心するんだよ」
(会話を聞かれにくいとはいえどストレート過ぎる!!)
恐らく俊哉は朝香に対し「舐め犬キモいと言わずにここまで付き合ってきてくれてありがたい」という気持ちがあり、褒めているのだろう。
……が、内容が内容なので朝香は喜んでいいのか分からず硬直するばかり。
「ねぇ、朝香さん。亮輔の事をさ、イヤとかキモイって本当に思ってない? まさか別れたいと思ってるけど性格上言い出しにくいって可能性あったりする?」
俊哉は実に心配そうな表情で朝香に訊ねていた。
「それは……」
よく見ると俊哉の眉は八の字に下がっており不安な様子が伺える。
「俺みたいな立場の人間が朝香さんに頼んでしまうのはズルイと自覚してるし、してはならないと理解もしているよ。だけど亮輔は本来ならあんな男にならず一般的な男女交際が出来ていたはずなんだ。あんな事にならなかったら、きっと」
朝香は以前、向日葵さんの過去———つまりは、初恋からくるトラウマの話を聞かされていた。
(あんな事っていうのは……「騙された」っていう話と関連してるんだよね?)
キスはようやく出来るようになったが、セックスはまだ擬似的な行為までしか出来ていない。
(最後までしたら、吐いてしまうかもしれないから……)
その話を彼から聞かされた時「向日葵さんに無理をさせないようにしよう」と心に決めた。
朝香は異性と交際するのが初めてで、性行為の知識に疎い。快楽は今でも充分に感じられているし向日葵さんも今の段階で吐精出来ているので「互いに満足出来ている」という認識でいるのだ。
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