上 下
1 / 251
「思うのはあなた一人」

1

しおりを挟む



 9月22日。
 朝食を食べている時にりょーくんから

「お姉さんに俺が墓参り行ってる事を伝えてくれる?」

 とお願いされて私はビックリした。

「本当に夕紀ゆうきさんに話しちゃって大丈夫なの?」

 多分、夕紀さんはもう笠原亮輔かさはらりょうすけくんに恨みの気持ちは持っていないと思う。けれどもそれは私の勝手な予想でしかなくて直接確認してはいない。
 皐月さつきさんの月命日の前に白く大振りな花を供える人物の存在は夕紀さんの口から時々聞かされていたし年2回のお彼岸参りで私もその花を見てその度に夕紀さんが柔らかな表情を向けている事は知ってはいるけど……でも、その表情の裏にはまだ何かしらの感情がくすぶっている可能性があるんじゃないかとも思ってしまう。

「いつまでも隠しておくわけにはいかないからね。
 夕紀おねえさんが怒っているようなら、『今後はお墓参りしませんし極力珈琲店に顔出す真似はしません』って伝えておいてほしいんだ」
「うーん……そっかぁ……」

 私は夕紀ゆうきさんに彼氏の名前をたまたま明かしてなかっただけで、隠すつもりは全く無かった。だから「私の大好きな人が夕紀さんにとって恨むべき人物だ」と知られるのはそもそも時間の問題だったんだし、一昨日の朝あんなタイミングで夕紀に電話で伝えてしまったのは仕方がない。
 とはいえ今夕紀さんはどう感じているのかも気にかかっているし、りょーくんもきっと同じように夕紀さんを気にして申し訳ない気持ちになっているに違いなかった。

(でもそれによってりょーくんが皐月さんとの時間を過ごせなくなってしまうのはやっぱり嫌だよ……夕紀さんにお彼岸参りの場で「白いお花の人は笠原亮輔くんです」なんて言って機嫌を損ねてしまったら、きっとりょーくんは今後皐月さんのお参りが出来なくなっちゃう)

 夕紀さんは現時点で笠原亮輔くんに恨みを持ってない……とはいえ4年半前夕紀さんは刃物みたいな鋭い言葉を笠原亮輔くんに投げ付けてしまっている。
 恨んでない事と皐月さんのお墓参りをしてると告げる事は決してイコールでは結ばれてないんじゃないかと思った。

「もし夕紀さんが怒っていたとしても、お墓参り出来るように許しは得てもらうよ。りょーくんだってこの先ずっとそうしたいんでしょ?」
「まぁそうだけど、皐月さんせんせいにとって一番大事な人がお姉さんだったから、お姉さんの意思には添いたいんだ。だからあーちゃんが無理やりどうにかする必要はないよ」

 それを私に告げたりょーくんは、寂しそうにするどころか晴れやかな笑顔になっていた。

「ん……」

 いつかこういう日が来るかもしれないと、以前からりょーくんは覚悟していたんだと感じた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

女子切腹同好会 ~有香と女子大生4人の“切腹”編・樹神奉寧団編~

ホラー / 連載中 24h.ポイント:1,179pt お気に入り:9

邪魔者は静かに消えることにした…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:4,187

見た目はアレですが強いんですっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:701

〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:103

獅子王は敗戦国の羊を寵愛する

BL / 連載中 24h.ポイント:959pt お気に入り:206

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,420

処理中です...