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落ち葉降る
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しおりを挟むりょーくんオススメのイタリアンレストランでお腹を満たしたら、電車で帰って今はもうマンションのエントランス前。
そのタイミングで私は、今日のデートのメインイベントが映画やイルミネーションではなかった事を思い出した。
「私達、紅葉観に行くのすっかり忘れてるよ! 本当に今日観ておかなくて良かったの?」
映画もイルミネーションも食事も楽しく過ごしたしたけど、そもそも今日のデートのメインはライトアップされた紅葉を観る事だった。
「ああそうだね……忘れてたね」
「忘れてたっていうか、私のアクシデントの事をりょーくんが思い遣ってくれたのが正しいんだけど」
一応、候補の一つでもあったイルミネーションは観に行けたとはいえ、りょーくんがちゃんと計画していた事柄ではあったから「紅葉は今日は無し」ってなるのはちょっと嫌だなって思う。
「まぁ……だけどもう帰ってきちゃったし、紅葉は来週末でも俺は良いよ?」
りょーくんはそう言ってくれたけど、私はブンブンと首を激しく左右に振った。
「せっかくりょーくんが誘って提案してくれたデートプランなんだから、小さな規模でもやっぱり観てみたいよ」
彼の言う通り、今日のところはこのまま部屋に戻っても良いのかもしれない。
だけど、エントランスに入ってエレベーターに乗り込んだらこの素敵なデートが終わってしまう。私としてはあともう少しだけ彼との外デートを過ごしたい気持ちがあった。
「そうだなぁ……この辺に紅葉らしいものあったっけ?」
りょーくんは何も思い付かないらしく、うーんと唸っている。
(この近辺に4年以上住んでるりょーくんが思い付かないとなると諦めた方がいいのかな……)
なんて、私は肩を落としかけたんだけど
「あっ! あの公園はどうかな?」
「えっ?」
「こっちこっち!」
私はとある公園を頭に思い浮かべると、彼の手を引いて足早に歩き出した。
マンションを通り過ぎて、一本路地に入ってしばらく歩くと静かで小規模な公園に辿り着く。
「あっ……イチョウがある!」
「ここの公園ね、イチョウの木が何本か植えられてたなーって思い出したの」
ここは遊具も少なくて特にこれといった特徴もない公園で、夜の時間帯ともあり誰も居なくてひっそりとしている。
「結構大きいね……」
何本か立っている内、街灯に照らされているイチョウが一際大きく、はらはらとゆっくり黄色の葉が落ちてとても綺麗だった。
「りょーくん地面見て! 黄色い絨毯みたいだよ! りょーくんが私を紅葉デートに誘う時に言ってくれたのと一緒!!」
私は足元を指差し、りょーくんにそう言う。
りょーくんが私に紅葉デートのお誘いをしてくれた時、紅く色付いたモミジやカエデの他にも黄色で埋め尽くされてるイチョウの画像も見せてくれたのを思い出す。
「俺があーちゃんにプレゼンしたのは、もっと規模のデカいヤツなんだけど」
りょーくんはそうクスクス笑ったんだけど
「でもさ、ここの! ここのところだけ見るとさぁ、落ち葉で敷き詰められた絨毯みたいだよ!」
私もプレゼンを負けじと彼にする。
「有名な紅葉スポットもいいけれど、こういう観賞もなかなか悪くないかもね」
「でしょ? ふふふ♪」
私とりょーくんは一緒にその場にしゃがみ込み、ほんの1メートル四方の黄色い絨毯をジーっと見つめ、2人でしばらくクスクス微笑み合った。
「本当にこの公園……私達以外誰も居ないよね」
ふと、私は左右を見渡しながら彼にポツリと呟く。
「誰も居ない……ね」
りょーくんも私の言葉に同意して、スッと立ち上がり更にぐるりと全方向を見渡した。
「……」
「……」
ヒュウッと吹く冷たい秋風だけが私達を見守っている気分に駆られ、ふわりと舞い上がるりょーくんの黒髪が余計に私の全身をときめかせて……
(わぁ……私今、凄くドキドキキュンキュン、ムラムラってしてる……)
映画館の中で感じたりょーくんの指と唇の温もりを思い出し求めてしまった。
「……あーちゃん疲れてるだろうし、そろそろマンション戻ろうっか」
それなのにりょーくんは秋風をその身に受けながら帰り道の方向を向いたものだから
「りょーくん待って!」
りょーくんの腕を掴んで私も立ち上がる。
ザワッ……
すると、イチョウの葉が私達の周りを舞うように持ち上がって……
再びはらはらと黄色の葉がゆっくり舞い落ちてくのを見届ける間もなく、私の体は彼の大きな体を求め大胆にギュウゥッと強く抱き締め
「キスして」
そう、無茶なお願いをした。
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