大精霊に愛されて

鬼灯

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初々しいサーシャの反応にイザヤは顔が緩みっぱなしだ。



「可愛いな、サーシャ」



そう言うイザヤは、どこか満足げであった。
一方サーシャは、戸惑うばかりだ。
サーシャは、自分が冷たいのだと思っている。本来ならば、イザヤを憎むなり、恨むなりするのだろう。だが、サーシャはそんな気持ちがわかない。
 むしろ反対に、イザヤに好意を抱いている。そんな自分に戸惑うのだ。



「何を考えている」



「いえ…………」



「吾は今のサーシャを好いている。それで良かろう」



全てお見通しなのか、イザヤは微笑む。その微笑みに見蕩れ、ぼんやりとする。
その微笑みが滲む。
頬に涙が伝うのを感じ、少し慌てる。サーシャは母の死以来、初めて泣いた。そんな自分に戸惑う。



「大丈夫だ」



涙を抜いながらイザヤは微笑む。
サーシャは、自分が階段から突き落とされても、誰も心配しないのを知っていた。というか思い知った、と、言ったほうが正しい。それがサ-シャには辛かった。
 だが、それは無意識下の事で、ようやく表面化した感じだった。




「わたくしは、死を望まれるほど…………」



涙ながらに言うサーシャを、イザヤは抱きしめる。



「吾がいる」



そう言って、サーシャの髪を梳く。声も立てず泣くサーシャを、痛ましそうに眉をひそめる。



「吾がいる」



そう繰り返し、イザヤはサーシャを強く抱き締めたのである。




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