I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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1st season 第二章

041 スタンピード(1)

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その日、カインとシリアが一日の狩から戻ると、街の門は出立の馬車でごった返していた。
そして換金に向かったギルドでその理由を知る。
西のダンジョンでスタンピード魔物の氾濫が発生したのだ。
ダンジョンまでは馬車で2日約90km、遅くとも明日の今頃には街に到達してしまう。

ダンジョン内の魔物は基本的に外に出てこない。
しかしこうして何年かに一度、突然大量発生してあふれ出すのだ。
その理由はわかっていないが、前回この街をスタンピードが襲ったのは11年前の事だ。
比較的小さな氾濫だったそうだが、それでも二桁の冒険者が命を落とした。

「よしっ、お前ら、第二次報告だ」

ごった返すギルドホールにマスターの声が響き渡る。

「今ある情報で魔物の数は1万から2万、到着見込みは明日の昼。今ここに居ないものにも職員が連絡に走ってるが、登録冒険者は明日の朝西門前に全員集合だ。わかっていると思うが逃げるものは犯罪奴隷となる。これからミーティングを行うので、各パーティーのリーダを残して一旦解散っ!」

エルダーサの街は人口四万人。
常駐する王国兵は104名しかいない。
対して冒険者は548名。
その147パーティは以下の通り。
S級 Pt×0
A級 Pt×0
B級 Pt×2
C級 Pt×7
D級 Pt×22
E級 Pt×64
F級 Pt×21
G級 Pt×13
ソロ×18

カインとシリアのロックハウス新パーティーはE級扱い。
D級パーティーと認定されるにはD級冒険者5名一組分の戦力とみなされなければならない。
カインは一人でD級のオーク集落50体以上を掃討しているため、規定の戦力は満たしているが、LV20に満たないシリアは実績も無いF級、さすがに二人パーティーでそのままD級として認めるわけにはいかなかった。

ギルドが決定した防衛作戦はこうだ。
南北東の3つの門は硬く補強して閉じ、西門前に展開した扇陣で迎え撃つ。
主力は中央に配置するBCDの31パーティー83名。
Eの64パーティーは扇形の比較的左右側面、あたりの弱い所に配置する。
Fは王国兵とともに城壁に登って全方位に中遠距離での攻撃だが、主に南北東の門にモンスターを寄せ付けない役割だ。
Gはポーションの補充など雑用係となる。

敵の突進力が弱まる東門側で迎撃しないのは、森まで距離がありスピードの乗る西側が、万単位の直撃を受けた場合、門だけで無く城壁すら持たない可能性があると踏んでの事だった。
ロックハウスカイン達の配置は西門北寄り、扇形の左端のあたりを割り当てられた。

~~~~~

「ラティアさんはスタンピードの経験あるんですか?」
「ありません。ちょっと・・・いえ、かなり怖いです」

スタンピードの第一報とともに、殆どのキャラバンは出立してしまったため、白兎亭しらうさぎていの食堂も閑散としている。

「俺も、一万だの二万だの言われてもちょっと想像つかないな」
「アンタは怖くないの?アタシはけっこうビビってる」
「うーん、怖いっちゃ怖い気もするけど、偉い人達は初めてじゃないだろうし、みんなが持ち場をしっかりこなせばなんとかなるんじゃないか?英雄になろうとかする奴は死ぬだろうけど」
「まぁ500人で一万相手なら一人でオークの集落に突っ込むより楽そうではあるわね」
「そうそう、俺達下っ端は全体の指揮を乱さないよう、地味に堅実に乗り切ればいい」
「カイン様、本当に無理はなさらないで下さいね?」

~~~~~

翌日の昼前、カイン達は西門の配置についていた。
岸田時代に映画で見た、中世の縦横隊列を想像していたが、パーティーを越えた連携など出来るわけもなく、パーティー単位の集団が三層の弧を描いて扇陣を形成しているだけだった。
カイン達は二層目だった。
先端が開かれ、一層目が疲弊するまでは遠隔攻撃のみだが、矢にもマナ魔力にも限りがある、出番が来るまでほぼ待機と言って良いかもしれない。
が、軍隊と違って隣のパーティーとは数メートルの距離がある。
最初から抜けてくるモンスターもそこそこ出るはずだ。

「き、緊張するわね」
「んー、俺はそうでもないな。むしろ上級の連中がどんな戦いをするのかちょっとワクワクしてる」
「はぁー、やっぱラティアさんが言う通り、アンタ一人で外に出したらいつ死ぬかわかんないわね。しっかりアタシを守んなさいよ?」
「おう。泥舟にのったつもりで任せとけ!」
「・・・・」

最初に砂煙が見えた。
1万という数は100体の列が100層あるわけだが、ところどころにやたらと大きな個体が混じっている。
そしてそれを抜きにしても1万5千くらいは居そうに見える。
カインはAMRアンチマテリアルライフルを取り出すとシリアに告げる。

「俺らのノルマはまぁ50体ってとこだろ?最初に少し稼いでくれよ」
「そうね、出番が来るまでじっと待ってる必要もないわね」

シリアが伏射姿勢をとる。
距離1km、さすがにまだ早い。
距離500、扇陣の中央からは既に400となっているが、まだ一番槍の音は聞こえない。

「撃つわ」

バシュッッッ・・・・・・・ズシャーン!

遠くでまとめて貫かれたゴブリンが6~7体吹っ飛ぶのが見えた。
周囲の視線がシリアに集中する。

「もう一回くらいは撃てそうね」

キコキコキコキコ

恐ろしい威力を秘めた殺戮兵器が牧歌的な音を鳴らして装填される。

「撃つわ」

バシュッッッ・・・・ズガンッ!

シリアが二撃目を放つ直前から、中央では弓の遠射がはじまっていた。

「残り40だな、淡々と行こう」

言いながらAMRを回収し、取り出した小さな岩の上にシリアの為のボルトを並べる。
シリアは矢筒に20本ほどのボルトを携行しているが、それはイザというときのために持っておいた方が得策だ。

カイン達のすぐ前に配置されたのはタンク1、リベロのソードアタッカー2、火魔法に回復魔法各1という標準的なDランクパーティーだった。
ソードアタッカーは矢の消費やマナ魔力残量を気にする必要が無いので長時間戦闘に向いていると思われがちだが、実際はその分体力を使っているだけなので、何時間もの戦闘はこなせない。
15分程で交代の声があがった。

「スイッチっ!あと、頼むぞ!」

カインが10m、シリアが3mほど前に出る。
ミニハウス小さい方の岩屋を出すよりも、この状況ならシリアも後ろの連中の方に逃げたほうがいい。
そう判断したカインはシリアの予備ボルトと予備の零式を置くと、タンクに徹する事にした。
タワーシールドをしっかりと構え、右手の零式はタゲ取りと抜けた奴を仕留める為だけに使う。
敵のモンスターは先頭のゴブリンの層が終わり、オークが主力に変わっていた。

ガンッ! ガガンッ! ドガッ!

何本もの棍棒がカインに振り下ろされる。
零式をシリアがリロードするには8~9秒かかるため、混戦はなかなか厳しい。
そして普段の戦いと違い、敵が途切れる事がない。

(これはマズイ)

「シリアっ!群がってるやつはいい、抜けたやつだけをやってくれっ!」

作戦を切り替えたカインは零式をしまい、タゲ取りは意識の外に追いやって、シールドに群がるオークをブロックで圧殺してゆく。
左右のパーティーとは5m程離れているため、時折抜けていくモンスターが出てしまうが、単発ならシリアが、複数なら零式を出したカインが仕留めて行った。

損害無く戦闘をこなし、15分程で後続に引き継ぐ。

「スイッチっ!任せる!」

後続のE級パーティーに引き継ぎ、最後方に下がる。
周囲を見回すと、いずれも同じような時間で回しているようだった。
カインが使った零式を山積みにし、二人で淡々と再装填してゆく。

「中央の前線、とんでもない事になってんな」
「見たこと無い魔法がバンバン飛んでるわね」

中央では未だ最初のB級パーティーが前線を維持していた。
巨大な炎の波や竜巻が二桁単位でモンスターを蹂躙している。
カイン達がその光景に目を奪われていると、陣の外側で悲鳴があがった。

「イヤァーっ!」

E級パーティーのタンクが吹き飛んだのだ。
オークリーダーらしき個体が押し込んでくる。

「下がれっ!俺達がやる。スイッチっ!」

D級パーティーがすかさずフォローに入り、死者は出ていないようだが、タンクが重症を追ったE級パーティーは青ざめており、戦闘継続は無理そうだ。

「負傷者を下げて残りはカインのところに合流しろっ!」

ギルドスタッフからの指示がとぶ。

「タンクは俺がやる、抜けたやつをシリアと一緒に仕留めてくれ。変わったギフトを使うが戦闘中に質問は無しだ」

ヒーラーと魔法使いがタンクを連れて行ったため、残ったのはソードアタッカーと弓術士だった。
カインは二人に指示を出し、D級パーティーの後方に待機する。
未だ青ざめる二人の為にシリアが声をかけた。

「アタシはFだけどアイツはDよ。オークの集落50以上をソロで殲滅したこともあるバケモノだから安心していいわ」
「えっ?」
「まじで?たすかるー。けっこうビビってるんで迷惑かけると思うけど宜しく頼む」
「アタシは回復が使える。無駄遣いはできないけど、即死しなければ救護所まで保たせるから任せて」
「宜しくおねがいします」

シリアの機転で即席チームもなんとか機能しそうだ。

「スイッチっ!頼むぞ!」

二度目の出番が回ってきた。
敵はオークとオーガの混成になっている。
カインはまだ数えるほどしかオーガと遭遇した事が無いが、脅威度はC、オークリーダーと同格だ。

ッドガンッ! ガガンッ! ダガンッ!

さすがC級、素手の攻撃なのにシールドごと叩き潰されそうだ。
だが、それでも、20tの岩石ブロックを頭の上に置かれれば圧死する。
多少の打撲や裂傷を負いながら、カイン達は二巡目の役割を終えた。

「スイッチっ!下がります」
「任せろっ!陣が下がってる。このまま俺達の後ろまで後退してくれっ!」
「了解です」
「ヒール!!!」

シリアのヒールがカインを癒やす。

「そろそろ本気な感じになってきたな」
「アンタ、随分余裕ね」
「おまえのとこに飛び込んだ時に比べれば、まだまだ周りを見て判断する余裕がある」
「あー、あんときはのたうち回ってたもんね。実際余裕か~」

戦場には次第に悲壮感が漂い始めていたが、カイン達はまだまだ余力を残していた。

~~~~~

カイン達が四巡目を終える頃には、陣の規模は最初の半分以下まで縮小されていた。
敵の数も、半分以下まで減らせているように見える。
そしてギルドは西門まで後退の指示を出した。
既に敵に突進力はなく、城壁を利用しながらの持久戦に持ち込んでも守りきれると判断したのだ。

「BとCで殿しんがりだ、残りは一旦西門を入れっ!」

ジリジリと後退をして西門を抜ける。
後は交代で西門を守りながら敵をすり減らしていく、それがギルドの作戦だった。
異論を唱えるものは居なかった。
・・・そしてそれは、という経験を持たない者たちの想像力の限界、それがもたらあやまりであった。

西門の広さは6メートル、高さは3メートルで城壁の半分程度、イザという時には左右だけでなく上からも防護扉を切って落とす事が出来る標準的なつくりだ。
しかし、幅が6メートルということは、密集陣を取らない冒険者であれば精々四名しか横に並べない。
全軍が門の内側に入り、ほっと一息と思われた瞬間、は起きた。
如何に上級冒険者だとて、四人で5,000体に殺到されれば死なないまでも押し込まれる。
慌てて指示が飛び、横並び密集で八名のタンクがおさえにかかるが、隙間がなくなればこちらからも攻撃が抜けない、8対5,000の力比べ、まして向こうは人間よりも圧倒的な腕力を備えたモンスターだ、結果は火を見るよりも明らか。

「絶対に抜かれるなっ!防護壁、落とせっ!」

西門内側、鶴翼かくよくの陣で立て直しを図りつつ防護扉が落とされた。
が、建造物というのは完全な状態でこそ、その強度を十全に発揮できる。
既にモンスターがギュウギュウに詰まっている所に、今更を落とそうと思った所で落ちる訳がない。
中途半端に下がった板は、テコの原理でいともたやすく吹き飛ばされた。
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