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1st season 第四章
086 ハイオーガ対策
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「で。カイン猊下?どういう風の吹き回しだ?」
「あー、なんていうか、すっかり忘れてたわけですよ。去年のスタンピードで死にかけた事」
辛うじて『街』としての体裁を保っているようなエルダーサ。
そのエルダーサのギルドに立派な訓練場などというものは無い。
ギルドの裏手に位置する、名目上『訓練場』と呼ぶ事になっているだけのただの空き地。
ヴァルダークを連れ出したカインは、その訓練場に居た。
「んで今更ながら鍛えようって話か?」
「小一時間ほどボコボコにされた所で鍛えられるワケないじゃないですか?一年も経って、すっかり忘れちゃったハイオーガのスピード感をヴァルダークさんで思い出そうという試みです」
「思い出したところで強くなんねぇんじゃねぇか?」
「俺は強くなりませんが、武器が強くなるかも知れないので、無理に鍛えようとか思わず、LV任せの人間離れした動きで翻弄して貰えると助かります」
「・・・なんか納得いかねぇ」
ヴァルダークのギフトは『剣の才』。
この世界の男の子なら一度は憧れる王道中の王道ギフトだが、騎士や冒険者であれば決して珍しくも無いものだった。
「じゃ、むしろコイツは要らねぇな・・・いくぞ」
木剣を地に突き立てたヴァルダークの姿がカインの視界から消えた。
後ろを振り返りながら魔鉄製のタワーシールドをカインが取り出す。
ふんっ! ドゴォーン
「くっ・・・痛ってぇぇぇえ・・・カインてめぇ!鉄製の盾とか出してんじゃねぇよっ!手が折れたらどうすんだよっ!」
「あっ、すんません。咄嗟だったんで・・・古い木製の奴使っときますね。矢は訓練用なんで安心して下さい」
タワーシールドはカインの正面、120度程を護る壁となる・・・だが、残り240度はガラ空きだ。
そしてハイオーガの移動速度は、盾を持ったカインの腕が移動するよりも速く、その残りの240度に回り込む。
LV67のヴァルダークは更に速かった。
バシュッ
「ケッ!当たるかよ!」
バシュッ バシュッ バシュッ ふんっ! ゲボっ・・・
「オラッ!休んでるヒマぁねーぞ!」
ふんっ! ふんっ! ふんっ!
ヴァルダークの出現位置にカインが向き直るより早く、拳が飛んでくる。
もはや手で盾を持つことは諦め、拳と身体の間にシールドを出現させる事だけに集中する。
ふんっ! バシュッ ふんっ! バシュッ ふんっ! バシュッ
ヴァルダークが止まる、盾を出す、ヴァルダークが盾を殴る、零式を出す、ヴァルダークが避ける、零式を放つ・・・故に当たらない。
ヴァルダークが避ける前に撃てなければ、当たるわけが無い。
「あー、こんな感じでした。ジリ貧で、ワンミスしたらボコボコっすね・・・ちょっと本気速度も見せてもらっていいですか?」
「たぶん見れねぇと思うがな・・・上げるぞ」
ヴァルダークの速度がシールドの出現速度を上回る。
ドガッ ガッガッガッガッガッガッガッガッガッ・・・ドサッ
「全然ダメだな・・・」
「うぷっ・・・うげぇぇぇぇぇ」
蹲るカインが胃液を撒き散らす。
「マジでどうにもなんないっすねー。防御だけならなんとかなるんですが・・・」
「ほぅ?言うじゃねぇか?やってみせろや?」
「いいですよー。本気の片鱗って奴をお見せしましょう」
トンッ
軽く地を蹴って50cmほど宙に浮いたカインが、突如3m四方のブロックと入れ替わる。
否、宙に浮いた状態で自分を囲うようにミニハウスを出したのだ。
内部に立て籠もり、左右の手にそれぞれ零式を携え、2つある60cmの出入り穴に狙いを付ける。
「さぁっ!どっからでもかかってこーい!」
「・・・おまっ・・・確かに賢い手だな・・・飛び道具持ってなかったらやりようが無い」
「LV67でもやっぱ岩は砕けません?」
「全力で殴れば砕けるかもしれんが、間違いなく拳も砕けるな」
「ふむ・・・もうちょっと分厚いのも作っときます。っていうか問題はここから先の展開なわけですよ?守れても倒す手段が無ければ身動き取れないでしょ?」
「まぁ、その穴から撃ってくるってわかってるから余計に避けやすいわな」
「あ!、ちょっと実験付き合ってもらっていいですか?」
「何すんだ?」
ミニハウスを収納し、2mブロックを横一列に並べると、10mほど離れて零式を一本取り出す。
「そのブロックの前に立って、俺の矢を横っ飛びで避けて欲しいんですよ。矢がブロックに当たるまでに何メートル横に飛べるかの実験です」
「よくわかんねぇがまぁいいぞ」
ヴァルダークがスタスタとブロックの前に立つ。
バシュッ カーン
予告もせずにカインが放った!
「おんまっ!合図くらいしろっ!」
「準備して飛ぶのと距離違うかも知れないじゃないですか?おかげで良いデータがとれました」
ヴァルダークが跳んだのは6m。
左右反対方向もカバーするには12m。
つまり、初速を落とさず拡散角度が90度以上ある範囲攻撃兵器を開発すれば、ハイオーガでも仕留められる計算となる。
「はぁ・・・その顔は、なんか思いついたって事か?」
「えぇ、ものすご~っくエゲツないの思いつきました」
「そりゃよかったな。お前が強くなればこの街も安泰だ」
「いや、だから強くなるのは武器で、俺じゃ無いですって」
「同じ事じゃねーか」
「うーん、微妙違いますよ?まぁ、武器が強くなって、強い獲物狩りまくるようになれば、結果的にレベルがあがって俺も強くなりますが」
「まどろっこしい。済んだならメシ行くぞメシ!お前の奢りだ!」
当初、扇形に並べたボルトを一斉に撃ち出す事をカインは思いついた。
だが、13本同時に発射しても、10m先で1mの間隔が空く、目のいい相手なら避けられてしまうだろう。
そこでカインは前世にネットで見た動画を思いだした。
その動画は護身用のバズーカ砲の射出シーンで、なんと日本製のだった。
そして使い捨て4万円のバズーカが撃ち出すのでは砲弾では無く、五角形に広がる網。
日本では話題にならなかったが『日本人がスパイダーネットの夢を叶えた!』としてアメリカの一部の層に大ウケとなった商品だ。
投網兵器。
網如きでハイオーガを封じきれるとは到底思えない。
だが、一瞬でも動きが鈍れば、二の矢で仕留める事ができる。
網には巨大な釣り針を大量に編み込み、その一本一本にしびれ薬を塗りたくる。
出来れば二の矢も同じ弩から放てるようにしたい。
(四式複合弩、通称『スパイダー』で決まりだな)
「なぁ、もそもそ飯食いながらニヤニヤしてるの、きもちわりーぞ?」
「あ、すんません。めちゃくちゃアイデア浮かんじゃって、いやぁ~、ハイオーガが憐れに思えてきましたよ。くくくくっ・・・」
皆も使えるようにと、二の矢も放てる設計でスタートした四式複合弩開発計画だが、どう考えてもカイン以外だと、携行中に『しびれ薬で自分が痺れる』という悲しいコントになってしまう為、投網機能一本に絞られ、カイン専用兵器として誕生するのだったが、シリア用のAMRと比べると、見た目もコンセプトも劇的にカッコ悪く、カインとしては今ひとつ納得いかない結果となった。
「あー、なんていうか、すっかり忘れてたわけですよ。去年のスタンピードで死にかけた事」
辛うじて『街』としての体裁を保っているようなエルダーサ。
そのエルダーサのギルドに立派な訓練場などというものは無い。
ギルドの裏手に位置する、名目上『訓練場』と呼ぶ事になっているだけのただの空き地。
ヴァルダークを連れ出したカインは、その訓練場に居た。
「んで今更ながら鍛えようって話か?」
「小一時間ほどボコボコにされた所で鍛えられるワケないじゃないですか?一年も経って、すっかり忘れちゃったハイオーガのスピード感をヴァルダークさんで思い出そうという試みです」
「思い出したところで強くなんねぇんじゃねぇか?」
「俺は強くなりませんが、武器が強くなるかも知れないので、無理に鍛えようとか思わず、LV任せの人間離れした動きで翻弄して貰えると助かります」
「・・・なんか納得いかねぇ」
ヴァルダークのギフトは『剣の才』。
この世界の男の子なら一度は憧れる王道中の王道ギフトだが、騎士や冒険者であれば決して珍しくも無いものだった。
「じゃ、むしろコイツは要らねぇな・・・いくぞ」
木剣を地に突き立てたヴァルダークの姿がカインの視界から消えた。
後ろを振り返りながら魔鉄製のタワーシールドをカインが取り出す。
ふんっ! ドゴォーン
「くっ・・・痛ってぇぇぇえ・・・カインてめぇ!鉄製の盾とか出してんじゃねぇよっ!手が折れたらどうすんだよっ!」
「あっ、すんません。咄嗟だったんで・・・古い木製の奴使っときますね。矢は訓練用なんで安心して下さい」
タワーシールドはカインの正面、120度程を護る壁となる・・・だが、残り240度はガラ空きだ。
そしてハイオーガの移動速度は、盾を持ったカインの腕が移動するよりも速く、その残りの240度に回り込む。
LV67のヴァルダークは更に速かった。
バシュッ
「ケッ!当たるかよ!」
バシュッ バシュッ バシュッ ふんっ! ゲボっ・・・
「オラッ!休んでるヒマぁねーぞ!」
ふんっ! ふんっ! ふんっ!
ヴァルダークの出現位置にカインが向き直るより早く、拳が飛んでくる。
もはや手で盾を持つことは諦め、拳と身体の間にシールドを出現させる事だけに集中する。
ふんっ! バシュッ ふんっ! バシュッ ふんっ! バシュッ
ヴァルダークが止まる、盾を出す、ヴァルダークが盾を殴る、零式を出す、ヴァルダークが避ける、零式を放つ・・・故に当たらない。
ヴァルダークが避ける前に撃てなければ、当たるわけが無い。
「あー、こんな感じでした。ジリ貧で、ワンミスしたらボコボコっすね・・・ちょっと本気速度も見せてもらっていいですか?」
「たぶん見れねぇと思うがな・・・上げるぞ」
ヴァルダークの速度がシールドの出現速度を上回る。
ドガッ ガッガッガッガッガッガッガッガッガッ・・・ドサッ
「全然ダメだな・・・」
「うぷっ・・・うげぇぇぇぇぇ」
蹲るカインが胃液を撒き散らす。
「マジでどうにもなんないっすねー。防御だけならなんとかなるんですが・・・」
「ほぅ?言うじゃねぇか?やってみせろや?」
「いいですよー。本気の片鱗って奴をお見せしましょう」
トンッ
軽く地を蹴って50cmほど宙に浮いたカインが、突如3m四方のブロックと入れ替わる。
否、宙に浮いた状態で自分を囲うようにミニハウスを出したのだ。
内部に立て籠もり、左右の手にそれぞれ零式を携え、2つある60cmの出入り穴に狙いを付ける。
「さぁっ!どっからでもかかってこーい!」
「・・・おまっ・・・確かに賢い手だな・・・飛び道具持ってなかったらやりようが無い」
「LV67でもやっぱ岩は砕けません?」
「全力で殴れば砕けるかもしれんが、間違いなく拳も砕けるな」
「ふむ・・・もうちょっと分厚いのも作っときます。っていうか問題はここから先の展開なわけですよ?守れても倒す手段が無ければ身動き取れないでしょ?」
「まぁ、その穴から撃ってくるってわかってるから余計に避けやすいわな」
「あ!、ちょっと実験付き合ってもらっていいですか?」
「何すんだ?」
ミニハウスを収納し、2mブロックを横一列に並べると、10mほど離れて零式を一本取り出す。
「そのブロックの前に立って、俺の矢を横っ飛びで避けて欲しいんですよ。矢がブロックに当たるまでに何メートル横に飛べるかの実験です」
「よくわかんねぇがまぁいいぞ」
ヴァルダークがスタスタとブロックの前に立つ。
バシュッ カーン
予告もせずにカインが放った!
「おんまっ!合図くらいしろっ!」
「準備して飛ぶのと距離違うかも知れないじゃないですか?おかげで良いデータがとれました」
ヴァルダークが跳んだのは6m。
左右反対方向もカバーするには12m。
つまり、初速を落とさず拡散角度が90度以上ある範囲攻撃兵器を開発すれば、ハイオーガでも仕留められる計算となる。
「はぁ・・・その顔は、なんか思いついたって事か?」
「えぇ、ものすご~っくエゲツないの思いつきました」
「そりゃよかったな。お前が強くなればこの街も安泰だ」
「いや、だから強くなるのは武器で、俺じゃ無いですって」
「同じ事じゃねーか」
「うーん、微妙違いますよ?まぁ、武器が強くなって、強い獲物狩りまくるようになれば、結果的にレベルがあがって俺も強くなりますが」
「まどろっこしい。済んだならメシ行くぞメシ!お前の奢りだ!」
当初、扇形に並べたボルトを一斉に撃ち出す事をカインは思いついた。
だが、13本同時に発射しても、10m先で1mの間隔が空く、目のいい相手なら避けられてしまうだろう。
そこでカインは前世にネットで見た動画を思いだした。
その動画は護身用のバズーカ砲の射出シーンで、なんと日本製のだった。
そして使い捨て4万円のバズーカが撃ち出すのでは砲弾では無く、五角形に広がる網。
日本では話題にならなかったが『日本人がスパイダーネットの夢を叶えた!』としてアメリカの一部の層に大ウケとなった商品だ。
投網兵器。
網如きでハイオーガを封じきれるとは到底思えない。
だが、一瞬でも動きが鈍れば、二の矢で仕留める事ができる。
網には巨大な釣り針を大量に編み込み、その一本一本にしびれ薬を塗りたくる。
出来れば二の矢も同じ弩から放てるようにしたい。
(四式複合弩、通称『スパイダー』で決まりだな)
「なぁ、もそもそ飯食いながらニヤニヤしてるの、きもちわりーぞ?」
「あ、すんません。めちゃくちゃアイデア浮かんじゃって、いやぁ~、ハイオーガが憐れに思えてきましたよ。くくくくっ・・・」
皆も使えるようにと、二の矢も放てる設計でスタートした四式複合弩開発計画だが、どう考えてもカイン以外だと、携行中に『しびれ薬で自分が痺れる』という悲しいコントになってしまう為、投網機能一本に絞られ、カイン専用兵器として誕生するのだったが、シリア用のAMRと比べると、見た目もコンセプトも劇的にカッコ悪く、カインとしては今ひとつ納得いかない結果となった。
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