I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第一章

110 事業計画

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この国の主席となって二ヶ月半。
今の所大きな問題は起きていないが、小さな火種はそこかしこに見え隠れしている。

例えばあの日、ここに居てホルジス様の言葉を聞いた者と、地方に居て聞いていない者、その二者の間には溝と言うか温度差と言うか、いわゆるが顕現しているし、アベルが受け入れた500人のホームレスたちも、労働の割当が始まると、元のスラムへ帰る者、不平不満を煽る者、そして、神殿や神官の財を盗もうとするものが現れ始めた。
国としては前者の方が問題だが、俺としては後者の方が悩ましい・・・だって、アベル、泣いちゃうんだもん・・・。

そして神理教が打ち出した異界神話に対しても、世界の反応は様々だ。
と、言っても、使者が戻って反応を報告されたのはまだ数カ国のみ。
なのに何故わかるかと言うと、各国津々浦々、都市の神殿から地方の教会まで、魔法陣が設置されると、脳内に追加されたに拠点表示が増える。
その表示で、転移可能か否か、神力ゲージの貯まり具合が見て取れる。

因みにこのによって、俺は生まれて初めて、世界というものを意識した。
普通に生きていれば、グラム王国内だけ、それもエルダーサ周辺以外に意識が向くことなんてなかっただろう。
途中の山やら川やらは把握できないが、これだけでもとんでもないチートだ。

そしてそのチートの本髄、神殿間転移によって俺が行うのは、本格的な郵便事業だ。
なるべく地味に、徹底して堅実に、この世界を支えるとして聖教国を完成させる。

『神殿は回復魔法で医療を牛耳る』というお約束が無かったこの世界、俺は『村の郵便屋さん』として、この国に、詐欺稼業から足を洗わせるつもりだ。

荷馬車で一月かかる道のりが、神殿に頼めば翌日届く。
この世界の経済はいきなり加速するだろう。
競争が激化し、小競り合いが起こっても、巻き込まれない。
俺に喧嘩を売った国は、明日荷物を届ける事ができないんだ。

俺が当日受け取るも、敵は受け取るのに一月かかるようになる。

欲をかいて世界を支配しようとしたりしなければ、まず安泰だろうし、異界神話をプッシュしてくれる国は優遇するだけで、国を挙げて洗脳にかかる事だろう。

そのための事業計画を日々考え続けてるんだけど、パソコンが無いと自分の頭が整理しきれない。

まずは扱うモノの取捨選択だ。

『手紙・物資・金・人間』

人間はナシだ。
それをやるとハンドリングしきれない。
そして本当なら、手紙はナシで物資と金だけにしたい・・・情報速度の差は絶対的な立場の差になる・・・だが・・・。
うん、やっぱ、都会に出た息子からの手紙、母ちゃんは読みたいよな?
それくらいの優しさは残してもいいと思うんだ。
リスクだが、手紙はやろう。

そして金。
これはデカイ。
今は皆、商業なり冒険者なり、所属ギルドに預けるか、タンス貯金だ。
だが、例えば、エルダーサで預けた預金を、王都で引き出すことはできない。
当然だ。
エルダーサでいくら預かったのか、王都のギルドが知る方法が無い。
地方への仕送りだって、今は届くかどうかわからない、キャラバン隊が運ぶ手紙と一緒に送るしか無い。
つまり、郵便事業と言いながら、世界銀行が誕生するわけだ。

とはいえ、預金業務は先の話だ。
まずは『届く』システムを構築しないと。

ここで大きな問題。
この世界にはが無い。
本人か確認するにも『免許証』なんて有りはしない。

冒険者ギルドのように、身分証を発行しているギルドもあるが、すべての人が加入しているわけじゃないし、そもそもギルドカードはを証明するためのもので、住所も姓も記入が無いんじゃ使い物にならない。

つまり、俺達独自の識別コードが必要になる。

うん、これもデカイ。
郵便サービスを利用するには、マイナンバーを登録しなきゃなんないんだ。
そう、未だどの国でもやっていない、国民を正確に把握するシステム、即ち住民登記簿が生まれる事になる。
そしてとんでもないのが、俺達が入手するのは、サービス圏内の、他国も含めた住民登記簿だって事だ。

識別コードはそれだけでは精々が自国の住民税をとりっぱぐれない程度の効果しかないが、他のサービスと組み合わさると一気に化ける。
例えば金融サービスと連動し始めたら?
俺達だけが、どこで金が動いているのか察知できるのは勿論、敵対勢力の口座を凍結するなんていう、卑怯な手が使い放題。
まさに夢がひろがりんぐ!

・・・いかんいかん。ついつい、前世で国税局にいじめられた記憶が俺を暴走させる。

識別コードの発行も、地方は村の教会がコミュニティーで地位を築いているからスムースに進むだろう。
問題は都市部だな・・・例えば聖都。
50万人は居るらしい・・・。
っていうかタダの連番じゃダメだな。
生涯変わらないユニークコードに、現住所で変化する可変部位、即ち便との組み合わせで整理しないと、実用速度で抽出できない。

そしてもう一つ問題。
送り手は、初めて送る相手の識別コードがわからない。

当初は『もう、全部局留めで取りに来させりゃいんじゃん?』とか思ったんだけど、神殿に毎日50万人並ばれたら確実に死ねる。

解決策はたぶんこれが妥当。

1. 送る際に、受取人を地域と名前、付帯する固有情報(家族構成とか職業とか)で特定する。
2. 台帳に記載されていない相手には、仮番号を発行して配達員が確認しに行く。

なんか恐ろしい数の紙の山に埋もれて右往左往する未来が見える・・・。
ま、でも、昔は日本もコンピューターなんて無かったんだ。
人海戦術でなんとかなるだろ。
人件費の安い労働力はアベルが次々捕まえてくるしな。

こんなとこか?
あ、でも宅配便はナシだな。
荷物は局留めオンリーにしよう。
局に荷物が着いたら電報でお知らせシステムだ。

そうなると・・・保管所と護衛か?
うん、西部劇時代のアメリカみたいに、施設も人も、郵便関連襲ったら問答無用で極刑にしよう。
配達員の戦闘力も必須だな。
請け負った手紙がオークに喰われてたらみっともない。

あ、そうなると、体よく世界各国に精鋭武力を配置できるのか・・・うぁーますます極悪企画。
よっぽどいい人のフリしないと『神理教潰して昔に戻ろうキャンペーン!』とかされちゃうな。

あとは何だ?穴は無いか?

「アンタ、また考え込んでんの?」
「ん?あー、うん」

「例の『郵便』ってやつ?」
「そう。こういうのはさ、テストで規模は小さくても、ちゃんと細部までつめてスタートしないと、グダグダんなってテストの意味なくなるからなー」

「ふぅーん。まっ、それだとあたしじゃ相談にものれないか・・・」
「おまえがカイナルドの方、仕切ってくれてるから俺はこっちやれんだぜ?どっちもお前になったら、俺、ヒモんなっちゃうじゃん?」

ぽふっ

このところシリアが甘えてくる機会が増えた気がする。
慣れない役回りで、やっぱり疲れてるんだろう。

「今は平気でも、嫌んなったらいつでも言えよ?全部放り出して速攻逃げるからな?」
「・・・もうっ、平気よ?大変だけど、やり甲斐?そういうの、結構あるしっ?」

「しかし・・・随分遠くに来たもんだよな・・・」
「ホントね?あたしの人生・・・オークの前に置き去りにされたとっから始まったな~」
「もうすぐ三年か・・・人生、楽しんでおいでですか?王妃様?」
「最高よっ!・・・ほんと・・・あんとき、アンタに縋って良かった・・・いっぱいいっぱいで、必死だったなぁ~。やばい。色々思い出したらキュンキュンしてきたわ!」

「俺の中の思い出ナンバーワンは、やっぱアレだな?『ちからづくで来いやっ!』ってやつ!」

ボッ(赤面

「あれ、すんげー嬉しかった。うん、あれが決定打だな。あれでもう、完全夢中んなった」
「青春だったわね?・・・私もずっとお姫様になったみたいで、フワフワしてたなぁ~。それがホントに王妃様ね?・・・あんなにヘタレだったのに、こんなにスケベになっちゃって?」
「うむ。実際、自分でも驚いてる」

「ねぇ?首輪、してあげよっか?」
「あー、アレな?なんか手に入れたらさ、もうそんなに欲しいもんじゃ無かったって気がついちゃった。だってさ?おまえ、全部オレのじゃん?実際手に入れて、どんな事しちゃおっかな~って考えたんだけど、思い浮かばんっ!首輪が必要なのって、自信が無いからなんだよな?」
「・・・まぁ、お願いされたら、結局なんでもシちゃってるわね・・・」
「うん。つまり、今のおまえに不満なところとか一つも無いんだな。むしろいつも俺の想像以上で、最高の女だ」
「アンタも・・・ほんと、最高の男よ?」


~~~~~


同刻、聖都某邸宅。

「なんだ、お前も戻されたのか?」

「ええ。誰のおかげで帝国と友好関係が維持できているのか、あの小僧にはわかっていないのでしょう」

「まったく、ホルジス様もどういうつもりなのやら、この国はもうだめだのぅ」

「教務長もすっかり小僧の言い成りで、上級神官は皆、猊下のお戻りを切望してますよ」

「儂ものぅ、長年お使えしてきたというのにこの仕打じゃ。くやしくてのぅ・・・」

「まったく汚らわしい限り。亜人の小娘が我が物顔で予算を取り仕切り、小僧の妾は神聖な神殿に浮浪者どもを寝泊まりさせる始末。このままでは完全に乗っ取られてしまいます」

「ふむ、それほどか・・・なにか・・・考えるべきかもしれんのぅ・・・」



慈悲という名の甘さが、聖都の隅に少しずつ、黒い染みを滲ませていた。

(第一章 完)
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