I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第四章

162 誤算

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「おっはよー、あれ?師匠、早いね?今日は寝坊すると思ってた」
「あー、うん、そうかな?」

「おはよう。あら?エマさん、思ったより普通ね?で・・・アンタはナンデそんなドンヨリしてんの?」
「・・・俺は・・・俺はがんばった・・・すごくがんばったんだぞ!」
「あーうん、思ったほど・・・良くなかったかな?奴隷紋」

「えっ?そうなの?エマさんあんなにノリノリだったのに?」
「なんていうかな?『ジタバタしても逃げられないっ!』っていうのが興奮するのよね?はなっから力が入んないとか、盛り上がるタイミングが掴み難い?ビジュアル的にもエグ味が足りない?」
「ううう」
「それに?至近距離で眉無しはで怖い?みたいな?」

「言葉のナイフが俺を傷つけるぅぅぅぅ」

「姉さんがた、おはようございま・・・兄さん、朝からそのビジュアルはどうかと思うわ?」

「しどい・・・みんながこうしろって言ったんじゃんか!」

俺が眉と髪を失ったことは報告済みだ。
だが、それだけじゃ無かった。

俺はワリと色っちろい。
それが犯罪者風味を醸し出しているという暴論が繰り出された結果、足首から顔面に至るまで、漏れなく全身にタトゥーを入れられた。
リシェルが連れ帰った彫師さん二名と、錬金術師さん一名のコラボによる大作である。
異世界バージョンと言っても過言ではない。

そして与えられた衣類は、ピチピチの革パンに鎖がジャラジャラついたブーツ。
あとは頭部がすっぽりと覆われるフード付きのローブだけ、シャツの着用は認められなかった。

「まぁ、魔族感?かなり出てると思うわよ?そうよね?」

(((((コクコクコクコク)))))

食堂の一角を陣取っているというのに、職員たちのスルーりょくが半端ない。
突如として出現した世紀末パンクロッカーを視界の隅で捉えても、立ち止まること無くカウンターへと歩いてゆく。

「終わったら消してくれるって、錬金術師さん言ってたじゃないですか?さっ、今日は魔族の街にデビューですよ?ご飯ご飯!」

「カイン様、肉入りスープ500人分、出来ています」
「ラティア、ありがとう」

巨大な寸胴鍋を幾つも収納し、目の前の皿によそわれた同じものを口に運ぶ。
なぜだろう?でっかい鍋を見ちゃうと、いつもの味なのにイマイチ大味に感じる。
たまに一念発起して料理作ってると、食べる前にお腹いっぱいになっちゃうあの感じ?

「で、ほんとに予行演習すんの?」
「当然でしょ?いきなり街に行ってバレバレだったらバカみたいじゃない?」

スープは青の隠れ里に持っていく、アポなしドッキリのの品だ。

「おはようございま・・・猊下・・・ついに魔王の自覚に目覚めたのですね」
「苦虫くんにまでディスられた・・・シニタイ」

「ほら?あたしたちの言ったとおりじゃない?真っ先に出た言葉が『魔王』よ?完璧ね?」
「で、皆さん、なぜいきなり奴隷に?」
「おま・・・以外に冷静だな?」
「猊下基準で考えれば、この程度は割と常識の範疇かと」

うん、苦虫くんが着々とヤザン化していっている。

「あー、一応ここじゃマズイ。飯食ったら執務室でヤザンにも説明しとこう」



~~~~~



「で、皆様でこれからその『隠れ里』を脅かしに行くと?」
「おま!そういう言い方すんなよ!遊びに行くみたいに聞こえるじゃん?」
「違うのですか?」
「魔族を見たことがある向こうの大陸基準で、ちゃんと魔族っぽく見えてるか確認に行くんだよ。仕事だぞ?ちょー仕事!」

「はぁ・・・あっ、猊下、出かける前にココに判子下さい」

なんだろう、俺たちの2倍以上も魔族が存在するって教えたのに、思いの外この二人にダメージが無い。

「なぁ?人類的に結構ピンチだと思うんだけど、なんでそんな余裕なの?」
「そちらは猊下がなんとかしてください。我々は人材不足で手一杯です。あっ!使えそうな方でしたら魔族でも構いませんから、雇って来て頂けますか?」

「・・・そういう感じ?」
「ほら、アンタ?二人とも忙しそうだから邪魔しないで行くわよ?」
「・・・はい」



~~~~~



「「「「「申し訳ございませんでしたー」」」」」

うむ、ロックハウス家のシンクロ土下座、素晴らしい統一感だ。

「御使い殿、我らはずっと魔族に怯える生涯を送ってきているのです。確認の為とはいえ、これは少々度し難い」
「こちらが、お詫びのスープです。温かいうちにお収め下さいっ!」

「ふーっ・・・先日もオークを頂いた恩がある。ですが、次はありませんぞ?」
「はいっ!もうしませんっ!」

ドッキリは大成功だった。
子供たちは泣き叫び、女たちは半狂乱、男たちは震える脚を前に出し、懸命に槍で突いてきた。
ものすごく、後味が悪い。

「して、そちらの奴隷たちは?」

「正妻のシリアよ?昨日奴隷になったわ?よろしくね?」
「性奴隷のユリアです!ずっと奴隷ですっ!」
「エマよ?奴隷は思ったほど良くなかったかな?」
「愛人兼見習い奴隷のラティアと申します」
「愛人の娘で奴隷のアリスです」
「婚約者で奴隷のリシェルです」
「お風呂当番から奴隷になったミランです」
「スージーな?奴隷はまだよくわっかんないな?」
「おれっちがライザだっ!奴隷になって鍛えるぜっ!」
「我が名はアルフレッド・グラハム・カインズ!誇り高き奴隷だ!ライザの夫でもある!」

おまえら・・・・。

「・・・御使い殿」
「いやっ、俺じゃないぞ?おもにシリアが決めたんだからな?」
「まぁ、いずれにしても、その出で立ちで、これほど多くの奴隷を連れ歩いていれば、万が一にも人間とは思われないでしょう。魔族の多くは鬼族ですが、街にはかなり幅広い種族がいるそうですから」

ここに居る人間の大半は街に入ったことがない。
一度入ったら逃げ出すことはまず無理らしい。
ごく一部、偶然街の外にいる時にあるじが死亡し、かつ、主死亡時の行動規定が刻まれていなかった幸運な者だけが、街の中を知る自由民だ。

俺たちはそのから更に情報を聞き出し、街へと向かった。



~~~~~



ジャラジャラゴトゴトッ ジャラジャラゴトゴトッ

豪奢な荷車。
その荷台には玉座よろしくゴテゴテした鉄製の椅子が据え付けられ、荷車から伸びる鎖が、奴隷女たちの首輪に繋がれている。
奴隷に引かれる荷車。
馬車ならぬ奴隷車だ。

その玉座に深く腰掛ける俺の傍らには、露出度の高い扇情的なドレスを身にまとったシリアとユリア。
フレッドは護衛役っぽい出で立ちだが、そのおでこには奴隷紋が刻まれている。

どこからどう見ても、人を人と思わぬ凶悪な魔族。
街を知る里の民にも太鼓判を押された。
ヒャッハーとしか言えない光景だ。

「はい、みんな?もっとこう、うつろな感じでね?ライザさん?ちゃんと鎖持って?首で引くとか普通ムリだからね?」
「はぁはぁ・・・これはちょっと、かもしれないかなっ?」
「奴隷紋が見えやすいのはわかるけど、ビキニで街に入るなんて・・・人間の国だったら絶対ムリですー」
「でもちょっと、わくわくするなっ?でっかい魔族居るといーなっ?」

「よしっ、城外門が見えてきたぞ!みんなっ!辛そうに頼むぞっ!」

レベル50超えの人外一座にとって、荷車を引くくらいなんでも無い事だ。
なるべく辛そうに、人生に絶望した表情で力無く、無理くり引かされてる感じが好ましい。

ヒソヒソ

(ねぇ?人間の街と同じね?みんなちゃんと並んで待ってる)
(うわっ!すごっ!あの人、腕が六本もあるよ?)
(しっ!静かに!中に入るまで、みんな無言よ!)

入場の列がゆっくりと進んでゆく。
幸いなことに、身分証の確認は無く、衛兵達の間を進んでゆくだけのようだ。
だが・・・少々居心地が悪い。
周囲の視線がジロジロと突き刺さる。

ジャラジャラゴトゴトッ ジャラジャラゴトゴトッ

門を抜け・・・「おいっ!そこの荷車っ!止まれっ!」

くっ・・・バレたか?
衛兵は一番オーソドックスな鬼族タイプ。
ハイオーガとかあの辺の上位種なんだろうか?
今の俺ならやってやれない事は無いだろう。
だが衛兵は四人、更に周囲の魔族市民が加わる可能性もある。

「えー、あー、俺の事か?」
「そうだ・・・お前なぁ?どこから来たのか知らんが、今どきコレはマズイだろう?このまま街に入ったら、あっという間に奴隷保護団体のやつらに吊るし上げられるぞ?」

奴隷保護・・・団体???

「それにこの街じゃもう奴隷に鎖は禁止になってる。奴隷紋以外の拘束は罰金だぞ?全部奴隷紋刻んであるんだろ?」
「ああ、刻んであるが?」
「ならここで鎖は外してけ。手に鎖を持たせて、荷車を引かせる分には問題無い。だが首輪に繋ぐのは禁止だ」

「あー、すまん。かなり遠くから来たんだ。教えてもらって助かった。因みにこの街の名はなんと言うんだ?」

「南の方か?向こうはまぁ、そういう国もまだ多いからな。この街の名は『ニボラー』、広場んとこの役場に行けば、街の規則が張り出してあるから、目を通すといい」

「何から何まですまんな、感謝する」

「これも仕事さ、いいってことよ」

ビキニ奴隷に引かれた荷車の神輿が大通りを行く。
人々・・・魔族々?が眉をしかめて俺を睨む。
めっちゃ居心地悪ぅぅぅぅ。

「ちょ!とりあえず、宿を探そう。なんか話と全然違うし!」
「そうね?アンタ、めちゃくちゃ悪目立ちしてるわね?」

俺たちは逃げるように宿へと駆け込んだ。
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