立春

澤村 通雄

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水死体

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10分後、ホテルみずなみの支配人が、大きな懐中電灯を持ってやってきた。



やぁ、お客さん、大変なこったなぁ。
どこさ、その、ひとの足は。





あそこです。
あの、木の枝に引っかかっているあの、白いの。




あ~、あれね。
あれさぁ、人の足じゃなすか。
大変なことになっただなぁ。




警察の人、まだですかね。
しかし、この雪の中でも、湖は凍らないんですか?


ここの水は、冬でも凍らねえ。
神秘の湖っちゅう、人もおるだね。
魚はおるんよ。
ヒメマスやら、ワカサギに、地元のワインがまた格別なんだねぇさ。
あの、半島に見える、十和田神社は竜さまのパワースポットなんだべ。
お客さんは、もう行っただか?



いえ、まだです。
あっ!警察来た!




1台のパトカーが雪道をノロノロと、暗闇からやってきた。
車の中から2人の制服を着た警官が下りてきて、手には懐中電灯を持っている。
ホテルみずなみの支配人は、持っていた電灯で、遠くにいる警官に合図した。

2人の警官もゆっくりと、こちらに光を照らしながら、向かってきた。



いや~、遅くなって申し訳ない。
警部補の、井上です。
巡査部長の、森です。
問題の人の足のようなものは、どこですか?





あそこです。
竹ノ内は、支配人が照らす先の水面を、指さした。





あ~、あれですね。
う~ん、はっきりとは断定できないが、しっかり調べたほうがいいですねぇ。
ちょっと、応援呼ぶかっ。
おい、森っ!





暫くして、5台ほどパトカーが来て。
対象物を、大きなストロボライトで照らし。
4名ほどの警察官が、水中着を着て、水中ライトを手に、ゴムボートで問題のものに、近づいていった。






いや~、こんなぁざむいのにやぁ、大変だべなぁ~。

支配人が体を震わせながら、タバコに火をつけた。
あんたも、吸うけ?




じゃあ、一本だけ…


竹ノ内は、支配人からもらったハイライトを、深く吸い込み、ハァ~っと息を吐いた。



大変だにぁ~。

まったく、大変ですね。

お客さんはいつまでうちに?

いやぁ、仕事できているんですが、まだ決めてなくって。

どういう事さぁ?

わたし、小説作家なんです。
次の新作に取りかからなくてはいけなくて、それで取材に…


こげなとこで、なにを取材するだぁ?
な~んも、ねえとこだべ。



支配人、さっきおっしゃったじゃないですか。
十和田湖の凍らない話とか。
魚の話とか。
十和田神社の竜の話も。
支配人はここの人だから、当たり前のようなことでも、わたしのような外部の人間にはとても新鮮で。
まだまだ、いっぱい小説の材料になるものは、眠っているんですよ。
あと、湖と聞いて何か思い浮かぶもの、ありますか?



むつ市にある恐山の、宇曽利湖が有名だべ。
恐山菩提寺のイタコやら、昔のアイヌ文化とか、この青森はほんとに神秘的なとこさな。



そうですか、参考になりました。
ありがとうございます。




あのぉ、通報された竹ノ内さん?



はい、わたしです。




こちらは?




わたすは、そごのホテルで支配人をしてる者だす。






竹ノ内さん、念のため住所と名前のわかるもの、ありますか?



はぁ、自動車の免許書ならありますが…



こちらの、支配人さんは?



これ、わたすの名刺だす。




ちょっと、お2人にお話しが。
支配人さんのホテルのロビーでも、お借りできますか?



いえ、うちは結構だども。
あの浮いてるもの、なんだったかわかりましたのか?





はい。
水死体です。





いや~、こりゃ、えらいことになったなぁ。
まぁ、刑事さんも、お客さんも、はいってはいって。
お~、さむいさむい。
しばれるな~ぁ。




















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