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4. 検索
しおりを挟む「……はぁ」
お昼の繁盛時――常連の木村を含めて四人しか来なかったが――を終えて、ゆかりは控え室のパソコンに向かっていた。
アップルパイが焼き上がる時間もあり、ランバートを上に残して来てしまったためゆかりは仕事中ずっと心ここに在らずといった状態だった。
時計を見ると、ゆかりが喫茶店に下りて来てから三時間は経っている。
迎えに来ると言っていたから、もういなくなった頃だろうとも思うが、鉢合わせるのもいやなため、上に確認に行けずにいた。
(確か、サンヴァウム……だったかな?)
男の出自について何か手掛かりはないかと検索エンジンに入力してみるが、サンヴァウムという国もエスカトスという惑星も存在せず、詳しいことは何も分からない。
一応念を入れて『サンバウム』なんてものも検索してみたが、出てくるのは布面積の少ないカーニバルな姉ちゃんだけだった。
転移装置についてはワープみたいなもので実際には存在しないものだということ、魔物に至ってはファンタジーな世界のはずなのにやたらとグロデスクな生き物の絵がいっぱい出てきて少し気分が悪くなった。
「……宇宙人」
これに限っては、『いる』という意見も多かった。
写真については合成のようなものが大半だったが、やはり灰色のタイプ――グレイというらしい――ばかりだった。
一瞬、ランバートを写真に撮って投稿してみるのはどうだろうかと頭に過ぎったが、すぐにその考えを払拭する。あまりに人間らしい彼の写真を載せたところで、悪戯と判断されて信じてもらえなさそうだ。
(あとは……)
――異世界。
自分たちが生活している世界とは別の世界のこと。
そう表示された説明文に、ゆかりは唸り声を上げた。
妖精や魔物、ドラゴンなんかが出てくる所謂ファンタジーな本も、この異世界を題材にして書かれているらしい。
宇宙人をとるか異世界人をとるか。どちらも信じ難い内容ではあるが、気分的に異世界人といった方がマシな気がするのは気のせいだろうか。
それに、先程は聞くことがありすぎてスルーしてしまっていたが、突然トイレの中に現れたあれももしかすると魔法というやつではないのだろうか。
(……まあ、本人も異世界から来たって言ってたし)
宇宙人でも異世界人でもゆかりにとって差異はないように思える。何にせよ、お仲間が引き取りに来てくれるならそれが一番だ。
時計が三時を報せる音が聞こえて、ゆかりは思考に区切りをつけるとパソコンの電源を落とした。
ランバートのことが気になりすぎて仕事にならないし、少し早いが今日はもう閉めることにする。
表に出していた看板を引っ込めるついでに通りを見回してみたが、これから店を訪れそうな人はいなさそうだ。
札を『CLOSE』に裏返したあと、店内の清掃に取り掛かる。
テーブルを拭きながら耳を澄ましてみたけれど、上階からは足音一つ聞こえなかったため、彼は既にいなくなったのかもしれない。
今朝の占いで言われた『人生を揺るがすこと』がゆかりには宇宙人――もとい、異世界人が家に現れるといった形で本当に起こったわけだが、他の山羊座さんもこれ程奇妙な体験をしているのだろうか。
夜になったら友達に電話しよう。現在進行形だとあまり話せる内容じゃないけれど、済んだ話としては面白おかしく話が出来そうだ。
もう一度耳を澄まし、何も物音がしないことを確認したゆかりは、財布とスマホが入っただけの小さな鞄を手に、夜ご飯の買い出しに出かけた。
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