家に異世界人が現れた

鈴花

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13. 探索

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 かちゃん、と何かが倒れるような小さな音でゆかりは目を覚ました。
 音のした方へ目をやると、リビングに面するドアの隙間から明かりが射し込んでいる。
 豆電球の微かな明かりを頼りに頭上の時計を確認すると、時刻は午前四時。まだ起きるには早い時間であるが、昨夜早く眠りについたため頭はすっきりとしている。
 耳を澄ませば、何やら呟く声や服の擦れる音が聞こえてきた。
 もしかしたら、ランバートの迎えが来たのかもしれない。
 ゆかりはベッドから抜け出すと、そっとドアを開け、様子を覗った。

「む……起こしてしまったか?」
「あれ? ランバート一人? 何か話してなかった?」

 ドアを開く音などしなかったというのに、ゆかりの存在にすぐ気付いたランバートはきっと有能な騎士なのだろう。
 きょろきょろと見回し、他の者がいないことを確認してから部屋を出たゆかりの様子に、ランバートが顔色を曇らせてキッチンから出て来た。

「目が覚めたから水を飲もうとしたのだが、コップを割ってしまった。一応治してはみたのだが……」
「このコップ? ……おおっ、凄い。元通りじゃん!」

 ランバートの手に握られたそれは、欠けている部分もない程完璧な形を保っており、言われなければ割れていたことなど知らなかっただろう。
 ゆかりが素直に賞賛すると、ランバートはむず痒そうに頬を掻いた。

「寝直す? それともまだ早いけどご飯でも食べる?」
「そうだな……ゆかりの負担でないのなら、飯を頼みたい」
「りょーかい。じゃ適当に座ってて」

 どうやら晩御飯が早かったから既に腹ぺこらしい。
 無理強いこそしなかったが、早速朝食を作りにかかる彼女を見る目は嬉しそうに輝いていて、まるで餌を前にした大型犬のようだ。
 ゆかりは気付かれないようにこっそり笑うと、フライパンに卵を割り入れた。


   ◇◇◇



 朝食を食べ終え、時間を持て余していた二人は「まだ時間あるし、そこら辺見てみる?」というゆかりの提案によって急遽外出することにした。
 未だ寝静まっているご近所さんへ配慮して、極力静かに扉を閉める。
 ランバートにとって日本に――というより地球に来て初めての外だ。
 ランバートだって異世界について色々知りたいだろうし、もし修司との会話で話を振られたときに知っていることが多い方がいいだろう。
 七月に入り、大分日が出るのが早くなったとは感じていたが、五時過ぎの時点で既に日が登っているのを見て、ゆかりはうんざりとした表情を浮かべた。
 目に付く物を小さな声で説明していく彼女に、ランバートも目を輝かせて頷いていく。
 家の周りをぐるりと回り、ある程度の説明を済ましてしまい家に戻ろうかとしたところでゆかりの頬を潮風が撫でた。

「ねえ、ランバート。海は知ってるの?」
「おお、それはこちらの世界でも聞いたことがあるぞ。俺は見たことがないが、隣国にあるとか。何やら広大な湖のようなものだとか」
「近いし、行ってみる?」
「いいのか!? ぜひ見てみたい」

 思わずといった様子で大きくなった声を抑えて、ランバートが懇願する。
 目に見えて弾む態度のランバートに苦笑すると、ゆかりは再び足を進めた。

「これが……」

 住宅街を抜け、開けた視界に日光を浴び輝く海が現れた。
 今二人がいる場所は船着場にもなっていて、早朝だというのに漁へ向かう漁師たちが慌ただしく船の準備を行っていた。
 言葉をなくし呆然と水平線を眺めるランバートの様子に、案内したゆかりも得意げだ。

「もうちょっと向こう行ったらビーチがあるから行ってみよう」
「……あ、ああ!」

 海に沿って数分歩くと、真っ白な砂浜が姿を現した。
 夏場には人でごった返すこのビーチも、まだ早朝のこの時間だと誰もおらず、この景色は二人だけのものだった。

「む……歩きづらいな」

 砂に足を取られて苦戦するランバートを笑いながら、履いて来ていたサンダルを脱いでゆかりは打ち寄せる波へ足を浸した。

「わっ、冷たっ!」

 ひんやりとした温度に悲鳴を上げた。
 ランバートの心配そうな眼差しを受けて、ゆかりは少し照れ臭そうに目を逸らした。

「今度修司が海入るって言ってたからちょっと油断したの!」
「海に……入るのか?」
「え? うん。水着着て泳ぐんだけど、暑いときは水が気持ちいいんだよねー」
「水着……?」
「月末になったら入れると思うし、そのときは――……あー、そっか」

 一緒に海で泳ぐのもいいかもと誘いかけて、ゆかりは口を噤んだ。
 ランバートには異世界で待っている人たちがいる。近いうちに元の世界からの使者がやって来て帰って行くのだ。
 月末にはとっくにいなくなっていることだろう。
 ランバートも残念そうだが、こればっかりはどうしようもない。
 ゆかりは寄せては返す波に恐る恐る手を伸ばして触れるランバート――というよりその着ている服を見つめた。

(いつ帰るか分かんないし、色々経験させてあげてた方がいいよね)

「夕方までに迎えが来なかったら服買いに行こうか。ほら、さっき教えた『車』に乗ってさ」
「おお! あれに乗れるのかっ! だ、だが服となると金が……」
「男物はあんま詳しくないけど、大丈夫っしょ。高くて買えないやつはちゃんと言うから、そんな心配しなくていーよ」

 お金に関しては少しゆとりがあると前に説明していたこともあり、申し訳なさそうにしてはいるが、車に乗ることが出来ると知り心躍っているようだ。
 楽しみが出来たことでその日のランバートは無駄に張り切って働き、ゆかりから生暖かい目を向けられるのであった。

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