新米エクソシストは転職したい

鈴花

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07. 買い物とタダ飯

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 わたしもシリルくんも両手に抱えきらない程の袋を抱えて家路を辿る。
 流石にベッドは持てないから業者の人が明日運び込んでくれることになったんだけど、生活用品……特に服を買いすぎた。
 いや、ね。久しぶりの買い物だったから、わたしもつい買いすぎたというか。
 ちょうど安売りセールがあってたから財布の紐も緩んだというか、ね?

「……あれ? 今帰り?」
「あ、カイルさん。こんばんは」
「そうだ。夕食まだなら昨日のお礼にご馳走するよ。と言っても外食だけどね」
「ええっ、いいんですか!? それじゃあお言葉に甘えて」

 降って湧いたタダ飯に心の中でガッツポーズする。
 家事をしなくていいってことも大きいけど、久しぶりの外食に心躍る。
 一人暮らしだとなかなか外食する機会ないしね。
 ……友達がいないわけじゃないからね!

 ということで、帰って来て早々外出が決まったわたし達は、両手を塞いでいた戦利品を玄関先にぽいするとカイルさんと一緒に夜の街へ繰り出した。

 アパートを出て歩くこと数分。
 人の込み合っていない小奇麗な居酒屋を見つけられたのは重畳だった。
 美味しい――しかも安価な――料理をたらふく食べて、お酒を飲む。これ以上幸せなことなどあるだろうか。いや、あるはずがない。
 オレンジ色のカクテルで喉を潤しながら、わたしのお気に入り店にランクインさせた。

 お勘定のために席を外したカイルさんを待つ間、何の気なしに通行人を眺めていたわたしはに一瞬で目を奪われた。
 白いもふもふ毛皮にでっぷりとしたお腹、ニヒルな笑みを浮かべた頭の上にはちょこんとハンチング帽が乗せられている。
 間違いない。あれはマイナーながらも根強い人気を誇る雪熊太郎だ。
 雪が降り続く地域にしか存在しない熊をモチーフにしたキャラクターなのだが、東の端の国が作ったのを輸入しているということもあって流通量が少ない。
 子供程の大きさのぬいぐるみを抱えて歩く女の子を目で追っていると、隣から神妙な声で呼びかけられた。

「ねえ、カティはああいうのが好きなの?」
「え、うん。そうだね」
「え……例えば、どういうところが?」

 わたしの返答に驚愕の表情を浮かべたかと思えば、何故か不機嫌になったシリルくん。
 よくわからないけど、ここは雪熊太郎を広めるチャンス。
 認知度が上がれば、扱うお店も増えるかもしれない。

「そうねぇ……まず、いつもの優しい顔。それと比べてたまに浮かべるニヒルな笑みのギャップも捨てがたい。触り心地がいいのはもちろんだし、それに何よりあのお腹!」
「……は?」

 途中まで「うん、うん」と頷いていたシリルくんが固まった。
 やっぱり口で説明するより、実物を触ってもらった方がよかったか。
 女の子はもう行ってしまったから、帰って家にあるのを見てもらおう。

「えっと、カティ? それ、何の話?」
「え、雪熊太郎のことでしょ?」

 「後で見せてあげるね」と続けると、シリルくんは曖昧に頷いた後カイルさんの方に視線を向けて声を潜めた。

「カイル……兄さんのことはどう思ってるの?」
「カイルさん? 押しが強いよね」
「……それだけ?」
「え、うーん、そうだなぁ……距離が近い?」
「――ふ、」

 不安げだった表情から一転。突然吹き出したシリルくんにびっくりする。
 口元を押さえたまま肩を震わせて笑うシリルくんは、余程面白かったのか涙目になっている。

「――楽しそうだね」
「あ、カイルさん。ご馳走様です」
「ごちそうさま……ふはっ」

 シリルくんの笑いがやっと落ち着いた頃、お会計を終えたカイルさんが戻って来た。
 カイルさんの責めるような視線にシリルくんの笑いが再発してしまって、誤魔化すのが大変だった。
 本人に「カイルさんの印象の話をしていた」とも言えず、しどろもどろになったわたしの苦しい言い訳を追及しないでくれたカイルさんの優しさに感謝だ。
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