縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

文字の大きさ
14 / 48
第1章

第6話 ルーナの服と勇者ライス(前編)

しおりを挟む
「リックお兄ちゃん」

 まるで森の妖精のようにウォルナーさんの影から顔を出したのは、ルーナだった。

 その姿を見て、俺は目を丸める。

「ルーナ、その格好……」

 ルーナが着ていたのは、奴隷の服ではなかった。
 普通の洋服だ。
 ふわりとしたピンクのワンピース。
 襟元には白いフリルがついていて、とても可愛い。
 髪もちゃんと梳かしてもらったらしく、綺麗な金髪が輝いてみえた。

 頭には、茶色の革の帽子を被り、耳ごと覆っている。

 ああ。生きてて良かった。
 とても可愛いぞ、ルーナ。

「お兄ちゃん、あんまりジロジロ見ないで……。恥ずかしい」

 ルーナは顔を赤くして、またウォルナーさんの影に隠れてしまった。

 ところで、その洋服はどうしたんだろうか?

「あたしの小さい頃の洋服だ。クローゼットの奥で眠ってたヤツを引っ張り出してきた」

「ウォルナーさんの小さい頃………………」

 俺はウォルナーさんを見上げる。
 彼女がルーナぐらい小さかったとはとても思えない。
 すると、ウォルナーさんはじっと俺を睨んだ。

「あたしだって、子どもの頃ぐらいはあったさ」

 どうやら、俺が考えていることがお見通しだったらしい。
 これ以上突っ込むと、後ろのヴィンターみたいに張り倒されそうだからやめておこう。

「ウォルナーさん、ありがとうございました」

 頭を下げたのは、ネレムさんだった。

 ネレムさんとウォルナーさんは知り合いだ。
 『静かな狼』を紹介してくれたのも、その関係があったからだった。

「こちらこそすまない。馬鹿が迷惑かけたみたいだね。それより、なんだい? ファイヤースライムだらけじゃないか」

 ウォルナーさんは、ギルドの惨状を見て呆れた。
 トラブルこそ片付いたが、指摘通りファイヤースライムの残骸があちこちに散らばっている。
 俺は苦笑い浮かべるしかなかった。

「どうやら、成果はあったようだね」

 ウォルナーさんは珍しく笑う。
 だが、すぐにいつもの怖い顔になった。

「とっとと換金して、この子にご飯を食べさせてやんな」

 ウォルナーさんはルーナを置いて、ギルドを後にする。
 俺は慌てて引き留めた。

「ちょっと待ってください、ウォルナーさん」

「うん?」

「一緒に食べませんか? 奢りますから。ルーナの面倒を見てくれたお礼です」


 ◆◇◆◇◆


 俺とルーナがやってきたのは、ウォルナーさんのいきつけだった。
 酒場にでも連れていかれると思ったが、普通の大衆食堂だ。
 賑やかな声が、外まで漏れている。

 スイングドアを開き、ウォルナーさんを先頭にして中に入る。

 やはり繁盛しているらしい。
 テーブル席はほとんど埋まっていた。

「おお! ウォルナー。久しぶりだな」

 カウンターの向こうから、威勢のいい声が聞こえた。
 店主が忙しそうに手を動かしながら、ウォルナーさんに声をかける。

「3人だ。空いてるかい?」

「悪いけど、カウンターしか空いてないんだ」

「それでいい」

 俺たちは着席する。
 少し背の高い椅子にルーナは苦戦していると、見かねたウォルナーさんが襟首を捕まえて座らせた。
 そんな猫じゃないんだから、優しく。優しく!

「何にする?」

 店主は注文を尋ねる。

「あたしはいつもの。こいつにも同じもんを出してやっとくれ。ちっこいのは……」

「子どもでも食べられそうなものとかあります?」

 俺が尋ねると、店主は愛想よく「あいよ」と応え、白米を炒め始めた。

 ウォルナーさんはドリンクを注文する。
 俺はとりあえずジュースを。
 ルーナには、ミルク。
 ウォルナーさんは、トニックウォーターを頼んだ。
 本当は酒の方がいいというが、宿に仕事を残して出てきたらしい。

 景気よくグラスを合わせて、乾杯する。

「これ、なんの乾杯ですか?」

「決まってるだろ。新人冒険者の初クエストクリアを祝ってさ」

「はは……」

 俺の奢りなんだけどな。
 ま、いっか。
 こういう祝いの仕方も悪くない。

「随分、ネレムに気に入られているんだな、お前」

「おかげさまで」

「若いが冒険者を見る目は確かだ。度胸もあるしね」

 それは俺も同じ事を思った。
 いくら職員だからといって、武器を持っている相手に、あそこまで敢然と立ちはだかるとは……。
 冒険者もそうだが、ギルドの職員もまかり間違えば、命を落としてしまう危険な仕事なのだ。

「ネレムの言うことは、ちゃんと聞きな。そうすれば、一流の冒険者になれるよ」

 太鼓判を押される。
 少し照れくさい。
 こうやって人に誉められるのは、異世界に来て初めてだった。

「ウォルナーさんも冒険者だったんですよね」

「まあね」

「なんで辞めたんですか?」

「平たくいえば、年齢としさ。とはいえ、まだやれたとは思うけどね。だけど、あたしがいつまでも居座っていると、若い者が育たないと思ったのさ」

「だから、宿屋を?」

「あんたみたいな金のない新人冒険者はいくらでもいるからね。格安で、ゆっくりと眠れる場所を作りたかったのさ」

 冒険者とは因果な商売だ、とウォルナーさんは語った。
 魔物を倒しに外に出れば、否応でも緊張する。
 野営をして、パーティーの仲間に守られていても、ぐっすり眠れた試しはない。
 どんなに強くなってもである。

「城壁の中にいても同じさ。この仕事は恨みを買いやすいからね。同業者にブスッと刺されるなんて日常茶飯時なのさ」

「俺も気を付けないと」

「そうだ。この子と約束したんだろ? パパとママを見つけるって」

「ルーナから聞いたんですか?」

「立派じゃないか。頑張りな」

 また背中を叩かれる。
 やっぱり凄い力だ。

「ウォルナーさん、奴隷が売られてるところとかって知ってます?」

「何件か心当たりはあるけどね。今度、声をかけておいてやろう」

「ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。


(※ 後編へ続く)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...