縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第13話 武器屋とカタナ(前編)

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 俺がまず最初に向かったのは、武器屋だった。
 ネレムさんに紹介してもらった店である。
 中に入ると、剣や槍の他にも、鎧や盾なんかも置いてあった。

「ほう。本当に黒い髪と黒の瞳だ」

 店主デレクーリさんは目を細めた。
 ちょっと変わった人で、いきなり髪を触らせろといってきた。
 ネレムさんに聞いていた通り、好奇心旺盛な人らしい。

「お前の噂は聞いてるよ、外れ勇者殿。だが、まあ……他ならぬネレムの頼みだ。きちんと世話をしてやるよ」

「お願いします」

「で、どんなのがほしい」

「まず全身をカバーできるような防具がほしいですね」

 俺はギラードウルフとの戦いについて話した。
 デレクーリさんはしばらく黙って聞いた後、1つの防具をカウンターに広げる。
 それは鉄線で編んだ服だった。

鎖帷子くさりかたびらだ。刺突耐性や衝撃吸収力は弱いが、斬撃にはもってこいの防具だな。冒険者の定番ともいえる」

「着てみていいですか?」

「おう」

 早速、着てみる。
 少しゴワゴワしてるが、動きに問題ない。
 試しに身体を動かしてみたが、特に引っかかるようなことはなかった。

 うん。これはいいものだ。

「1着下さい」

「毎度あり。ついでにブレストアーマーとシールドはどうだ?」

 ブレストアーマーというのは、いわゆる胸の部分を厚い鉄板で覆うような防具である。人間の急所である心臓、さらに脆く折れやすい肋骨の保護に役立つ。全身鎧フルメイルと違い、軽く、動きやすかった。

 おそらくデレクーリさんは俺の動きを見て、動きやすさを重視した方がいいと思ったのだろう。

 さすがはネレムさんが勧めてくれた武器屋の店主である。

「ブレストアーマーは1つ。シールドは……試しに試着させてもらっていいですか」

「おう。いいぜ」

 俺は左腕に装着する。
 悪くはないが、少し重い。
 これだと、使う武器が制限されるよな。
 守れるのはいいけど、若干視界がふさがれるから、多対一の時に左手側のカバーが遅れるような気がする。

 ――って、なんで俺、玄人みたいなことを言ってるんだろうか。

 まだ魔物とは2戦しかしてないのに。
 そもそも戦いに対して、あまり恐怖がないのもおかしい。
 初めは記憶がなくて、ステータスが高いからだと思ってたけど……。
 なんかそれとは違うんだよなあ。

「そりゃあ……。あれじゃねぇか。あんたが『勇者』だからだろう」

 突然、デレクーリさんは言った。
 どうやら、気付かないうちに俺は口に出してたらしい。

「『職業』の補正は、性格にも反映されるって話だ。『勇者』はその名前の通り、勇ましい者ってことだろう。だから、戦いに恐怖を感じないんじゃないか」

 なるほど。
 そういうことか。

「じゃあ俺の場合、敵陣奥深くに突っ込んだ戦いができるってことですよね」

「だな――」

「じゃあ、シールドじゃないな。もっと軽いものはないですか?」

「なら、ガントレットでどうだい?」

 デレクーリさんは左手用のガントレットを出してくる。
 二の腕付近まで覆うような防具だ。
 そこそこ分厚い。
 これなら衝撃を逃がせるだろう。

「買います」

「毎度あり。鉄のブーツはおまけしておいてやる」

「え?」

「買っておいた方がいい。足ってのは、冒険者にとって命綱みたいなものだ。腕を斬り裂かれても動けるが、足が切られると動けなくなるからな」

 確かに……。
 魔物を前にして、動けないというのは、ほぼ致命傷といってもいいだろう。

「でも、いいんですか? タダで?」

「ネレムから引き受けたお客さんだ。オレんちの防具で死なれたとあっちゃ。あの嬢ちゃんに顔向けできねぇよ」

「デレクーリさん、いい人ですね」

「よせよ。おだてたって、これ以上はおまけしねぇぞ」

 照れくさそうに、デレクーリさんは鼻の頭を掻いた。



 さて次は武器だな。
 俺は片っ端から武器を触ってみた。
 剣に始まり、槍、弓、爪、斧、鎚……。
 ほとんど触ってみたが、ピンとこない。
 手に馴染まないっていうか。

「兄ちゃん、これならどうだい?」

 デレクーリさんが出してきたのは、大きな大剣だった。
 試しにも持ってみる。
 重い……。
 ステータスが高いから、振れるには振れるが、どうしても動作が重くなる。
 複数と戦うことが多い俺にとって、回転速度が悪い武器はNGだ。

「だけど、それなら兄ちゃんが壊すこともないだろう?」

 そういう考え方もあるか。
 確かに、今まで触ってきた武器では、ギレル戦の時のように壊してしまうかもしれない。
 ステータスと合わせる意味でも、大剣が最適解のような気もする。

 でもなあ……。

「出来れば振りやすく、硬い武器はないですかね?」

「そんなもんあったら、とっくの昔に兄ちゃんに勧めているよ」

「ですよねぇ」

 息を吐く。
 困った。
 防具は簡単に決まったのに、まさか武器でこんなに悩むなんて。

 俺は大剣を元あった位置に戻す。
 ふと部屋の隅っこにあった空の酒樽が目に入った。
 樽には古びた剣が、無造作に突っ込まれている。

「デレクーリさん、これは?」

「冒険者から買い取った武器だよ。うちは下取りもやってるんだ」

「へぇ……」

「そこには、あんまりいい武器はないぞ。傷んでいるしな」

「ちょっと見るだけですよ」

 デレクーリさんのいうとおり、どれも如何にも中古品という感じである。
 埃を被り、柄が若干錆びていた。
 下取りして、そのまま放置しているのだろう。

 その時、俺は1本の武器に目を留める。

(※ 後編へ続く)
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