縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第14話 オークと仲間(前編)

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 デレクーリさんの武器屋で、武器と防具を調えた俺は店を出た。
 我ながら、様になっている。
 いよいよ冒険者らしくなってきた。

 お代は結局、支払うことにした。
 デレクーリさんは「男に二言はねぇ!」と言って、最初は受け取りを拒否したが、最終的には4割引きという形で、代金を受け取ってくれた。

 デレクーリさんは、良い店主である。
 今後付き合う意味でも、きちんと商売をしてほしかった。

 家には帰らず、ギルドへ向かう。
 さあ、今日もお仕事だ。
 ルーナたちのためにも、働かないとな。

 意気揚々と俺は乗り込む。
 しかし、ギルドの中は大変なことになっていた。
 王都にいる冒険者全員が集まっているのではないか。
 そう思えるほど、人がごった返し、ギルドの外まで人が溢れ返っていた。

 静まりかえったギルドの中で、ネレムさんの声が聞こえる。

「どなたか。村の救出に向かってくれる冒険者はいませんか?」

 村の救出?
 クエストか?
 しかし、なんでこれだけの冒険者がいて、誰も手を挙げないんだ。

 俺は近くにいた冒険者に尋ねてみる。

「オークの軍勢が現れたんだと……」

「オーク……」

 高レベルの魔物で、並の冒険者では太刀打ちできないほど強いらしい。
 それが群となって、この王宮を目指しているそうだ。
 村――というのは、オークが進撃する道すがらにあって、緊急の救援依頼がギルドにあったのだと、冒険者は説明した。

「おいおい。ちょっと待てよ。国にだって、軍隊はいるだろ。国は、王の野郎は何をやってるんだよ!」

「オレにがなるなよ。軍隊だって無限にいるわけじゃねぇ。この王都や各主要都市を守るだけで精一杯なのさ。小さな集落を守るほど、人手なんていない」

 だから、冒険者にお鉢が回ってきた。
 そういうことか。
 冒険者が手を挙げないのも、リスクが高いからだろう。
 それほど、オークという魔物は強いに違いない。

 俺が話しかけた冒険者は、説明を加えた。

「オークの頭領は、オークロードって話だ。しかも名前付きネイムド。軍勢だけでも厄介なのに、オークロードに名前付きネイムドじゃ。詰みも同然だ。国自体がやばいかもな。逃げ出すなら、今しかねぇ」

 その不安は伝染する。
 オークを討伐しようという気概どころではない。
 国からどうやって脱出するか、考えるものがほとんどだった。

「一体、どうしたってんだ、最近」
「ああ……。魔物のレベルが上がってるよ」
「こう立て続けに名前付きネイムドが現れるのも変だ」
「なあ、やっぱりこれって……」
「勇者が召喚されてからだよな」
「外れ勇者どころか、とんだ疫病神じゃねぇか」

 視線が黒髪と黒目の俺に向けられる。
 本来、国を蹂躙しようとする魔物に向けるべき殺意と怒気は、どういうわけか勇者の俺の方へ注がれていた。

 バンッ!

 激しく机を叩く音が聞こえる。
 俺も含め、ほとんどの冒険者が肩を震わせた。
 振り返ると、ネレムさんが赤い顔をして睨んでいる。

「今は仲間割れしている場合じゃないでしょ。そもそもリックさんは関係ありません。魔物のレベルの上昇は、彼が召喚される前から兆候がありました。勘違いしないでください」

 ネレムさんはまくし立てる。
 歴戦の冒険者たちは、ギルドの受付嬢の話を聞いて、しんと静まった。
 沸々と沸いた殺意や怒気も消えていく。

 ネレムさんにそう言われると反論しようがない。

 まるで母親に怒られた子どもみたいにシュンとしていた。

「ありがとう。ネレムさん」

「いえいえ。本当のことですから」

「お礼というわけじゃないけど、そのクエストを受けるよ」

「ホントですか!?」

「うん。困ってる人は助けるのは、勇者ヽヽの役目だからな」

「ありがとうございます」

 ぷくっと頬を膨らましていたネレムさんに、やっとスマイルが戻る。
 だが、すぐにシュンと下を向いた。

「でも、さすがにリックさん、1人じゃ……」


「じゃあ、あともう2人追加だ」


 落ち着いた声が、ギルドの入口の方から聞こえてきた。

(※ 後編へ続く)
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