縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第15.5話 見送りと防衛戦(後編)

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 森の中を突っ切り、最短最速で村にたどり着く。

 つと足を止めた。
 俺の視線が上に向く。

「これがオークか……」

 大きい。
 2階建ての家ぐらいある。
 でっぷりとした大腹。
 手には石と木の根で作った粗雑な石斧を持っている。

 赤い目を閃かせ、豚鼻からは恐れを振りまくように息を吐き出していた。

 それが10体。
 村それ自体を、轢殺でもするかのように進軍してくる。

「思ったよりも多いね。まずは住民の避難が先だ。あたしが囮になるから」

「俺が引き受けますよ」

「引きつける役なら、あたしの方が適任だよ」

「いえ。俺がやります……」

「……そうかい。わかったよ」

「あ、でも……ウォルナーさん」

「うん?」


「別に倒してもいいんですよね?」


「…………」

 ウォルナーさんが息を呑むのがわかった。
 ピンと耳と尻尾を立てる。
 思わず可愛いと思ってしまった。

 牙を剥き出す。
 笑気を吐きだした。

「くはっ! やれるもんならやってみな」

「頑張ります」

 俺はオークの方へ向かってくる。
 それは巨大な壁のように迫ってきた。
 足を踏み出す度に、地響きが起こる。
 家から飛び出してくる村人の悲鳴が、余計に恐怖を煽った。

 俺は懐にしまった薬瓶を握った。
 ルーナが作ってくれた回復薬である。

 こうして握っているだけで、彼女の勇気が伝わってきた。
 それは職業としての『勇者』の特性なのかもしれない。
 でも、不思議と俺の気持ちは落ち着いていた。
 側にルーナがいるからだろう。

 そうだ。もう何も怖くない……。

 俺は手を差し出す。
 ニヤリと笑って、オークたちを挑発した。

「来いよ、豚野郎。お前たちなんか、一振りで倒してやるよ」

 瞬間、俺の頭の中で例の文字が浮かんだ。


 『縛り;オーク10体を一振りで倒す』を確認しました。
 『縛り』ますか?  Y/N


 俺は迷いなく『YES』を選択した。


 確認しました。『縛りプレイ』を開始します。


  名前    リック
  年齢    22
  種族    人間
  職業    勇者
 ――――――――――――――
  レベル     1
  攻撃力   780
  防御力   320
  素早さ   400
  スタミナ  140
  状態耐性  810
 ――――――――――――――
  スキル   縛りプレイ
        居合い Lv5
 ――――――――――――――
  現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)
        オーク10体を一振りで倒す
 ――――――――――――――
  称号    ギルドマスター
        呪解マスター
        達人 Lv3
 ――――――――――――――
  補正    武器強度  +Lv50
        武器切れ味 +Lv40

 攻撃力と素早さがアップ。
 スキルに追加されている。
 居合い、か……。
 攻撃のスキルなんだろうか。
 そんな気がする。

 俺に迷いはなかった。

「頼むぜ、相棒」

 俺は鞘からカタナを引き抜く。
 まるで持ち主の言葉に反応するように鋭く閃いた。

 そのまま俺はオークに向かって、一閃する。

 シャァァァァァァアァァアァアァアァアァアアァアンンンンン!!

 鋭い音が空気を斬り裂いた。
 瞬間、オークたちの腹が真っ二つになる。
 血が迸り、断末魔の悲鳴すら上げられず、崩れ落ちていった。

「すごい……」

 小さな声が聞こえた。
 振り返ると、少女が俺の方を見て呆然としている。
 ルーナと同じくらいの年齢だろうか。
 恐怖に濁っていた目が、やがて希望へと変わる。

「お兄ちゃん、一体誰?」

 俺は少女の頭を撫でる。
 ニコリと笑った。

「通りすがりの――」


 外れ勇者さ……。
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