縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第16話 オークロードと一刀(前編)

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 遅れて馬車が到着した。
 幌から一斉に冒険者たちが降りてくる。
 その靴底が鮮血に染まった。
 夥しいオークの血を見て、冒険者たちの顔が青ざめていく。

「すげぇ……」
「10体のオークを一振りで」
「勇者、半端ねぇ……」
「もしかして、オレたちいらなかったんじゃねぇのか」

 幌の中でソワソワしていた冒険者たちは、討伐されたオークを見て、ホッと胸を撫で下ろした。

 だが――――。

「まだだよ!!」

 安堵した冒険者たちを戒めるような叫びが響く。
 ウォルナーさんである。

 赤狼族の彼女は、ピクピクと忙しそうに耳を動かした。
 尻尾をピンと立てたまま、いまだ警戒している。
 その瞬間、森の向こうから地響きが聞こえてきた。

『ばばばばばばばばばばばばばばばばあああああ!!!!』

 新手のオークだ。
 10……いや、20、もしかしてそれ以上いるかもしれない。
 壁というよりは、もはや巨大な戦車である。
 森の幹をなぎ倒し、進軍してきた。

「おいおい……。小さな村なのに、なんだよこの数は」

 デレクーリさんは得物の鎚を持ったまま、眼前に広がるオークの大軍を見つめる。
 その背中は薄らと汗に滲んでいた。

「右はあたしがやる。左はデレクーリ! いけるね!」

「あ、ああ……。任せろ!」

 デレクーリさんは頷く。

「中央が坊やだ!!」

「任せて下さい!」

 バンと背中を押されたような気がした。
 俺は今一度、カタナを握る。
 愛刀は頼もしく、ギラリと光った。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 側にいた少女が言った。
 年齢が近いせいか。
 一瞬、ルーナと姿が被る。
 俺は自分でも精いっぱい優しい顔を浮かべた。
 また利発そうな少女の頭を撫でる。

「大丈夫。お兄ちゃん達が、必ず村を守ってあげるから」

「ホント?」

「ああ……。だから、早く逃げるんだよ」

 少女は南の方へと逃げていく。
 そこに両親が待っていた。
 母親と抱き合うと、「バイバイ」と手を振りながら、逃げていく。

 俺は軽く手を振り返した。
 そして翻って、顎に力を入れる。

「いい顔になったじゃないか、坊や」

「その坊やっていうのを辞めてくれませんか。これでも22なんですけど」

「この戦いが終わったら、考えてやるよ」

 ウォルナーさんは牙を剥きだし笑う。
 皆の方に向き直った。

「坊やの援護をしてやりな。強いといったって、ど新人なんだからね」

『おう!!』

 冒険者たちの声が揃う。
 ウォルナーさんの指示の下、完全に統率が取れていた。


「よし! 突撃ぃ!!」


 ウォルナーさんの号令が、まさしく遠吠えのように轟く。

 冒険者たちは一斉に突撃していった。
 俺も飛び出していく。
 巨大なオークの前で、カタナを鞘にしまった。
 再び【居合い】を放とうとする。

 ヒュッ……。

 瞬間、俺の周りが暗くなる。
 ふと空を見上げると、巨大な岩石が降ってきた。

 まずい……。

 俺は咄嗟に回避しようとした。

「火の精霊よ。我が手に宿り、その灼熱の力を示せ!」

 【炎熱玉ファイヤーボール

 力強い言葉が俺の耳朶を打った。
 直後、岩石に炎弾が迫る。
 激突した瞬間、砕け散った。

「魔法か!」

 俺は後ろを見る。
 とんがり帽子に、黒金糸のローブを纏った女冒険者と目が合った。

「援護なら任せて」

 女冒険者は杖を振る。
 すると、再び岩石が飛んできた。
 後ろに控えるオークが村の方を目がけて、岩を放り投げているのだ。

 女冒険者は再び呪文を唱えた。

 【炎熱玉ファイヤーボール
 【炎熱玉ファイヤーボール
 【炎熱玉ファイヤーボール

 魔法を三連射する。
 飛来する岩石を撃ち落とした。

 すげぇ……。
 魔法ってやっぱ便利だな。
 俺もいつか使ってみたい。

 俺の意識が魔法に向く。
 だが、その間も先頭のオークは俺に迫っていた。
 大きな石斧を振りかざす。

「おっと……」

 俺は難なく回避した。
 その横を剣を持った冒険者が駆け抜けていく。
 ジャンプ一番に飛び上がると、オークの眉間に剣の切っ先を突き入れた。

『ぶひぃぃぃぃいいぃいいぃぃぃいぃぃぃぃい!!』

 断末魔の悲鳴が響き渡る。
 オークの巨体が、塔が倒壊するように倒れた。
 そのままもんどり打つと、ピクリとも動かなくなる。

「どうした、ギルドマスター。お前の力はそんなものかよ?」

 冒険者はニヤリと笑う。
 どこかで見たことがあった。
 そうだ。ギラードウルフと戦った時にいた冒険者だ。
 生憎と名前は忘れてしまった。

 その後も冒険者側優勢に進む。
 皆、強い。
 1人の力は俺よりも遙かに弱い。
 だが、連携し、確実にオークを仕留めていった。

 勝てる……!

 そう思った時、地をも揺るがす吠声が、冒険者達の心を揺るがした。

(※ 中編へ続く)
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