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第1章
第20.5話 下水道と魔物(後編)
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『ぐおおおおおおおおおお!!』
ヴァリゲーターは吠声を上げる。
敵意を剥き出す人間を、本能的に嫌がったのだろう。
すると、くるりと下水の中で回転する。
両側の壁などおかまいなしである。
水飛沫を上げ、大きな尻尾を振り回した。
鞭のようにしなり、俺に襲いかかる。
バシィン!!
俺は軽々と尻尾を受け止めていた。
むろん、無傷だ。
全くダメージを受けていない。
しかも――。
『ぐお? ぐお?』
ヴァリゲーターは尻尾を引こうとするがビクともしない。
俺は瞳を光らせた。
「どうした、鰐公……。お前の力はそんなものか?」
『ぐおおおおおおおお!!』
吠声を上げて抗う。
しかし、結果は同じだった。
「なんと……。つよい……」
後ろで王が呆然と、俺とヴァリゲーターの様子を見ている。
一方、俺はため息を吐いた。
「この程度か……。気晴らしにもならないな」
俺は尻尾から手を離す。
いきなり離されてしまったために、ヴァリゲーターは勢い余って体勢を崩す。
ついには、下水の中でころんと転がってしまった。
大きな腹を天井へと向ける。
すぐに身を動かし、起き上がろうとする。
だが、遅い。
そう――何もかも遅かった。
天井付近まで、俺は飛び上がる。
まるで弓のように右拳を引いた。
「終わりだ!」
ヴァリゲーターの腹に、拳を叩きつける。
巨大な鰐の身体が、くの字に折れ曲がった。
同時に大きな水柱が立ち上がる。
だが、それだけに終わらない。
衝撃波が遅れてやってくると、1度で2度ヴァリゲーターを水底に叩きつけた。
ついには大穴ができる。
魔物は吠声を上げながら、その場で悶絶した。
やがて徐々に動きがゆるやかになり、そして止まる。
ヴァリゲーターは絶命した。
俺は息を整えるように、すぅと息を吐く。
王の方を見ると、がっと顎を開けて驚いていた。
「ま、まさか……。一撃とはな……。さすがは、勇者といったところか」
「世辞はいい。ところで、どうなってるんだ? 王宮の地下になんで魔物がいるんだ? 王様が魔族ってどういことだ?」
「言葉通りの意味よ」
「詳しく話せ」
「その前に、余はお主のことを知りたい。もしかしたら、力になれるかもしれぬぞ」
王は「ほっほっほっ」と笑う。
どうも得体がしれない。
玉座に座っていた王とは別人のように見える
とにかく表情が明るかった。
こんな地獄の亡者すら近付かないような場所で、よくそんな顔ができるなと俺は思った。
結局、熟考した末、俺は本物と自称する王に、ここに至る顛末を話した。
真の王は少し難しい顔をした後、結論付ける。
「なるほど。お主のスキルは、魔族の呪いであろう」
「魔族の呪い?」
「召喚する術式に、何か細工をしたに違いない。出なければ、『縛りプレイ』などとふざけたスキルが生まれるわけがないからな」
「どうして、そんなことを?」
「簡単じゃ。勇者は魔族、ひいては魔王の天敵じゃ。いまだ魔王を討伐した者がおらぬとはいえ、ヤツらにとって脅威に違いない。それならば、魔王城で迎え討つよりも、その発生をくい止める方が、よっぽど効率がいいであろう」
「確かにな。――で、あんたはなんでこんなところにいるんだ?」
「お主と同じよ。魔族にここに落とされたのだ」
「よく生きてたな。こんな化け物がいるのに……」
「ほっほっほっ……。これでも逃げ足には自信があるのでな」
「とにかく上に戻らないと……」
「なんだ。もっとゆっくりしていけ。老人を1人にしないでおくれ」
「冗談が言ってる場合か。俺には時間がない」
王様が魔族なんてどうでもいい。
だが、ヤツがルーナやティレルを黙って帰したとは考えにくい。
一刻も早く、2人の元に帰らないと……。
「爺さん、出口はどこだ?」
「せっかちなヤツじゃな。仕方ない。ついてこい」
「聞いておいてなんだが、出口を知ってるんだな。なんで、逃げなかったんだ?」
「面白そうではないか?」
「はあ?」
「ダンジョンに潜ってるみたいじゃ。昔を思い出すわい」
にぃ、と黄ばんだ歯を見せる。
完全に楽しんでいた。
やれやれ……。
とんだ爺さんだぜ。
ヴァリゲーターは吠声を上げる。
敵意を剥き出す人間を、本能的に嫌がったのだろう。
すると、くるりと下水の中で回転する。
両側の壁などおかまいなしである。
水飛沫を上げ、大きな尻尾を振り回した。
鞭のようにしなり、俺に襲いかかる。
バシィン!!
俺は軽々と尻尾を受け止めていた。
むろん、無傷だ。
全くダメージを受けていない。
しかも――。
『ぐお? ぐお?』
ヴァリゲーターは尻尾を引こうとするがビクともしない。
俺は瞳を光らせた。
「どうした、鰐公……。お前の力はそんなものか?」
『ぐおおおおおおおお!!』
吠声を上げて抗う。
しかし、結果は同じだった。
「なんと……。つよい……」
後ろで王が呆然と、俺とヴァリゲーターの様子を見ている。
一方、俺はため息を吐いた。
「この程度か……。気晴らしにもならないな」
俺は尻尾から手を離す。
いきなり離されてしまったために、ヴァリゲーターは勢い余って体勢を崩す。
ついには、下水の中でころんと転がってしまった。
大きな腹を天井へと向ける。
すぐに身を動かし、起き上がろうとする。
だが、遅い。
そう――何もかも遅かった。
天井付近まで、俺は飛び上がる。
まるで弓のように右拳を引いた。
「終わりだ!」
ヴァリゲーターの腹に、拳を叩きつける。
巨大な鰐の身体が、くの字に折れ曲がった。
同時に大きな水柱が立ち上がる。
だが、それだけに終わらない。
衝撃波が遅れてやってくると、1度で2度ヴァリゲーターを水底に叩きつけた。
ついには大穴ができる。
魔物は吠声を上げながら、その場で悶絶した。
やがて徐々に動きがゆるやかになり、そして止まる。
ヴァリゲーターは絶命した。
俺は息を整えるように、すぅと息を吐く。
王の方を見ると、がっと顎を開けて驚いていた。
「ま、まさか……。一撃とはな……。さすがは、勇者といったところか」
「世辞はいい。ところで、どうなってるんだ? 王宮の地下になんで魔物がいるんだ? 王様が魔族ってどういことだ?」
「言葉通りの意味よ」
「詳しく話せ」
「その前に、余はお主のことを知りたい。もしかしたら、力になれるかもしれぬぞ」
王は「ほっほっほっ」と笑う。
どうも得体がしれない。
玉座に座っていた王とは別人のように見える
とにかく表情が明るかった。
こんな地獄の亡者すら近付かないような場所で、よくそんな顔ができるなと俺は思った。
結局、熟考した末、俺は本物と自称する王に、ここに至る顛末を話した。
真の王は少し難しい顔をした後、結論付ける。
「なるほど。お主のスキルは、魔族の呪いであろう」
「魔族の呪い?」
「召喚する術式に、何か細工をしたに違いない。出なければ、『縛りプレイ』などとふざけたスキルが生まれるわけがないからな」
「どうして、そんなことを?」
「簡単じゃ。勇者は魔族、ひいては魔王の天敵じゃ。いまだ魔王を討伐した者がおらぬとはいえ、ヤツらにとって脅威に違いない。それならば、魔王城で迎え討つよりも、その発生をくい止める方が、よっぽど効率がいいであろう」
「確かにな。――で、あんたはなんでこんなところにいるんだ?」
「お主と同じよ。魔族にここに落とされたのだ」
「よく生きてたな。こんな化け物がいるのに……」
「ほっほっほっ……。これでも逃げ足には自信があるのでな」
「とにかく上に戻らないと……」
「なんだ。もっとゆっくりしていけ。老人を1人にしないでおくれ」
「冗談が言ってる場合か。俺には時間がない」
王様が魔族なんてどうでもいい。
だが、ヤツがルーナやティレルを黙って帰したとは考えにくい。
一刻も早く、2人の元に帰らないと……。
「爺さん、出口はどこだ?」
「せっかちなヤツじゃな。仕方ない。ついてこい」
「聞いておいてなんだが、出口を知ってるんだな。なんで、逃げなかったんだ?」
「面白そうではないか?」
「はあ?」
「ダンジョンに潜ってるみたいじゃ。昔を思い出すわい」
にぃ、と黄ばんだ歯を見せる。
完全に楽しんでいた。
やれやれ……。
とんだ爺さんだぜ。
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