縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第22話 外れと勇者(前編)

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「うぬぼれるなよ、人間ごみくずども!」

 魔族は手を振るった。
 魔法を放つ。
 俺はルーナ、ティレル、真王を守るように立ちはだかった。

 だが、それは俺を狙ったものだ。
 たちまち黒い球体の中に包まれる。

 なんだ?
 一体……。

 すぐに黒い球体は消えた。
 何も変化はない。
 だが、魔族はにやりと笑った。

……………………なにがおかしい!?」

 !!

 俺は慌てて喉を触った。

「…………!」
「…………!」
「…………!」

 声が出ない。

 俺がそれに気付くや否や、魔族は声を出して笑った。

「ふははははは! 声を出せまい!」

…………なにをした!?」

「それでは、お前のスキルが使えないだろう」

 『縛りプレイ』か……。

「お前のスキルは強力だ。それは認めよう。いずれ魔王様の喉元に届くかもしれぬ。だが、1つだけ弱点がある。つまりは、『縛りプレイ』を決めなければならないこと。つまり、発声を封じれば、その縛りは不可能だということだ」

 そうか。
 あいつが、俺のスキルを知りたがったのは、このためか。

 どうやら、人間からすれば評価が低かったこのスキルを、魔族は高く評価しているらしい。
 なんとも皮肉な話である。

 刹那、魔族が襲いかかってきた。

 速い。
 たちまち側面に現れる。
 鋭い爪を振り下ろす。
 俺は受け止めようと、手を伸ばした。

 直後、魔族は消える。
 今度は、背後に現れた。

「のろい!」

「ぐっ!」

 鋭い蹴りが飛んでくる。
 だが、俺はすぐさま反転した。
 腕をクロスし、防御するが、踏ん張れない。
 ぽん、とゴムボールのように俺は吹き飛ばされた。

 空中で姿勢を制御しながら、なんとか着地する。

 腕を見ると、きっちり足跡が付いていた。
 蹴りの凄まじさを物語っている。

「…………」

 速い。
 そして一撃が重い。
 俺のステータスも十分上がっている。
 だが――。

「予想通り。お前の今のステータスでは、まだオレ様には及ばないようだな」

 魔族はにやりと笑う。

 その通りだった。
 速度も、膂力もわずかに俺の方が下である。
 この実力差を埋めるためには、『縛りプレイ』が必要だ。

「…………」

「できまい! 今のお前では!」

 魔族は容赦なく襲いかかってくる。
 体力的にも向こうの方が上だった。
 鋭い連撃を振るい、俺の身体を刻み始める。
 まったく動きが止まらない。
 反撃する暇もなかった。

 やがて俺は壁際に追いつめられる。

「リックお兄ちゃん! がんばれぇえええええ!!」

 ルーナの声援が聞こえる。
 あの小さな身体で、なんて大きな声を出しているんだろうか。
 すげぇな、ルーナは。
 やっぱりルーナは、俺の勇者だ。

 そうだな。
 俺ももうちょっと頑張らないとな。

 奮い立つ。
 俺の勇気が……。

「とどめだ!!」

 魔族が爪を振るう。
 大振り気味に――まさしくとどめを刺しにきた。
 だが、俺の瞳が光る。
 これを待っていったんだ。

「…………!!」

 魔族の攻撃に、俺は合わせるように拳を出す。
 その大きな腕を絡め取るように、上から拳を突き出した。

 バシィン!!

 重たい音が轟く。
 その瞬間、魔族は吹き飛んだ。
 地面を滑り、反対方向の壁に叩きつけられる。

 対して、俺の頬には爪痕が残っていた。
 だが、浅い。
 顎まで垂れてきた鮮血を軽く払う。

「くそ! 貴様! まだやる気か!?」

「…………」

 当たり前だ。
 俺はまだ負けちゃいない。
 負けるつもりもない。

 それに、俺には秘策がある。
 いや、ずっとあったんだ。
 ただお前の実力を計るため、ずっとこの胸に秘めていた。

「ご主人様が……」

「リックお兄ちゃんが笑ってる」

「ほほ……。まだ何か企んでおるな、勇者よ」

 3人は呆然と俺を見ていた。

 笑っている。
 そうか。
 俺は笑っているのか。
 弱ったな。
 もっと引き締めないと。
 ウォルナーさん辺りに、「油断するんじゃないよ」と怒られそうだ。

「残念だったな、外れ勇者。今の攻撃がお前の秘策だったのだろう。オレ様を仕留めるつもりだったはずだ。だが、オレ様この通りピンピンしているぞ」

「…………」

 残念なのは、お前だ。
 正確にいうなら、お前の頭だよ、魔族。

 お前は『縛りプレイ』を封じたつもりだっただろうが、違うぞ。

 決して俺のスキルは死んでいない。
 むしろ、お前は俺に与えたんだヽヽヽヽヽ
 俺に『縛り』をな。

 そう――。

 ずっと俺の前には、『縛り』があった。

(※ 後編へ続く)
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