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第1章
第22.5話 外れと勇者(後編)
しおりを挟むそして、頭には例の文字が浮かんでいたんだ。
『縛り;魔法を解くまで喋れない』を確認しました。
『縛り』ますか? Y/N
『縛りプレイ』は、俺の言動や意志に即して浮き出るものじゃない。
その状況において提示されるものだ。
だから、戦闘だけじゃない。
日常生活においても、常に『縛り』を要求してくる。
『縛り;60秒を数えるまでお風呂を出ない』を確認しました。
『縛り;ドアを開けたら必ず閉める』を確認しました。
『縛り;食事は残さない』を確認しました。
『縛り;良いことをしたら褒める』を確認しました。
『縛り;ギルドまでスキップ』を確認しました。
『縛り;じゃんけんに負けたら電流縛り』を確認しました。
『縛り;1ヶ月オ○禁』を確認しました。
『縛り;1日1回ルーナの尻尾をモフモフする』を確認しました。
『縛り;朝までぐっすり眠る』を確認しました。
そりゃあもう――うるさいぐらいにである。
俺はその縛りの中で、最適なものを選んでいるに過ぎない。
だから、無駄なのだ。
声を奪ったところで変わらない。
俺の『縛りプレイ』は止められない。
YES!!
確認しました。『縛りプレイ』を開始します。
その縛りは、ステータスに微細な変化しか現れなかった。
けれど、十分だ。
これで対等ぐらいにはなっただろう。
「…………!」
俺は地を蹴る。
先に仕掛けた。
あっという間に、魔族との距離を詰める。
ふっ……。
一息で5連撃を食らわせる。
魔族はなんとか防御した。
先ほどと真逆である。
魔族は守勢に回るしかなかった。
俺の連打が速くなる。
いよいよ魔族はさばき切れなくなった。
「馬鹿な! どこにこんな力が……!!」
簡単だ。
お前は、勇者を舐めすぎた。
そして俺を怒らせすぎたんだよ。
ドンッ!!
魔族の硬いボディに、俺の拳が突き刺さる。
反吐を吐き散らし、魔族の身体がくの字に曲がった。
さらに吹き飛ばされる。
轟音とともに、壁に叩きつけられた。
「あ……」
どうやら、魔法が解けたらしい。
声が出るようになった。
だが、まだ魔族は生きている。
ゆっくりと立ち上がった。
「おのれ、勇者め……」
さすがは魔族だな。
体力がお化けである。
だが、もうボロボロだった。
「かくなる上は……」
瞬間、魔族が光り輝き始める。
強烈な光は、謁見の間を覆った。
さらに外にまで漏れ、王宮全体が輝く。
「勇者! 逃げよ! そやつ、自爆するつもりじゃぞ!!」
叫んだのは、真王だった。
「もう遅い! この力でこの国すべてを吹き飛ばしてくれる!!」
「そんな……」
「みんな、いなくなっちゃうの?」
ティレルとルーナは口々に声を漏らす。
だが、その2人の不安をかき消すように、俺は立ちはだかった。
「大丈夫だよ、2人とも」
「ご主人様」
「リックお兄ちゃん……」
「2人は俺が守るから……。だって俺は……」
外れ勇者だからな……。
そう。
俺は外れ勇者だ。
魔王を倒さない外れ勇者。
『縛りプレイ』なんて変な名前のスキルがついた勇者様だ。
だが、覚えておけ、魔族ども。
俺は勇者ってくくりから外れるほど強いんだよ。
魔族の前に立つ。
すっと指を1本差し出した。
「き、貴様……。何をする……」
「お前に説明したと思うが、『縛りプレイ』はその目的と縛り内容が、困難であればあるほど、ステータスがアップするようにできている」
だから、俺はこう縛るのだ。
お前、この世界から吹き飛ばすほどの力を得るために。
「お前なんて、この指一本で十分だ!」
『縛り;魔族を指一本で倒す』を確認しました。『縛り』ますか? Y/N
YES!
確認しました。『縛りプレイ』を開始します。
その瞬間、ステータスが俺の頭で閃く。
何故か黄金色に光っていた。
名前 リック
年齢 22
種族 人間
職業 勇者
――――――――――――――
レベル 2
攻撃力 10000
防御力 780
素早さ 470
スタミナ 700
状態耐性 810
――――――――――――――
スキル 縛りプレイ
物体縛り
居合い Lv5
――――――――――――――
現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)
魔族を指一本で倒す
――――――――――――――
称号 ギルドマスター
呪解マスター
達人 Lv3
魔族を打ち倒す者
――――――――――――――
補正 武器強度 +Lv80
武器切れ味 +Lv70
攻撃力『10000』。
そして称号には『魔族を打ち倒す者』と刻まれていた。
すると、脳裏に浮かんだのは文字だけではない。
俺の肉体も黄金色に光っていた。
いつもと違う。
だが、俺は構わず指を突き出した。
「や、やめ――――」
魔族は首を振る。
赤黒い瞳からは、涙がこぼれていた。
だが、俺は許さない。
ルーナとティレル。
そして俺の人生を狂わせたこいつ。
「ぶっとべ! 魔族!!」
俺は指を弾いた。
その瞬間、魔族は王宮の壁を突き破り、外へと吹き飛ばされる。
すでに夜の帳が降りた王都の上空まで来た瞬間――。
どぉおおぉぉおおおおぉぉおぉぉぉおおぉぉおおぉおお!!
爆発音が響いた。
七色の光が弾ける。
まるで勝利を祝福する花火のようだった。
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