縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

エピローグ 勇者と家族(後編)

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 現れたのは、2人の男女。
 しかも、亜人である。
 金色の長耳と、尻尾を生やしていた。

「あ……」

 声を上げて立ち上がったのは、ルーナだった。
 エメラルドグリーンの瞳が大きく開く。

「パパ……。ママ……」

 譫言のように呟く。
 息を呑んだのは、側に控えていたティレルだった。
 俺はゆっくりと2人の亜人に近付いていくルーナを見送る。

 ルーナは、1歩1歩噛みしめながら近付いていった。
 己の疑念を1つずつ剥がし、亜人の男女に近寄る。

 それは2人の亜人も一緒だった。
 ルーナと同じく戸惑っていた男女の表情が変化する。
 頬が上気し、たちまち目頭が赤くなっていった。

「「ルーナ……」」

 声を発した時、お互いの感情は爆発した。

 赤い絨毯の上を、ルーナは駆けていく。
 2人の亜人は手を広げて迎え入れた。

「パパ! ママ!!」

「「ルーナ!!」」

 2人は、ルーナを優しく抱き留める。

 どうやら、間違いないらしい。
 ルーナが心の底から願った。
 両親との再会だった。

 離ればなれになった親子は、1つになる。
 それは強固な岩のように見えた。

 俺は王に振り返る。

「感謝する」

「何の……。人捜しなど、容易いものよ」

 ほっほっほっ、と王は笑った。

 もう1度、俺は両親に抱かれたルーナを見る。
 涙で目を腫らしながらも、とても幸せそうだった。

 ふっ……。

 息をもらす。
 約束は果たされた。
 俺に悔いはない。

 王は俺に尋ねる。

「良いのか、勇者リック」

「ああ。構わない。ルーナはもう1人じゃない」

「わかった」

 王は玉座に座り直す。
 1度咳払いし、俺に向かって言った。

「勇者リックよ。改めて、お主に命ずる。どうかこの国を、そしてこの世界を魔王の手から救って欲しい」

 その声は朗々と謁見の間に響いた。
 ルーナは長耳をピクピクと動かし、後ろを振り返る。

 ずっと立っていた俺は、そこでようやく傅いた。
 深々と頭を垂れる。

「慎んで拝命いたします」

 おおっ、と再び謁見の間はどよめいた。
 1番反応したのは、ティレルである。

「ご、ご主人様……。では、旅立たれるのですか?」

 その言葉を背中で受け、俺はやおら立ち上がる。

「そういうことになるな」

「ならば、私もお供します」

「ダメだ。危険すぎる。相手は魔王だ。俺のスキルが通じる保証はない」

「それでも、私はリック様のメイドです」

「だから、今日からはルーナのメイドになってくれ。両親にはすでに話してある。お前を雇ってくれと。あの家も、そのままルーナに与える。ネレムさんも了承済みだ」

「そんな……。はじめからお一人で行かれるおつもりだったのですか……」

「俺は勇者だ。魔王を倒す義務を持って、この世界に召喚された」

「違います!」

 ティレルは、はっきりと否定する。

「ご主人様は、その役目を放棄されたはずです。今さら……」

「それでも、俺は魔王に会いに行かなければならない」

 記憶を取り戻すため。
 自分の世界に戻るために……。

「リックお兄ちゃん、どこかへ行っちゃうの」

 ルーナの声が、凛と謁見の間に響いた。
 足音が俺に近付いてくる。
 辿々しい。
 まるで今生まれた子馬のように、ゆっくりと俺の方へと歩いてくる。

「ああ。そうだ。ルーナは両親と一緒に暮らせばいい。幸せにな」

「いやだ!!」

「――――ッ!!」

「お兄ちゃんと離ればなれになるなんて、いやだ!!」

「わがまま言うなよ。大丈夫。俺のことなんてすぐに忘れるさ」

 そうだ。
 俺のことなんてすぐに忘れる。
 恋い焦がれた家族が見つかったんだ。
 きっと幸せな未来が待っているだろう。

「忘れないよ!!」

 ルーナはピシャリと言い放つ。
 俺は背筋を伸ばす。
 まるでウォルナーさんに背中を叩かれたようだった。

 俺はようやく振り返る。
 ルーナは目にいっぱい涙を溜めて、俺を睨み付けていた。

「ルーナ……」

「だって! リックお兄ちゃんは!!」


 ルーナの家族だもん!!


「パパも、ママも家族。ティレルも……。お兄ちゃんも大事な家族だもん!!」

 だから――。

ルーナも一緒ヽヽヽヽヽヽに行くヽヽヽ

「る、ルーナも! いや……ダメだろ。危険だぞ」

「なら、ルーナを守って、お兄ちゃん」

 ああ……。
 思い出した。
 俺はまだ約束を果たしていなかった。

 ルーナを守る。

 そう『縛り』を課したんだった。

「でも、ルーナ。折角、両親に会えたのに」

「いい……。だって、ルーナがいなくなったら、お兄ちゃん1人になっちゃうから」

「あ……」


 この子はあんたのになりかけている。大切に育てるんだよ。それはあんた自身の強みにもなるはずだから。


 ふとまたウォルナーさんの言葉を思い出す。

 はは……。
 弱ったな。
 ルーナを守るとかいっておきながら、俺はルーナに守られていたのか。

 俺は両親の方を向いた。
 何も言わず、そっと頭を垂れる。
 娘をよろしくお願いします、といわれているようだった。

「ルーナお嬢様が一緒に行くということは、私も付いていっても何ら問題はありませんね」

 ティレルは俺の腕を取り、引き寄せる。
 柔らかな胸を押しつけた。
 良い香りがする。
 ちょっと頭がクラクラした。

 それを見ながら、王は「ほっほっほっ」といつも通り笑う。

「賑やかなパーティーになりそうじゃな、勇者よ」

「いや、その――――」

「確かに危険も多いじゃろう。障害をいくつもクリアしなければならぬ。それでも、お主にとって、2人がいることはプラスになろうて。大事にせぇ」

 はあ……。

 まったく……。
 この世のどこに、幼女とメイドを連れて歩く勇者がいるというのだ。

 でも、仕方ないか。
 ま、元は外れ勇者だしな。
 これぐらい勇者から外れていても、しょうがないか。

「わかった。一緒に行こう!」

「やったぁ!」

「良かったですわ」

 2人は手を叩いて喜ぶ。
 その幸せそうな顔を見て、俺はようやく救われたような気がした。

 すると、王は側に寄ってきて、俺に耳打ちする。

「ところで、お主……。どっちが好みなのじゃ?」

 キュッ、と顔が火照るのを感じた。
 同時に、ルーナとティレルが俺の方を向く。
 俺の顔はますます赤くなった。

「うっせぇ、じじぃ! お前も長生きしろよ」

「ほっほっほっ! 吉報を楽しみにしておるぞ、外れヽヽ勇者殿」

 結局、外れ勇者に逆戻りじゃねぇか。

 でも、まあ……。
 悪くない。

「行こう、ルーナ、ティレル」

「行こう、リックお兄ちゃん!」

「はい、ご主人様」

 笑顔の2人と手を繋ぎ、俺は謁見の間を後にするのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


これにて『縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りではじまる余裕の異世界攻略~』の最終回です。
ここまでお読みいただいた方ありがとうございます。

正直、『縛りプレイ』というネタだけで引っ張るのは、限界があって、
ここで終わるつもりでした。
幕引きとしては、作者は満足しております。

感想、お気に入りを入れていただいた方ありがとうございます。

ちなみにですが、小説家になろう様にて新作を上げております。
戦記ものなのですが、割とサクサク読めると思います。
気になる方は、是非読みに来て下さい。

こちらで連載している
『劣等職の転生賢者~底辺の【村人】から余裕で世界最強~』の方も
引き続きよろしくお願いします。

それではどこかの作品で会いましょう!

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感想 1

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みんなの感想(1件)

うぱるぱ
2019.04.14 うぱるぱ

なろう最新話まで読みました!
とても面白いです…更新楽しみに待ってます!!!!

解除

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