聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

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第二章

第15話

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 ルクレスことルースに続いて、受験生たちの反撃も始まった。
 私は次々と受験生たちに魔法をかけていく。
 ただし私の目から見て、一定以上の魔力を持つ受験生だけだ。

 強化魔法にも効果の制限はある。

 見たところ、私の強化魔法を使ってゼクレア教官の防御魔術を抜くことができるのは、全体の6割ぐらいの生徒だけだ。
 残念だけど、受験生全員にかけるほど、魔力に余裕はない。
 他の4割の生徒には申し訳ないけど、まず必ずゼクレア教官の防御魔術を抜くことができる受験生を選び、魔法をの力を与えた。

「炎竜よ、天にお昇りなさい。悪意に満ちた穢れた土地に、慈悲と裁きの業火の叫びを!」


 【炎竜昇弩撃ドラゴニック・バリスタ】!!


 この日、初めて講堂で目撃された上級魔術だった。
 ゼクレア教官は、溜まらず中級の防御魔術で応戦するが、多少威力が減衰した程度だった。

 ゼクレア教官は吹き飛ぶ。すぐに立ち上がったが、軍服はボロボロだ。
 うまく防御魔法で直撃を逸らしていて、致命傷だけは絶対に避けている。
 見た目よりずっと攻撃の威力は減衰していると思うけど、すでに100人以上の魔術を受けていた。

 そこに呼ばれたのは、ヴェルちゃんだ。

 初めて彼女の実力を目の当たりにしたけど、予備校で1位になるだけはある。
 1人上級魔術を使用すると、ゼクレア教官の中級魔術を吹き飛ばしてしまった。

 さすがのゼクレア教官も満身創痍だ。
 他の教官が駆けつけると、一旦休憩を取ることになった。


 ◆◇◆◇◆  教官たち  ◆◇◆◇◆


「ゼクレア、これ以上は無謀だよ」

 第二師団師団長のアランが訴える。
 ゼクレアの同期でもある彼は、心配そうに友人を見つめた。

「心配するな。派手に吹っ飛んでいるが、致命傷はない。別に休憩もいらなかったんだ……痛っ!!」

 横から第六師団師団長のロブが、ゼクレアの脇腹を小突く。
 その姿を見て、薄く笑ったのはボーラだった。

「いけませんねぇ。やせ我慢は」

「あとは、俺に任せてお前は休んでろ」

「ロブの言う通りだ。僕たちに任せて君は――――」

「いや、俺は――――」

 ゼクレアが反論しようとした時だった。

「おやおや。随分とボロボロにだね、ゼクレア……」

 突然、教官の待機室に現れたのは、金髪の男だった。
 和やかな顔こそ浮かべているが、そのルビーを埋め込んだような瞳は、寒気がするほど冷たく、血の気も薄い。おかげで顔全体の作り物のように見えてしまう。

 自由に動く手足に、まるで人形の頭をくっつけたような美男子は、師団長たちの待機所に堂々と踏み込んできた。

 男の姿を確認した師団長たちは、慌てて膝を突き、頭を垂れる。

「そ、総帥……。いつ試験会場に?」

 ゼクレアの口調の端から端まで、硬く強ばっていた。

 彼が「総帥」と呼ぶ人物は、1人だけである。
 ローデシア王国魔術師師団総帥。
 つまり第六まである魔術師師団のすべてを統括する権限を持った人間。
 そして何より、ローデシアを代表する魔術師にして、頂点――。

 すなわち彼こそローデシアが誇る【勇者】アーベル・フェ・ブラージュだった。

 弱冠20歳――ゼクレアの今の年で【勇者】となったアーベルは言った。

「1時間前ぐらいかな。実技試験を見ていたよ」

「い、いつの間に……」

「ボーラ……。総帥は俺たちとは出来が違うんだ。詮索するだけ無駄だぞ」

「ロブ、そういう言い方はやめてくれないか。僕だってこれで一応普通に努力をして、今の地位に就いた自負ぐらいはあるんだ」

 たしなめられると、ロブは「失礼しました」と直立した。

「一応、事情は理解している。随分と豊作の年だと喜んでいたら、どうも雲行きが怪しいようだね。ほんの微量だが、異質な魔力を感じるし」

「受験生の間で、何か不正が行われている。……総帥もそう思いますか?」

「不正というのは当たらないかな。僕ですら解明できない力だ。それはもう『ない』というに等しいずれだよ」

「しかし、おかしすぎます。受験生の中に、我々の査定以上に力を見せた受験生がいます。
それも数人というレベルではなく、すでに100人近くいるのです」

 アランは声を荒らげ、総帥に訴えかけた。
 だが、それはアーベルも把握しているらしい。

「――――だね。だから、僕がいく」


「「「「はっ?」」」」


 師団長たちの声が揃った。

「総帥が……」
「自ら……」
「マジかよ」

 アラン、ボーラ、ロブは息を飲む。
 だが、ゼクレアだけは違った。
 アーベルの前で、突然土下座をしたのだ。

「お待ち下さい、総帥。それだけはなりません!」

「何故? まさか僕では実力不足だと言いたいのかな」

「そういうことでは……」

「僕は許せないんだ。ゼクレアを……可愛い部下を、何度も何度も吹っ飛ばした彼らをね」

「…………!」

 アーベルの顔が狂気じみて行くのを見て、ゼクレアは絶句するしかない。
 いや、むしろ【勇者】とは思えぬ冷酷な顔を見て、再び使命感が沸き上がる。

「お願いです。どうかここはご自重下さい」

「くどいよ、ゼクレア。それとも――――――」


 君から磨りつぶしてやろうか……。


 誰も1歩も動けなかった。
 アーベルが待機所を出て、そのドアが閉まるまで師団長たちは金縛りに合ったように固まった。
 やがて思い出したように息を始める。
 床を叩いたのは、ゼクレアだった。

「ゼクレア、今は総帥に……」

「駄目だ。今の総帥に任せるのは危険だ」

「どういうこと?」

「お前たちは気付いていないだろうが……」


 アーベル総帥は変わった。あの事件を境にして……。
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