聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

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第二章

第22話

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 アーベルさんと話した後、程なくして魔術学校の再試験が行われた。

 半数が試技できていなかった実戦試験を、全員が1から受けることになり、事故の対策をするために魔力が籠もらない野外で行われ、さらに試験内容も教官ではなく、土人形ゴーレムを倒すことに変更された。
 教官を相手することよりは難易度は下がったが、より魔術に対する考え方、戦術思考を評価できるような形になった。

 後でアーベルさんに聞いたけど、私って教官の間ではロードレシア王国の魔術技術を盗むスパイだと思われていたらしい。
 全く想像力豊かな教官様だこと……。
 聞いた時は呆れて1分ぐらい言葉が出てこなかった。

 私がスパイなら、魔術学校の入学なんてまどろっこしいことはしないで、正面から魔術書がたっぷりと蔵書された図書館を襲撃するわ。
 まあ、教官たちがそう思う程、私の動きや力が異様だったってことなんだろうけど。
 だから、チートを使うのは嫌いなのよ。人に変な勘ぐられるから。

 前世の時だって、それですっっっっっごく苦労したんだからね。

 最初、聖女じゃなくて『魔女』とか言われたからね。腹が立つのが、そんな風に指差してきた王や大臣が、私が魔王を倒した瞬間にコロッと立場を変えたことよ。
 まるであの『魔女』発言がなかったみたいに手の平返しをしてきた時は、魔王なんかより恐ろしかったわ。



 こうして私のスパイ疑惑は晴れ、そして今日は合格発表の日。
 普通の魔術師としての第一歩が決まる。

 アーベルさんには「君を守らせてほしい」なんて言われて、ちょっとカッコいいなあとか思ったりもしたけど、はっきり宣言するけど、御免だわ。
 『勇者』なんかに守られたら『私、聖女です』って言ってるようなものじゃない。

 「世界を救うのは、『勇者』や『聖女』じゃなくていい」って言ったら、凄く感動して泣いていたけど、あれは何も人を感動させたいわけじゃなくて、私の本心だった。
 人に目立つ渾名を与えて、勝手に祭り上げて、自分は何もしないとか無責任にも程があるわ。

 だから、私はなるの。普通の魔術師に……!

 いち魔術師として世界を救い、救世後穏やかに暮らす。
 それが私のパーフェクトプランよ。

 さて、いざ合格発表となると緊張するわ。
 多分私と同じ気持ちの受験生たちが、魔術学校の講堂に集まっていた。
 ざわついてはいるけど、独特の緊張感が足の裏から伝わってくる。

 ただ私の場合、受験生が向ける視線のせいだと思うけど。
 アーベルさんに助けられた少女って肩書きは、しばらくなくなりそうにないわね。

 所在なさげに発表を待っていると、不意に肩を叩かれた。

「やあ、ミレニア。再試験以来だね」

 穏やかなトーンの声に、私はホッと胸を撫で下ろす。
 振り返ると、私の予想と期待通り、サラサラの銀髪を揺らしたルースが立っていた。

「久しぶりね、ルース」

「もしかして緊張してる?」

「合否発表の緊張もあるけど、周りの視線がね」

「ああ。ミレニア、今やちょっとした有名人だからね。ふふ……」

 ルースはかすかに肩を振るわせる。

「私は目立つことは嫌いなのよ」

「そうなの? その割には、随分と派手に動き回っていたようだけど。再試験の時だって、思いっきりゴーレムを吹き飛ばしていたし」

「ああ。あれは――――」

 いや、私自身は結構抑えて魔術を行使したつもりだったのだ。
 下級魔術だったし。間違ったのは魔力の方だった。
 下級魔術だと思って力を込めたら、それが悪かったのか、土人形ゴーレムどころか、うっかり魔術学校の魔法銀製の塀まで壊してしまった。

 おかげで、先の暴走事故は私の魔力暴走が原因だったのでは、と囁く受験生も少なくなかった。

「魔力測定試験の時の活躍も聞いてるよ」

「ああああああ! それも言わないで! あの時の自分を思い出すだけで、穴に入りたい気分になるんだから」

 満点合格を狙っていたとはいえ、一時の気の迷いであんなパフォーマンスをしてしまった自分が憎い。
 もしかして私って、生来の目立ちたがり屋なのかしら。

「ふふふ……。そんなに落ち込まなくても、多分私の予想ではミレニアはもっと人に注目されるようなことになると思うよ」

「え? それ、どういうこと??」

 ちょっと……。どういうこと。なんか予言めいているんですけど。
 私が頭を抱えていると、ヴェルちゃんの姿を見つけた。

「おーい! ヴェルちゃん!!」

 私は小さな受験生に抱きつく。
 いつもなら鉄拳が飛んでくるところだけど、ヴェルちゃんは一言私にこう言った。

「あなたには負けないからね」

「え??」

 そう言って、ヴェルちゃんは人混みに紛れていく。

 今のは一体なに?

「ヴェルファーレさんは、ちゃんとわかってるようだね」

「何が?」

「君をライバル視してるってこと。魔術学校の予備校にも通っていない君を、認めたってことじゃないかな」

「いやいやいやいや……」

 ないない。断じてそんなことにはならない。
 確かに本気を出せばそうかもしれないけど、ヴェルちゃんも頑張ってた。
 きっと彼女が首席を取るだろう。

 それに私には『勇者』様に命じた恩恵がある。
 私が平均点を取ることは、もう約束されているのだ。

 講堂の正面――演壇に人が立つ。
 ゼクレア教官だ。
 その教官は神妙な顔つきで、私たち受験生にこう言った。

「それでは合格者を発表する」
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