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第二章
第23話
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「アスカ・リン・フロンネル!」
……はい! と合格者の名前が読み上げられると、1拍遅れて側にいた受験生が声を張りあげる。途端頽れると、嗚咽を殺して涙を流していた。
同じ光景を先ほどから会場のあちこちで見られる。
叫び声を上げて泣き出す男子受験生。
同じ合格が決まって抱き合う女子受験生。
父兄が座る席に大きく手を振る受験生もいる。
一方、名前が呼ばれない人間は針のむしろにも等しい。
横で無邪気に喜ぶ受験生など目もくれず、自分の番号が呼ばれることを祈っていた。
「こんな読み上げなくても、受験番号を書いた紙を貼りだしてくれればいいのに。何を勿体ぶってるのかしら」
「ははは! ミレニアらしいね」
隣のルースが軽やかに笑う。
声を震わせる度に揺れる銀髪は、夜の草原に靡く麦の穂を思わせた。
ところで「私らしい」って何よ、ルース?
「紙は後で貼り出すよ。確認のためにね。君のように読み上げが嫌で、欠席する受験生もいる。けどね。この読み上げには他にも理由があるんだよ」
「それはどういう――――?」
以上、ロードレシア魔術学校の入学を認める。
「はえ?」
え? ちょっと待って! 今ので終わり??
わ、私――自分の聞き逃しちゃった?
それとも、もしかして不合格とか??
嘘……。本当に??
私は一瞬にして奈落の外へと落ちていくような気分になる。
目の前が真っ黒になり、何も考えられなくなる。
「ミレニア、大丈夫?」
「だ、だ、だだ――――」
大丈夫じゃない。大丈夫ではない。
私は「普通の魔術師」になるために、それなりに努力してきたわ。
魔術文字は神様から貰ったスキルで読めるけど、年代を覚えることにはかなり苦労した。私には同じ文字にしか見えないからだ。だから、文章のクセや比喩表現などを独自に研究して年代を特定したり、家庭教師も予備校もいってなかったから、自分で毎日前世での魔王との死闘を再現しながら実戦訓練も1人でしていた。
ロードレシア王国の王都に来てからも、苦労は続いた。
筆記試験では魔術文字の符丁が読めず、0点。
全力を出した能力試験は思い通りになったけど、実戦試験では思わぬハプニングに加えて、長年集めてきた魔素を全部使い果たしてしまった。
振り返ってみると、「普通の魔術師」になりたいだけなのに、結構この15年間その部分に私ってば注力しすぎて、他に何か取り柄があるかと言われれば、特にない。
礼儀作法だって、割と曖昧にしか教えられていないし、ダンスはできるけど前世の知識しかないから今の流行とは違う。
だから、今からお妾さんだの、貴族の女給として働くなんて絶対に無理!
「ねぇ。ルース、私どうしたらいいのかしら。気が付いたら、私。魔術以外、特に取り柄がないことに気付いたわ。それ以外、人に誇れるものなんてないのに」
「それだけでも十分じゃないか。僕は魅力的だと思うよ」
「ルース、そう思う。じゃあ、私をお妾さんにしてくれる。ルースの」
真剣な眼差しで尋ねてみた。
ルースは優しいし、纏ってる雰囲気というか空気感が好きだ。
家柄のことは聞いてないけど、とても知的な感じがするから多分貧乏子爵家よりはマシなはず。
「ふふふ……。あはははははは!」
ルースは突然笑い出した。
「君が僕のお妾さんか。なるほど。それは心強いね」
「わ、私は本気よ! 本気なんだから」
「落ち着いて、ミレニア。君が今すべきことは将来を憂うことでも、未来の旦那様を探すことではないと思うよ」
「じゃあ、何――――??」
「深呼吸をしよう。はい、深く息を吸って――――――吐いて……」
初めは馬鹿にされているような気がしていたけど、ルースに言われるまま深呼吸をしていたら落ち着いてきた。
同時に猛烈に恥ずかしくなってくる。
もう4度も人としての人生を歩んでいるのに、なんで私はまだこう未熟者なのだろうか。
自分の人生の選択肢が、1つ外されただけでここまで取り乱すなんて。
いや、多分慣れていないのだ。
私は今まで自分のしたいことを黙々としてきた。
そのために人を動かすこともなった。その人にも、その人の人生があるのに。もしかしたら、私の言葉によってその人の人生の選択肢を狭めていたかもしれないのに。
それに人前に「お妾にして」なんて、よくも言えたものだ。
妾を取ることは、男性が決めること。そして、複数の女性と付き合うことをよしとしない男性もいる。今世の父がそうだった。
慌ててたとはいえ、私はルースが「妾」を取る側の人間だと決めつけてしまった。
「ルース、ごめん。あなたを侮辱してしまったわ」
「全然気にしてないよ。それにミレニアだったら――――」
ルースが言いかけたところで、再びゼクレア教官の声が響く。
「それでは今回の試験にて、優秀な成績を収めた上位3名を呼ぶ。呼ばれたものは、登壇するように。まず第3位――ルクレス・リン・ファブロー」
何か言いかけたルースは口を閉じる。
踵を返して、「はい」と静かに返事した。
すごい。さすがルースね。試験全体の3位なんて。
「あれ?」」
待てよ。
おかしいわね。ルースって名前を呼ばれていたっけ?
合格者の中に入っていなかったんじゃ。
いや、そもそもよく考えたら、ヴェルちゃんの名前も読み上げられなかったような……。
絶対合格してると思ったのに。
「次――――第二位ヴェルファーナ・ラ・バラジア」
そのヴェルちゃんの名前が呼ばれる。
名前を聞いて、周囲の受験生は手を叩き祝福していた。
しかし、彼女だけがまるで狭い井戸の底に落ちたみたいに直立し、青ざめた顔を天井に向ける。
強く拳を握ると、声を押し殺し、「はい」と大股で壇上の方へと歩き始めた。
(え? ちょっと待って??)
一体、何が起こってるの? いや、何が起ころうとしてるの?
「そして、今回の魔術学校試験首席の名前を読み上げる。受験番号668」
ミレニア・ル・アルカルド!!
「へ――――っ!??」
え? えええええええええええええええええええええええ!!!
私の絶叫が講堂に突き刺さるのだった。
……はい! と合格者の名前が読み上げられると、1拍遅れて側にいた受験生が声を張りあげる。途端頽れると、嗚咽を殺して涙を流していた。
同じ光景を先ほどから会場のあちこちで見られる。
叫び声を上げて泣き出す男子受験生。
同じ合格が決まって抱き合う女子受験生。
父兄が座る席に大きく手を振る受験生もいる。
一方、名前が呼ばれない人間は針のむしろにも等しい。
横で無邪気に喜ぶ受験生など目もくれず、自分の番号が呼ばれることを祈っていた。
「こんな読み上げなくても、受験番号を書いた紙を貼りだしてくれればいいのに。何を勿体ぶってるのかしら」
「ははは! ミレニアらしいね」
隣のルースが軽やかに笑う。
声を震わせる度に揺れる銀髪は、夜の草原に靡く麦の穂を思わせた。
ところで「私らしい」って何よ、ルース?
「紙は後で貼り出すよ。確認のためにね。君のように読み上げが嫌で、欠席する受験生もいる。けどね。この読み上げには他にも理由があるんだよ」
「それはどういう――――?」
以上、ロードレシア魔術学校の入学を認める。
「はえ?」
え? ちょっと待って! 今ので終わり??
わ、私――自分の聞き逃しちゃった?
それとも、もしかして不合格とか??
嘘……。本当に??
私は一瞬にして奈落の外へと落ちていくような気分になる。
目の前が真っ黒になり、何も考えられなくなる。
「ミレニア、大丈夫?」
「だ、だ、だだ――――」
大丈夫じゃない。大丈夫ではない。
私は「普通の魔術師」になるために、それなりに努力してきたわ。
魔術文字は神様から貰ったスキルで読めるけど、年代を覚えることにはかなり苦労した。私には同じ文字にしか見えないからだ。だから、文章のクセや比喩表現などを独自に研究して年代を特定したり、家庭教師も予備校もいってなかったから、自分で毎日前世での魔王との死闘を再現しながら実戦訓練も1人でしていた。
ロードレシア王国の王都に来てからも、苦労は続いた。
筆記試験では魔術文字の符丁が読めず、0点。
全力を出した能力試験は思い通りになったけど、実戦試験では思わぬハプニングに加えて、長年集めてきた魔素を全部使い果たしてしまった。
振り返ってみると、「普通の魔術師」になりたいだけなのに、結構この15年間その部分に私ってば注力しすぎて、他に何か取り柄があるかと言われれば、特にない。
礼儀作法だって、割と曖昧にしか教えられていないし、ダンスはできるけど前世の知識しかないから今の流行とは違う。
だから、今からお妾さんだの、貴族の女給として働くなんて絶対に無理!
「ねぇ。ルース、私どうしたらいいのかしら。気が付いたら、私。魔術以外、特に取り柄がないことに気付いたわ。それ以外、人に誇れるものなんてないのに」
「それだけでも十分じゃないか。僕は魅力的だと思うよ」
「ルース、そう思う。じゃあ、私をお妾さんにしてくれる。ルースの」
真剣な眼差しで尋ねてみた。
ルースは優しいし、纏ってる雰囲気というか空気感が好きだ。
家柄のことは聞いてないけど、とても知的な感じがするから多分貧乏子爵家よりはマシなはず。
「ふふふ……。あはははははは!」
ルースは突然笑い出した。
「君が僕のお妾さんか。なるほど。それは心強いね」
「わ、私は本気よ! 本気なんだから」
「落ち着いて、ミレニア。君が今すべきことは将来を憂うことでも、未来の旦那様を探すことではないと思うよ」
「じゃあ、何――――??」
「深呼吸をしよう。はい、深く息を吸って――――――吐いて……」
初めは馬鹿にされているような気がしていたけど、ルースに言われるまま深呼吸をしていたら落ち着いてきた。
同時に猛烈に恥ずかしくなってくる。
もう4度も人としての人生を歩んでいるのに、なんで私はまだこう未熟者なのだろうか。
自分の人生の選択肢が、1つ外されただけでここまで取り乱すなんて。
いや、多分慣れていないのだ。
私は今まで自分のしたいことを黙々としてきた。
そのために人を動かすこともなった。その人にも、その人の人生があるのに。もしかしたら、私の言葉によってその人の人生の選択肢を狭めていたかもしれないのに。
それに人前に「お妾にして」なんて、よくも言えたものだ。
妾を取ることは、男性が決めること。そして、複数の女性と付き合うことをよしとしない男性もいる。今世の父がそうだった。
慌ててたとはいえ、私はルースが「妾」を取る側の人間だと決めつけてしまった。
「ルース、ごめん。あなたを侮辱してしまったわ」
「全然気にしてないよ。それにミレニアだったら――――」
ルースが言いかけたところで、再びゼクレア教官の声が響く。
「それでは今回の試験にて、優秀な成績を収めた上位3名を呼ぶ。呼ばれたものは、登壇するように。まず第3位――ルクレス・リン・ファブロー」
何か言いかけたルースは口を閉じる。
踵を返して、「はい」と静かに返事した。
すごい。さすがルースね。試験全体の3位なんて。
「あれ?」」
待てよ。
おかしいわね。ルースって名前を呼ばれていたっけ?
合格者の中に入っていなかったんじゃ。
いや、そもそもよく考えたら、ヴェルちゃんの名前も読み上げられなかったような……。
絶対合格してると思ったのに。
「次――――第二位ヴェルファーナ・ラ・バラジア」
そのヴェルちゃんの名前が呼ばれる。
名前を聞いて、周囲の受験生は手を叩き祝福していた。
しかし、彼女だけがまるで狭い井戸の底に落ちたみたいに直立し、青ざめた顔を天井に向ける。
強く拳を握ると、声を押し殺し、「はい」と大股で壇上の方へと歩き始めた。
(え? ちょっと待って??)
一体、何が起こってるの? いや、何が起ころうとしてるの?
「そして、今回の魔術学校試験首席の名前を読み上げる。受験番号668」
ミレニア・ル・アルカルド!!
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え? えええええええええええええええええええええええ!!!
私の絶叫が講堂に突き刺さるのだった。
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