聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

文字の大きさ
29 / 74
第二章

第25.5話

しおりを挟む
 ミレニア・ル・アスカルド、辞退します!(きっぱり)


 これにはヴェルちゃんも、ゼクレア教官も驚いた様子だ。
 2人とも見たことないほど、顔を歪めて固まっている。

「ちょ! あ、あんた! 何を言ってるのよ」

「ミレニア、お前まで何を言っている?」

 先ほどまで凄い剣幕で睨み合っていた2人が意見を共にする。
 何だかそれがおかしくて、ヘラヘラと笑っていると、気に触ったのか2人から睨まれてしまった。

「えっと……。2人の話を聞いて、辞退するのは自由だと聞いたし。それに、ヴェルちゃんがいない魔術師師団に入っても何の楽しみもなさそうなので……。だから、私も辞退します」

 いやぁ、辞退したら何かペナルティでもあるのかと思ったらそうでもないし、来年の受験費用はこのまま王都に留まって、自分で貯めればいい。
 そして、もう1回受験をやり直す。
 今回のことで要領はわかったしね。今度こそ普通の点数を取って、普通の魔術師に私はなるのだ。

「ちょっと! あんた!! もしかして……、もしかしてだけど、まさかあたしのためとか言うんじゃないわよね」

「半分は自分のため。半分は……そうね。友達のためかも」

「ふざけないで!!」

 ヴェルちゃんはついに怒鳴る。
 まるで怒った猫みたいに「フー」と息を吐いていた。

「別にふざけてなんかないわ」

「はあ?」

「だって私が辞退して、来年もヴェルちゃんと一緒に受験したらまた競い合えるでしょ。その時にヴェルちゃんが私に勝てば、納得の1番になれるじゃない」

「え? えっと……。待って……。ごめん。あんたが何を言ってるかわかんなくなってきた。それをして、あんたにメリットがあるの?」

「メリット……。メリットねぇ」

 私が自分の利益だけで行動できていたら、もっとマシな人生だったのかしら。
 勇者に政治を譲らず、自分で国を治めていたら、火刑に処されることも、子どもに石を投げられることなかったのかしら。
 でも、私はなんという……メリットがあることが自分の利益になるとは思えないのよねぇ。

「わからない」

「は? あなた、本当に馬鹿なの?」

「かもね。馬鹿だから、3回も殺されるのかも」

「え? 今、何て言ったの?」

「こ、こっちのことよ。……でも、強いて言うならまたこうしてヴェルちゃんと一緒に受験ができる。それが私にとっての最大のメリットかもしれないわね」

 大きく綺麗な緑の瞳に、子どもみたいに歯をむき出した私が笑っていた。
 心なしかヴェルちゃんの頬が赤く見える。
 やっぱり可愛いわぁ、ヴェルちゃん。

「ミレニア! お前、何を言ってるんだ!!」

 そう言えば、まだゼクレア教官がいたこと思い出した。
 振り返ると、鬼の形相で立っている。
 言い訳を考えていると、声が聞こえた。

「なるほど。そういうことか」

 怖い教官の前に立ちはだかったのは、ルースだった。

「ゼクレア教官、僕も辞退します」

「はあ?? ルクレスまで。何を言って」

「ミレニアと同じ理由ですよ。魔術師師団に入っても、2人がいないと張り合いがなさそうなので。だから、僕も来年受験しようと思います」

 ルースは天使のように微笑む。
 ゼクレア教官は完全に固まってしまった。
 すると、「クスリ」と笑う声が聞こえる。

「ゼクレア、君の負けだ」

「折角の逸材をここで逃すのは、魔術師第一師団の師団長としてどうかと思うがね」

 やってきたのは、ゼクレア教官と同じ法服を着た2人の教官だった。
 確か1人はアランっていう試験で出会った教官だ。
 もう1人――眼鏡をかけた教官の名前は知らないけど、試験会場でチラチラ見かけた。

「アラン。ボーラまで」

 2人の教官は演台に上がってくる。
 ゼクレア教官以外の教官――しかも魔術師師団長の登場に、また受験生たちが騒ぎ始めた。
 そんな騒ぎを横目に、アラン教官とボーラ教官は私たちの方を向いてニコリと笑う。
 最初に口を開いたのは、アラン教官だ。

「ヴェルファーナさん。君は何故第2師団に選ばれたのかわかるかい」

「それは……。あたくしが2位で、ミレニアが第一師団だったから」

 雪のような真っ白な髪に、不思議な青みがかった銀色の瞳。
 まだ戯けない表情を残していて、他教官と肩を並べているのが異質なほど若く見える。
 異性とは思えないほど、白い肌は本当に天から降りてきた天使のようだ。

 その美貌に圧倒されながら、答えを返すヴェルちゃんもさすがだった。

「違うよ。他の教官は成績で決めたりするけど、僕は成績で決めたりはしない。ちゃんと適材適所を考えて配置する。君を第二師団にすることに決めたのも、僕だ。それは君がバラジア家の侯爵令嬢だからでも、『炎の魔女』だからでもない。……ヴェルファーナさん、僕たち第二師団が守るところはどこかな?」

「王都ですか?」

「そうだ。特に王都の制空権だね。城壁を越えてやってくる竜騎士や魔術師への対応が僕たちの仕事だ。空は広い。加えて障害物がない。だから四方八方から敵がやってくる。それ故に、魔力量が多く、また広域魔術に長けた魔術師が選ばれる」

 なるほど。
 ヴェルちゃんの魔力量は私から見ても凄い。底なしってことはないだろうけど、空戦は昔から長期化することが多く、継続戦闘能力が求められる。

 そしてヴェルちゃんの炎の魔術は、広域殲滅を主とした魔術が多い。
 逆に王宮を防衛する第一師団は、ヴェルちゃんのような攻勢を得意とする魔術師は不得手だ。王宮を維持しつつ、防衛と器用さに秀でた魔術師が重宝される。

 確かにヴェルちゃんの第二師団入りは理に叶っていた。

「これで納得してくれただろうか。……それを踏まえて、もう1度我が団に入団することを考え直してほしい。僕には君の力が必要だ。ともに国の空を守ろう」

「…………か、考え違いをしておりました。あたくしは自分の未熟さばかり気になって、教官たちの深い思慮を理解することを怠っておりました」

 ヴェルちゃんはゼクレア教官の方を向くと、頭を下げた。

「ゼクレア教官、申し訳ありません。あたくしが浅はかでした」

「……別に気にしてはいない。自分のことしか考えられないのは、若いヤツの特権みたいなものだからな」

「ぷっ! それって、自分が若くないって言ってるみたいじゃないか、ゼクレア」

 アラン教官が吹き出すと、側のボーラ教官も腰を折って笑った。
 ゼクレア教官は顔を真っ赤にしながら、反論する。

「うっせぇ! ――――で、どうすんだよ、ヴェルファーナ?」

「願わくば、先ほどの言葉は撤回させて下さい」

「わかった。……アレンは優秀な魔術師だ。そこで鍛えてもらって、リベンジしろ。お前はまだ若い。チャンスはいくらでもある」

 期待を込めるようにヴェルちゃんの肩を叩いた。

 一方、アランさんはヴェルちゃんの小さな手を取る。
 この手からあの強烈な魔術が解き放たれると到底思えない、未成熟な手だ。
 それをアランさんはまるで英雄譚に出てくるように、甲にキスをした。

「おめでとう、ヴェルファーナ。そしてようこそ第二師団へ。君を歓迎するよ」

「……は、はい。よろしくお願いします」

 キャアアアア!! いいわ! いいわね。
 小さな女の子と、王子様みたいな教官の誓いのキス。
 ヴェルちゃん、めっちゃ顔を赤くなってるし。可愛い。眼福だわ。ご飯何杯でも食べれそう。

 やっぱり美男美女のペアはいいわね。これが上司と部下というところがなかなか個人的に点数が高い。まずい。興奮したら涎が……。

「それで? お前たちも撤回するのか?」

 私が妄想していると、夢の欠片もないようぶっきらぼうなゼクレア教官の声が聞こえてくる。

「いえ。わ、私は――――」

「はい。ヴェルファーナさんが残るのであれば、先ほどの発言を撤回させていただきます。それでいいよね、ミレニア」

「え? いや、私は――――」

 言えない。本気で撤回しようとしていたことを。
 いや、この後に及んで撤回なんて無理か。すでにアーベルさんにはバレてるし。
 勇者まで動かして、私だけ撤回なんて知ったら、アーベルさんに忠誠を誓ってるゼクレア教官がどれだけ怒るか。

 仕方がない。ここは折れるか。

「て、撤回しますけどぉ。あの……。ゼクレア教官にも、私を選んだ理由ってあるんですか?」

「ん? ああ……」

 ゼクレア教官は癖ッ毛の黒髪を掻いた後考える。

 私を選んだ理由ってなんだろう。
 あれ? なんか私、今ドキドキしてるぞ。別に鼓動を鳴らすところでもないと思うんだけど……。

「…………さてな。忘れた」

「はっ!」

「強いて言うなら、お前はヴェルファーナと違って、暴走しそうだから。俺ぐらいしか止められないと思ったから……。かな?」

 な、なんですか、それは。
 私は猛獣か何かなの。
 ムキィィィィイイイイイ!

 実地試験の時、誰が助けたと思ってるのよ、この人。

 いつかギャフンと言わせてあげるわ。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...