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第三章
第27話
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そう言えば、今日が他の新人団員との初顔合わせだっけ。
夜には親睦会があるとか。
美味しい食事にありつけるかしら。ちょっと楽しみね。
そこで親交を深めるのもいいけど、こういう場で声をかけたところで問題はないわよね。
靴を並べて国を守る軍人なのだし、悪いことじゃないはず。
そもそも今って、ヴェルとルースしか友達はいないのよね、私。
今後、世界の脅威と戦うなら、一緒に戦う友達は1人でも多い方がいい。
「あの……」
私はそっと声をかける。
屈みながら檻の中にいる小さな精霊を眺めていた少女は立ち上がった。
少女と言っても、向こうは年上だろう。
でも、目が小さくて、どこかあどけなさが残っている。
背は低いものの、とても艶のある綺麗な黒髪をしていた。
ヴェルとはまた別の可愛さがある少女だった。
私に声をかけられ、慌てて立ち上がると、何か戸惑ったように目を泳がせる。
まだ仮の名札には、「カーサ」と書かれていた。
「驚かせてごめんなさい、カーサ……さん」
話しかけると、相手は驚いたように瞼を広げた。
「いや、その名札ね。カーサって書いてたから、つい……」
どうも相手のペースになってしまうと、こっちのしゃべり方まで固くなってしまう。
話題を見つけるため、カーサが見ていた小さな精霊の方を見た。
ピクシーだ。額に角と、蜻蛉のような羽根を生えた精霊。
大きなアーモンド型の目がなかなか愛らしかった。
「気になるなら、契約してみたらどう?」
とはいえ、ピクシーもそれなりに位の高い精霊だ。
契約しろと言われて、「はい。そうですか」と契約してくれるわけではない。
けれど、私の目から見て、ピクシーもカーサのことを気にしてるみたいだ。
相思相愛――これはなかなかの幸運だと思う。
ピクシーは小さいけど有能な精霊だ。
こう見えて力が強く、魔力も高い。知能が高いから、教え込めば人間と同じ魔術を使うことができるはず。
忠誠心も高いから、とても扱いやすいのだ。
「い、いえ。わたし――――」
カーサは首を振ると、そのままどこかへ行ってしまった。
それを名残惜しそうにピクシーは見つめている。
あらら……。ここまで精霊に気に入られているのに契約しないなんて勿体ない。
「ちょっと待ってて。引き留めてくるから」
『待って!!』
ピクシーは叫ぶ。
私がその通り立ち止まると、逆にピクシーは驚いていた。
『お姉さん、ぼくと契約していないのに、精霊の言葉がわかるの?』
「え? ああ……。まあ、その色々あってね」
面倒くさいから神様からチートをもらった話はしないでおこう。
あの話をしたからムルンに気に入られたところもあるしね。
「特異体質なのよ。……ところで、なんで呼び止めたの? 私にはお似合いのカップルに見えたけど」
『いや、いいんだ……。ぼくは中途半端だから。彼女にはもっとふさわしい精霊がいると思うし』
「中途半端?」
首を傾げると、ピクシーは怖ず怖ずと私の方に向かって背中を見せた。
それだけで言葉の意味がわかった。
ピクシーには、美しい蜻蛉のような羽根が4枚生えている。
だが、今目の前のピクシーの背中には、ちょうど左側が欠けて片羽根になっていたのだ。
「どうして、こんな?」
『ぼくは元々精霊の密猟者から逃げてきて、国に保護されたピクシーなんだ。そういう精霊はこの厩舎に割といて、ぼくもその1匹なんだよ』
へぇ……。精霊ってそう捕まえられないものだから、この厩舎にいる精霊たちの出所はどこなんだろうって思ってたけど、保護された精霊なのね。
それにしても、惨いことをするわね。
ピクシーの羽根って、「天使の羽根」って言われるぐらい美しいのに。
まあ、だからこそ昔から密猟者が後を絶たなかったわけだけど。
さらに尋ねると、このピクシーとカーサは以前から知り合いらしい。
精霊厩舎は魔術学校の生徒の研修先にもなっていて、その頃からの知り合いなんだそうだ。
『このままでも確かに契約はできると思う。けど、力は半分しか出せない。そんなぼくと彼女が契約して、仮に戦場に行ったりして契約者の命を失うことになれば、ぼくは多分一生自分のことを許せないと思う』
「だから、契約できない? それなら他の精霊と契約してもらった方がいい。そういうことね?」
『うん』
ピクシーは羽根をしまい、こちらを見ながら頷いた。
「あなたが彼女を想う気持ちはカッコいいと思う。立派よ。でもね。そういう気持ちを抑えつけて、何も言わないままなんてカッコ悪い。ダサい」
『そこまで言わなくても……』
「言うわよ。だって、あんたが片羽根だってことは彼女は知ってるんでしょ。それでも、あなたのところに来て訪ねてくるってことは、それでも契約したいってことじゃない」
『そ、そんなもんかな?』
「そんなもんよ。同じ人間で、同性なんだから信じなさい」
『ねぇ……。ぼくはどうしたらいいと思う?』
ふっふっふっ……。私は思わず不敵に笑った。
「心配なさんな。私がまたここに彼女を連れてきてあげる」
『ホント! ありがとう!!』
ピクシーはアーモンド型の目を光らせて喜ぶ。
まさか精霊と人間の恋のキューピットになるとはね。
でも、精霊の言葉を無料で聞ける私の特権みたいなものだし。
ここはいっちょ一肌脱ぎますか。
「あ。そうだ。ピクシーくん、あなたみたいに他に負傷してる精霊はいるんじゃない」
『うん。そうだけど』
「今度カーサを連れてきた時でいいから教えてくれないかしら」
『どうするんだい?』
「それは、ひ・み・つ……。頼んだわよ」
私はピクシーに手を振り、その場を後にするのだった。
◆◇◆◇◆
カーサ・リン・ランティーは、片羽根のピクシーの檻から逃げるように離れると、角で団員のグループと鉢合う。
一瞬、「ごめんなさい」と言おうとしたのを、慌てて留めた。
学校時代からよく知る同期だったからだ。
「カーサ、どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
「なんでもないってことないでしょ、血相を変えて。――ん? あそこってカーサが狙ってるピクシーの檻でしょ?」
目立つ赤毛の少女がピクシーの前に居座っていた。
何やらピクシーと楽しそうに談笑している。
それを見たカーサは、さらに顔を青くすると、その場から走り出してしまった。
「ちょ! カーサ!!」
女子団員は呼び止めたが、結局厩舎の外に出ていってしまい、姿が見えなくなる。
「待って。カーサ」
「やめときな」
追いかけようとしたが、別の女子団員が呼び止めた。
「今はソッとしておこう。何を言っても無駄だって。それよりも、あのいけ好かない団員の方が問題だ。精霊契約されたら……」
「ちょっと待って。あいつ……」
もう1人の女子団員の顔がたちまち青くなる。
「どうした?」
「あいつだよ。飛び級の……。満点合格したって」
『ホントかよ』
他の2人は声を揃えた。
「あの赤毛は間違いないと思う。……ヤバいって、あれは」
「あたしも聞いてる。勇者をぶっ飛ばしたって」
「チッ! エリートぶりやがって。……なら、あの子にはきっちり社会の厳しさを教えてやらないとね」
1人がパンと手を叩く。
親の仇のように赤毛の団員を見つめた。
「どうするの?」
「あたしたちで囲っても、返り討ちにあうかもよ」
「大丈夫。あたいに考えがある……」
女子団員は笑うのだった。
夜には親睦会があるとか。
美味しい食事にありつけるかしら。ちょっと楽しみね。
そこで親交を深めるのもいいけど、こういう場で声をかけたところで問題はないわよね。
靴を並べて国を守る軍人なのだし、悪いことじゃないはず。
そもそも今って、ヴェルとルースしか友達はいないのよね、私。
今後、世界の脅威と戦うなら、一緒に戦う友達は1人でも多い方がいい。
「あの……」
私はそっと声をかける。
屈みながら檻の中にいる小さな精霊を眺めていた少女は立ち上がった。
少女と言っても、向こうは年上だろう。
でも、目が小さくて、どこかあどけなさが残っている。
背は低いものの、とても艶のある綺麗な黒髪をしていた。
ヴェルとはまた別の可愛さがある少女だった。
私に声をかけられ、慌てて立ち上がると、何か戸惑ったように目を泳がせる。
まだ仮の名札には、「カーサ」と書かれていた。
「驚かせてごめんなさい、カーサ……さん」
話しかけると、相手は驚いたように瞼を広げた。
「いや、その名札ね。カーサって書いてたから、つい……」
どうも相手のペースになってしまうと、こっちのしゃべり方まで固くなってしまう。
話題を見つけるため、カーサが見ていた小さな精霊の方を見た。
ピクシーだ。額に角と、蜻蛉のような羽根を生えた精霊。
大きなアーモンド型の目がなかなか愛らしかった。
「気になるなら、契約してみたらどう?」
とはいえ、ピクシーもそれなりに位の高い精霊だ。
契約しろと言われて、「はい。そうですか」と契約してくれるわけではない。
けれど、私の目から見て、ピクシーもカーサのことを気にしてるみたいだ。
相思相愛――これはなかなかの幸運だと思う。
ピクシーは小さいけど有能な精霊だ。
こう見えて力が強く、魔力も高い。知能が高いから、教え込めば人間と同じ魔術を使うことができるはず。
忠誠心も高いから、とても扱いやすいのだ。
「い、いえ。わたし――――」
カーサは首を振ると、そのままどこかへ行ってしまった。
それを名残惜しそうにピクシーは見つめている。
あらら……。ここまで精霊に気に入られているのに契約しないなんて勿体ない。
「ちょっと待ってて。引き留めてくるから」
『待って!!』
ピクシーは叫ぶ。
私がその通り立ち止まると、逆にピクシーは驚いていた。
『お姉さん、ぼくと契約していないのに、精霊の言葉がわかるの?』
「え? ああ……。まあ、その色々あってね」
面倒くさいから神様からチートをもらった話はしないでおこう。
あの話をしたからムルンに気に入られたところもあるしね。
「特異体質なのよ。……ところで、なんで呼び止めたの? 私にはお似合いのカップルに見えたけど」
『いや、いいんだ……。ぼくは中途半端だから。彼女にはもっとふさわしい精霊がいると思うし』
「中途半端?」
首を傾げると、ピクシーは怖ず怖ずと私の方に向かって背中を見せた。
それだけで言葉の意味がわかった。
ピクシーには、美しい蜻蛉のような羽根が4枚生えている。
だが、今目の前のピクシーの背中には、ちょうど左側が欠けて片羽根になっていたのだ。
「どうして、こんな?」
『ぼくは元々精霊の密猟者から逃げてきて、国に保護されたピクシーなんだ。そういう精霊はこの厩舎に割といて、ぼくもその1匹なんだよ』
へぇ……。精霊ってそう捕まえられないものだから、この厩舎にいる精霊たちの出所はどこなんだろうって思ってたけど、保護された精霊なのね。
それにしても、惨いことをするわね。
ピクシーの羽根って、「天使の羽根」って言われるぐらい美しいのに。
まあ、だからこそ昔から密猟者が後を絶たなかったわけだけど。
さらに尋ねると、このピクシーとカーサは以前から知り合いらしい。
精霊厩舎は魔術学校の生徒の研修先にもなっていて、その頃からの知り合いなんだそうだ。
『このままでも確かに契約はできると思う。けど、力は半分しか出せない。そんなぼくと彼女が契約して、仮に戦場に行ったりして契約者の命を失うことになれば、ぼくは多分一生自分のことを許せないと思う』
「だから、契約できない? それなら他の精霊と契約してもらった方がいい。そういうことね?」
『うん』
ピクシーは羽根をしまい、こちらを見ながら頷いた。
「あなたが彼女を想う気持ちはカッコいいと思う。立派よ。でもね。そういう気持ちを抑えつけて、何も言わないままなんてカッコ悪い。ダサい」
『そこまで言わなくても……』
「言うわよ。だって、あんたが片羽根だってことは彼女は知ってるんでしょ。それでも、あなたのところに来て訪ねてくるってことは、それでも契約したいってことじゃない」
『そ、そんなもんかな?』
「そんなもんよ。同じ人間で、同性なんだから信じなさい」
『ねぇ……。ぼくはどうしたらいいと思う?』
ふっふっふっ……。私は思わず不敵に笑った。
「心配なさんな。私がまたここに彼女を連れてきてあげる」
『ホント! ありがとう!!』
ピクシーはアーモンド型の目を光らせて喜ぶ。
まさか精霊と人間の恋のキューピットになるとはね。
でも、精霊の言葉を無料で聞ける私の特権みたいなものだし。
ここはいっちょ一肌脱ぎますか。
「あ。そうだ。ピクシーくん、あなたみたいに他に負傷してる精霊はいるんじゃない」
『うん。そうだけど』
「今度カーサを連れてきた時でいいから教えてくれないかしら」
『どうするんだい?』
「それは、ひ・み・つ……。頼んだわよ」
私はピクシーに手を振り、その場を後にするのだった。
◆◇◆◇◆
カーサ・リン・ランティーは、片羽根のピクシーの檻から逃げるように離れると、角で団員のグループと鉢合う。
一瞬、「ごめんなさい」と言おうとしたのを、慌てて留めた。
学校時代からよく知る同期だったからだ。
「カーサ、どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
「なんでもないってことないでしょ、血相を変えて。――ん? あそこってカーサが狙ってるピクシーの檻でしょ?」
目立つ赤毛の少女がピクシーの前に居座っていた。
何やらピクシーと楽しそうに談笑している。
それを見たカーサは、さらに顔を青くすると、その場から走り出してしまった。
「ちょ! カーサ!!」
女子団員は呼び止めたが、結局厩舎の外に出ていってしまい、姿が見えなくなる。
「待って。カーサ」
「やめときな」
追いかけようとしたが、別の女子団員が呼び止めた。
「今はソッとしておこう。何を言っても無駄だって。それよりも、あのいけ好かない団員の方が問題だ。精霊契約されたら……」
「ちょっと待って。あいつ……」
もう1人の女子団員の顔がたちまち青くなる。
「どうした?」
「あいつだよ。飛び級の……。満点合格したって」
『ホントかよ』
他の2人は声を揃えた。
「あの赤毛は間違いないと思う。……ヤバいって、あれは」
「あたしも聞いてる。勇者をぶっ飛ばしたって」
「チッ! エリートぶりやがって。……なら、あの子にはきっちり社会の厳しさを教えてやらないとね」
1人がパンと手を叩く。
親の仇のように赤毛の団員を見つめた。
「どうするの?」
「あたしたちで囲っても、返り討ちにあうかもよ」
「大丈夫。あたいに考えがある……」
女子団員は笑うのだった。
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