聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

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第三章

第32話

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 親睦会が終わり、腹ごしらえも終わった。
 本日は無礼講ということで、厳しい官舎の門限もない。
 朝まで新人同士、語り明かせということなのだろう、と私は勝手に解釈した。

 マレーラの誘いを受けて、私は精霊厩舎近くの森に集合する。
 夜の森というのは、無条件で不気味だけど、精霊厩舎が近くにあるというだけでそのイメージを何倍増しにもしていた。

 でも、私の胸は真っ暗な森を見ながらも、弾んでいた。

 実は肝試しというのが初めてだったからだ。
 そもそも年の近い人間とこうして遊びのために森に入ること自体、初めてだった。
 聖女だった頃は、遊ぶ間もなく仕事ばかりしていた。それこそ寝る間を惜しんでだ。
 移動する度に人が付いてくるし、1人になる時間すらなかった。
 なのに、勇者や王子は私に隠れて夜の遊――――思い出したら、別の意味でドキドキしてきたわ。

 けど、過ぎたことは仕方がない。
 年上のお姉様方のリードというのもいいだろう。
 いつも私がリードする側だったからね。

「あ。いた。いた。マレーラ」

 私が手を振ると、マレーラは手を振った。
 他の新人団員たちも手を振る。
 うん。なんか青春って感じがする。ちょっと泣けてきた。

「おう。よく来たね、ミレニア。こいつら、うちの仲間だ。ミレニアだよ、よろしくな」

 肝試しには親睦会に参加できなかった新人団員もいて、私は次々と自己紹介を受ける。
 みんながみんな、陽気でとても良い人みたいだ。
 その中にあのカーサの姿も発見して、手を上げると、軽く会釈してくれた。

 まだピクシーのことは話せていない。
 できれば2人っきりの時に説明した方がいいと考えてる。
 だけど、なかなか機会がない。
 いつもマレーラか、スーキー、ミルロが側にいるからだ。
 見た目は割とあべこべな感じなのに、随分と仲がいいらしい。
 やっぱり羨ましいかもしれない。

「おや、他の2人は??」

「それが官舎に帰っちゃって……。誘ったんだけど」

 ヴェルも、ルースも肝試しに行こうと言ったんだけど、2人とも断られてしまった。
 すでに官舎に帰っている。
 ヴェルは午後9時までに眠るのを習慣にしてるらしい。
 まるで子どもみたいっていうと、すっごく怒られてしまった。
 夜更かしすると、背が伸びないと思っているようだ。
 ルースの方というと、家族に手紙を書かなければならないらしい。

 そういうわけで、飛び級組は私1人の参加となったのだ。残念。

「ごめんね、マレーラ。折角誘ってくれたのに」

「ミレニアだけでも参加してくれたんだから嬉しいよ。さあ、仲間を紹介しよう」

 そう言って、マレーラはポンと私の背中に叩く。
 優しいなあ、マレーラ。
 私には2人の姉がいるけど、それとはまた違う空気を感じる。

 肝試しを通じて、いい友達になれればいいな。


 ◆◇◆◇◆


 夜分の執務室で、隊員の報告を受けていたのはゼクレア第一魔術師団師団長だった。

 癖ッ毛の頭に軽く手を置きなら、ブラウンの三白眼を動かして報告書を読んでいる。
 それを見ていたのは、まだ若い隊員だ。
 しかし、目の前の師団長とそう変わらないだろう。
 ゼクレアは20歳にして第一魔術師師団長に抜擢された才人。
 今度入ってくる学校組の新人と比べても、わずか2歳しか違わない。

「なるほど。わかった」

 執務机を挟み、緊張した面持ちの隊員はひとまずホッと息を吐いた。
 ゼクレアは報告書を一旦置き、脇に置いた珈琲に手を伸ばす。
 すっかり冷めていたが、乾いた喉にはちょうどよかった。

「王都に密猟団か……。命知らずどもめ。ここが俺たち魔術師第一師団の庭だと知っているのか?」

「どうされますか?」

「無論、殲滅だ」

 ゼクレアは静かに宣言した。
 静かな宣戦布告とも取れる言葉に、隊員の息が詰まる。

「まずはアーベルの第二師団とも情報共有する。王都に潜伏しているなら、あっちの管轄だからな。一応第六師団のロブに報告しておいてくれ」

「了解です」

「それと王宮と精霊厩舎の警邏人数を増やす。プランCだ」

「プランC……。王宮他の建造物が狙われている場合のシフトですね。了解です」

 隊員が敬礼する。
 出て行こうとすると、窓の外から笑い声が聞こえた。
 何事だとゼクレアが窓の外を覗く。
 若い隊員が官舎で酒の杯を片手に盛り上がっていた。

「そうか。今日は親睦会か」

「どうします?」

「新人どもに悪いが、官舎に引き上げさせろ」

「仕方ないですね。わかりました」

 隊員が執務室を辞す。
 ゼクレアは窓の外を見続けていた。
 騒いでいる新人たちを見て、昔の自分と勇者アーベルを重ねる。

 例の事件以来、アーベルは職場復帰できていない。
 本人は元気なのだが、政治側の許可が下りない。どうやら実技試験の騒ぎについてリークした人間がいるらしい。
 そのため、今総帥代理はゼクレアが務めている。

「あいつがいない間に問題を起こすわけにはいかん。いざとなれば……」

 ゼクレアは鋭い三白眼を窓の向こうに突きつけるのであった。
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