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第三章
第34話
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◆◇◆◇◆ 密猟者たち ◆◇◆◇◆
ミレニアたちが肝試し興じる中、森で暗躍する一団がいた。
すべての人間が武装した集団は、ゼクレアが警戒していた密猟者たちである。
この時期、新人団員の入団で魔術師師団の官舎付近の警戒が緩む。
毎年数人の新人団員が酔いつぶれ、王宮の一角で酔いつぶれるなんてこともあって、衛兵たちが駆り出されたりするのだ。
魔術師師団の風物詩とも言うべき光景なのだが、密猟者たちはその騒ぎを狙っていた。
彼らの狙いは王宮が管理している精霊厩舎だ。そこには珍しい精霊たちがよりどりみどりらしい。
精霊は闇市では高値で取引される。珍しいものになれば、云千万というお金が動くと言われている。
「今のところ、警戒されてないみたいだな」
密猟団の頭目は口端を吊り上げる。
「はっ! 1度探知魔術を使って確認しますか?」
「馬鹿野郎……。ここはもう王宮防衛部隊の探知範囲だぞ。探知魔術なんて放ったら、たちまち怖い師団長様がやって来ちまうだろうが」
「それにしても頭目……。王宮の精霊厩舎を狙うなんて大胆なことを考えましたね」
「侵入手段までバッチしだし」
団員たちは頭目を称賛するというより、半分馬鹿にしたみたいに気味悪く笑う。
一方、頭目は自分頭を叩いた。
「オレもよくわからんのだが、ふと天啓が降りてきたんだよ」
頭目は少し得意げに話すが、団員たちが信じた様子はない。
すると、突如近くで悲鳴が聞こえた。
夜目が利く団員が目視で確認する。
どうやら密猟団が潜んでいる森に誰かが入ってきたようだ。
最初は防衛部隊の見廻りかと思ったが、そうではない。
「チッ! 学生か?」
「いえ。魔術師師団の新人隊員でしょ」
「おいおい。肝試しってところか。馬鹿高い学費を払って、魔術学校を卒業できる貴族のご子息様やご令嬢様はなんとも優雅だね」
「どうしますか?」
「ひよっこといっても、見つかったら厄介だ。追っ払うか――――うん」
突如、頭目は眉を顰めた。
他の団員たちも変化に気付く。
彼らの視線の先にいたのは、金糸の入った高そうな黒ローブを着た正体不明の人物だった。
「こんにちは……」
その声に密猟団はひやっとした。
一聴、女の声にも聞こえるが、やはり男にも聞こえる。
中性的といえばいいだろうか。どこか超然とした雰囲気に密猟団は誰も動かない。
王宮の精霊厩舎を狙いに来た彼らは勿論お忍びだ。
今すぐにでも、目の前の正体不明の人間を殺すべきなのだが、1歩を踏み出す者すらいない。
黙っているうちに、黒ローブを帯びた者から近づいてくる。
フードを目深に被り、目も鼻も見えない。かろうじて顎と口元が見えるだけ。
何より寒気がするほど、青白い肌をしていた。
「お、お前、何者だ?」
「あらあら……。わたくし、あやしい者に見えませんか?」
「ふ、ふざけているのかよ?」
「ふざけてなんかいませんよ。本当のことを言っただけです」
黒ローブは口元に手を当て、コロコロと笑う。
バターのように濃厚な恐怖を振りまいた後、黒ローブは言った。
「ひい、ふう、みぃ……。なかなか手勢ですが、王宮に侵入するには少々戦力が足りませんね」
「はっ? 余計なお世話だ!」
「わたくしが少しばかりお貸しいたしましょう……」
「お貸しって……」
何を? 尋ねた時、突然土が盛り上がる。
密猟団たちは目を見張る。すると、飛び出してきたのは人の手だった。
土のから人の手。さらに言えば、肉も何もない。
白骨化した人の手だった。
ここに来るまで極力足音を立てず、森の中を移動していた密猟団の間から悲鳴が漏れる。
恐怖に震える密猟団を余所に、所謂スケルトンと呼ばれる悪霊たちは盾を握り、武器を構えると、鍛え上げられた軍隊のように整然と並び立った。
「な、なんだこりゃ?」
「おや。お気に召しませんか? 所謂、地獄から這い上がってきた亡者ですよ。とても強いんですよ。何せ地獄で鍛えているのですから」
「お前、何を冗談……」
「さっきも言いましたよね。わたくしは先ほどから真剣だと……」
頭目が気付いた時には、自分の頭に剣が刺さっていた。
あっ……、と声を上げたが、それは小さな生の瞬間だけでしかない。
密猟団たちが騒ぎ出す。
しかし、驚くべきはここからだった。
どう考えても即死したと思っていた頭目から声が聞こえたからだ。
『いきなり殺すなよ。人間たちが驚いているだろう』
暗く、そして威厳のある声。
明らかに頭目の声なのに、その纏っている空気はまるで違う。
すると、黒ローブは薄く笑う。
フードを脱ぐと、左目を漆黒の髪で隠した女の姿が現れた。
闇夜にぼうと光るような魅力に、密猟団員たちの一部ではぼんやりとする者もいる。
絶世といっても遜色のない微笑みを浮かべると、嬉しそうに持っていた剣を引き抜いた。
不気味な音を立てて、頭目の傷口は治っていく。
瞬間的な再生能力は、聖女の力を使ったミレニア以上だった。
「ごめんなさい……。1度やってみたかったのよ」
『相変わらずだな』
「あなたがそう作ったんでしょ」
『私が作ったのは、肉体と魂だけだ。性格については私の領分ではない』
「そんなことより、どういたしますか? ビックリしてますよ、彼ら」
女は逃げもせずただ呆然としている密猟団たちの方を見つめた。
うっとりとした微笑みを忘れてはいない。
しかし、次に出てきた言葉は非常に冷酷であった。
『殺せ……。彼らはここまでだ』
瞬間、スケルトンたちが動く。
一斉に密猟団に襲いかかった。
悲鳴を上げたが、森の闇がそれらを吸い尽くす。
気付いた時には、スケルトンに加えてアンデッドまで増えていた。
「お友達が増えて良かったわね」
女は目を細める。
一方、頭目の方は以前険しい身体をしていた。
『聖女はどこだ?』
「慌てな~い。慌てな~い。聖女の出番はもっと後よ。今はお仕事が先でしょ」
しかし、頭目だった男は耳を傾けない。
手を掲げると、そこから黒い塊のようなものがうねうねと出てくる。
それは異形の獣が現れた。
『いけ!』
指示を出すと、獣は闇の中に消える。
「そんなことをしなくてもいいのに」
『あれに食われるぐらいなら、聖女もたかがしれる』
「かもね」
軽く返すと、女と男はスケルトンを伴い、精霊厩舎の方へと向かうのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
仇役だけになってしまったので、
あと、もう1回頑張って更新します!
お休みやすし。
ミレニアたちが肝試し興じる中、森で暗躍する一団がいた。
すべての人間が武装した集団は、ゼクレアが警戒していた密猟者たちである。
この時期、新人団員の入団で魔術師師団の官舎付近の警戒が緩む。
毎年数人の新人団員が酔いつぶれ、王宮の一角で酔いつぶれるなんてこともあって、衛兵たちが駆り出されたりするのだ。
魔術師師団の風物詩とも言うべき光景なのだが、密猟者たちはその騒ぎを狙っていた。
彼らの狙いは王宮が管理している精霊厩舎だ。そこには珍しい精霊たちがよりどりみどりらしい。
精霊は闇市では高値で取引される。珍しいものになれば、云千万というお金が動くと言われている。
「今のところ、警戒されてないみたいだな」
密猟団の頭目は口端を吊り上げる。
「はっ! 1度探知魔術を使って確認しますか?」
「馬鹿野郎……。ここはもう王宮防衛部隊の探知範囲だぞ。探知魔術なんて放ったら、たちまち怖い師団長様がやって来ちまうだろうが」
「それにしても頭目……。王宮の精霊厩舎を狙うなんて大胆なことを考えましたね」
「侵入手段までバッチしだし」
団員たちは頭目を称賛するというより、半分馬鹿にしたみたいに気味悪く笑う。
一方、頭目は自分頭を叩いた。
「オレもよくわからんのだが、ふと天啓が降りてきたんだよ」
頭目は少し得意げに話すが、団員たちが信じた様子はない。
すると、突如近くで悲鳴が聞こえた。
夜目が利く団員が目視で確認する。
どうやら密猟団が潜んでいる森に誰かが入ってきたようだ。
最初は防衛部隊の見廻りかと思ったが、そうではない。
「チッ! 学生か?」
「いえ。魔術師師団の新人隊員でしょ」
「おいおい。肝試しってところか。馬鹿高い学費を払って、魔術学校を卒業できる貴族のご子息様やご令嬢様はなんとも優雅だね」
「どうしますか?」
「ひよっこといっても、見つかったら厄介だ。追っ払うか――――うん」
突如、頭目は眉を顰めた。
他の団員たちも変化に気付く。
彼らの視線の先にいたのは、金糸の入った高そうな黒ローブを着た正体不明の人物だった。
「こんにちは……」
その声に密猟団はひやっとした。
一聴、女の声にも聞こえるが、やはり男にも聞こえる。
中性的といえばいいだろうか。どこか超然とした雰囲気に密猟団は誰も動かない。
王宮の精霊厩舎を狙いに来た彼らは勿論お忍びだ。
今すぐにでも、目の前の正体不明の人間を殺すべきなのだが、1歩を踏み出す者すらいない。
黙っているうちに、黒ローブを帯びた者から近づいてくる。
フードを目深に被り、目も鼻も見えない。かろうじて顎と口元が見えるだけ。
何より寒気がするほど、青白い肌をしていた。
「お、お前、何者だ?」
「あらあら……。わたくし、あやしい者に見えませんか?」
「ふ、ふざけているのかよ?」
「ふざけてなんかいませんよ。本当のことを言っただけです」
黒ローブは口元に手を当て、コロコロと笑う。
バターのように濃厚な恐怖を振りまいた後、黒ローブは言った。
「ひい、ふう、みぃ……。なかなか手勢ですが、王宮に侵入するには少々戦力が足りませんね」
「はっ? 余計なお世話だ!」
「わたくしが少しばかりお貸しいたしましょう……」
「お貸しって……」
何を? 尋ねた時、突然土が盛り上がる。
密猟団たちは目を見張る。すると、飛び出してきたのは人の手だった。
土のから人の手。さらに言えば、肉も何もない。
白骨化した人の手だった。
ここに来るまで極力足音を立てず、森の中を移動していた密猟団の間から悲鳴が漏れる。
恐怖に震える密猟団を余所に、所謂スケルトンと呼ばれる悪霊たちは盾を握り、武器を構えると、鍛え上げられた軍隊のように整然と並び立った。
「な、なんだこりゃ?」
「おや。お気に召しませんか? 所謂、地獄から這い上がってきた亡者ですよ。とても強いんですよ。何せ地獄で鍛えているのですから」
「お前、何を冗談……」
「さっきも言いましたよね。わたくしは先ほどから真剣だと……」
頭目が気付いた時には、自分の頭に剣が刺さっていた。
あっ……、と声を上げたが、それは小さな生の瞬間だけでしかない。
密猟団たちが騒ぎ出す。
しかし、驚くべきはここからだった。
どう考えても即死したと思っていた頭目から声が聞こえたからだ。
『いきなり殺すなよ。人間たちが驚いているだろう』
暗く、そして威厳のある声。
明らかに頭目の声なのに、その纏っている空気はまるで違う。
すると、黒ローブは薄く笑う。
フードを脱ぐと、左目を漆黒の髪で隠した女の姿が現れた。
闇夜にぼうと光るような魅力に、密猟団員たちの一部ではぼんやりとする者もいる。
絶世といっても遜色のない微笑みを浮かべると、嬉しそうに持っていた剣を引き抜いた。
不気味な音を立てて、頭目の傷口は治っていく。
瞬間的な再生能力は、聖女の力を使ったミレニア以上だった。
「ごめんなさい……。1度やってみたかったのよ」
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『私が作ったのは、肉体と魂だけだ。性格については私の領分ではない』
「そんなことより、どういたしますか? ビックリしてますよ、彼ら」
女は逃げもせずただ呆然としている密猟団たちの方を見つめた。
うっとりとした微笑みを忘れてはいない。
しかし、次に出てきた言葉は非常に冷酷であった。
『殺せ……。彼らはここまでだ』
瞬間、スケルトンたちが動く。
一斉に密猟団に襲いかかった。
悲鳴を上げたが、森の闇がそれらを吸い尽くす。
気付いた時には、スケルトンに加えてアンデッドまで増えていた。
「お友達が増えて良かったわね」
女は目を細める。
一方、頭目の方は以前険しい身体をしていた。
『聖女はどこだ?』
「慌てな~い。慌てな~い。聖女の出番はもっと後よ。今はお仕事が先でしょ」
しかし、頭目だった男は耳を傾けない。
手を掲げると、そこから黒い塊のようなものがうねうねと出てくる。
それは異形の獣が現れた。
『いけ!』
指示を出すと、獣は闇の中に消える。
「そんなことをしなくてもいいのに」
『あれに食われるぐらいなら、聖女もたかがしれる』
「かもね」
軽く返すと、女と男はスケルトンを伴い、精霊厩舎の方へと向かうのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
仇役だけになってしまったので、
あと、もう1回頑張って更新します!
お休みやすし。
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