聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

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第三章

第39話

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「ゼクレア師団長!」

 声を上げると、ゼクレア師団長の三白眼が魔物から私へと向けられる。
 夜だからだろうか。あるいは魔物を倒した後でまだ殺気立っているのか。
 睨まれると、私は反射的に後ろに下がってしまった。

「またお前か、ミレニア」

「むかっ! またお前ってどういう意味ですか!?」

 私をトラブルメーカーみたいに言わないでほしいんですけど。

「答えるまでもない。胸に手を当てて考えてみろ」

 は・ら・た・つ・~。

 信じられない! 別に私はここでマレーラと肝試しを楽しんでいただけで、アームレオンと遭遇したのは、全くの偶然なのに。

(偶然??)

 あれ? アームレオンをはね除けるだけで精一杯だったから忘れていたけど、どうしてAランクの魔物がこんな王宮の近くの森にいるのかしら?

 とてもじゃないけど、マレーラたちが使役していたとは思えない。
 いくら魔力増幅器が使われていたとしても、相当な魔獣使いでなければ、アームレオンなんて扱えないはず。勇者クラスとはいかなくとも、師団長クラスの実力が必要だろう。

 まさかゼクレア師団長が……。いや、それはないか。

「詳しい事は明日聞く。お前たちひよっこは官舎に戻れ、今すぐにだ」

「ゼクレア教官、何が起こっているんですか?」

「…………」

「私たちはひよっこと言っても、軍人です。状況を伝え聞く権利ぐらいはあるんじゃないですか? それに私たちはすでに巻き込まれた側です。何か情報共有できることがあるかと思いますが」

「まったく……。お前は――――」

 ゼクレア師団長は1つ息を吐くと、私たちの方に向き直った。

「……王都内に密猟団と思われる一味の目撃情報があった」

「密猟団?」

「ああ……。精霊を生業とするな」

「精霊! じゃあ、密猟団の目的って……」

「おそらく精霊厩舎の中にいる精霊だろう」

「そんな……!!」

 息を呑んだのは、カーサだった。顔がみるみる真っ青になっていく。
 私には彼女が何を考えているかわかる。
 きっと今、あの片羽根のピクシーのことを考えているのだろう。

 密猟団に攫われれば、カーサは一生使い魔を選ぶことができないかもしれない。

「私、精霊厩舎へ行きます」

「落ち着け、ミレニア」

 ゼクレア師団長は私の腕を取る。

「何故ですか、師団長? 密猟団の考えは明白です。こちらで騒ぎを起こし、私たちの目を森の方に向ける。その間に精霊厩舎を強襲するという手はずなのでは?」

 進言すると、ゼクレア師団長は「ほう」と声を上げた。

 私は元聖女だけど、聖女だからって戦いに疎い訳じゃない。
 狡猾な魔族と戦いによって、戦術眼も磨かれてきた。
 これぐらいの陽動作戦、見抜くぐらい訳ないのだ。

「さすがは首席か。お前の言う通りだ。あいつらの狙いは陽動だ」

「なら、ゼクレア師団長がここにいるのはまずいのではないですか? 今すぐ精霊厩舎に行って、守りを固めるべきかと……」

「ひよっこ程度が考える戦況を、俺たち師団長が考えないと本気で思っているのか?」

 ゼクレア師団長の三白眼が、私の身体を捉える。
 ぞくっとするぐらい冷たい瞳。これが私の上司かと思うと、ごくりと息を呑んでしまった。

「お前が案じることはない。すでに精霊厩舎はお前たちの先輩と、第二師団が固めている」

「第二師団……。アーベル師団長が」

「ああ。それだけ固めていれば、密猟団も近づけまい。逆にこちらが罠にかけて、あいつらを捕まえてやるつもりだ」

 ゼクレア師団長は自信満々に宣言する。
 その頼もしい宣言を聞いて、マレーラたちは「さすが、師団長だ」と嬉々とした声を上げた。
 カーサも嬉しそうだ。ホッと胸を撫で下ろす。

『それはちょっと楽観的過ぎないかな?』

 空気が緩む中、また謎の声が聞こえた。

(またあの声!? ちょっと! 本当にあなた、一体何者?)

『君も薄々気づいているんだろ?』

『それよりもミレニア、ちょっと大変なことになってるかもしれないよ』

 私の名前まで……。本当にこの声は一体……。

(大変なこと?)

『考えもみなよ。密猟団は王都に潜入してくるまで、国の魔術師に探知させなかった相手だよ。今日を選んだのも、新人の親睦会があって、宿舎の門限がないことを知っていたからだろう。つまり、相手はとても慎重な人間だってことさ』

(ふむふむ。それで……)

『そんな密猟団が、こんなありきたりな陽動をすると思うかい? 王都に入るのはともかくとしても、王宮に入れば屈強な騎士団や近衛、さらに魔術師師団がいるんだよ』

「たしかに……」

 私は反射的に頷く。
 不信に思ったゼクレア師団長が目を細めた。

「ミレニア、お前……、誰と話してる。それにお前、顔色が悪いぞ」

 問いかけられるも、私は謎の声に耳を傾け続けた。
 話を聞き、次第に私にも声が言いたいことが少しずつ掴めてきたからだ。

(じゃあ、密猟団の目的は何?)

『この場合、密猟団っていう認識を改めた方がいいかもしれない。つまり、彼らの目的が精霊厩舎以外にあると考えれば、割とすんなり答えは出てくるんじゃない』

「彼らの目的……」

 私はハッとなって顔を上げた。
 闇夜に同化するように佇んでいたのは、尖塔だ。
 ローデシア王国が誇る5つの尖塔。
 それが星の空に手を伸ばすようにして、静かに佇んでいた。

「まさか――――」

 直後、爆音が聞こえた。
 同時に赤い火の手が見え、爆煙が夜の帳に墨でも塗るように点に上っていく。

「密猟団か?」
「いや」
「おかしいぞ。あっちは精霊厩舎じゃない!」

 マレーラは叫ぶと、カーサは身を竦める。

 驚いていたのはゼクレア師団長も一緒だ。

「なっ! あっちは騎士団の官舎がある方だぞ。まさか――――」

 珍しく息を呑む横で、私は謎の声を聞く。

『精霊厩舎も、アームレオンを解き放ったのも、そして今の爆発もおそらく陽動だ。多分、彼らの目的は最初から1つ……』

 私はその声を聞き終わる前に、ゼクレア師団長に振り返っていた。

「師団長!! 相手の目的は国王です!!」

 宣言するのだった。
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