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第四章
第54話
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それはとてもとても小さな声だった
集中して聞かなければ、単なる風鳴りだけで聞き逃してしまう。
風前に灯る蝋燭のようなか弱く、今にも消え去りそうな声だった。
声というのは、あまりにも弱々しい。
きっと誰の耳にも聞こえていない。
そう。私以外には……。
私には覚えがあった。
カーサとピクシーが最初に見つめあっていた時。
確かにあの時、2人の声が聞こえたのだ。
それはきっと心の声。
2人の本心。
だからというわけじゃないけど、私は2人の恋のキューピッドになることを決めた。
2人の心の声に気づけたのは、神様からもらったチートのおかげだろう。
人の言葉や文字だけじゃない。
どうやらチートは、人の心の声にまで及んでいるらしい。
でも、何でも聞こえるわけじゃない。
多分、私が人の心に触れたいと思った時だけ発動する限定的なチートなのだろう。
思えばムルンの時も、アーベルさんを助けた時もそうだった。
2人のうちなる声が聞こえ、そしてその心に触れることによって彼らを解放することができたのだと思う。
きっと今、ムルンとアーベルさんの時と同様のことが起こっているのだ。
「厄災竜が助けを呼んでいるですって! そんなことがあり得るはずがないでしょ、ミレニア。……いや、聖女様? ああ! もう!! 調子狂うわね! とっとと元の馬鹿ミレニアに戻りなさいよ!」
赤毛を振り乱し、ヴェルが顔を真っ赤にして怒っていた。
怒っているけど、今の私にはわかる。
ヴェルは怒っているんじゃない。
私が何者かに乗っ取られたことを心配してるのだ。
「ありがとう、ヴェル」
私は薄く微笑むと、ヴェルはさらに顔を真っ赤にした。
「ですが、本当のことです。ここにいる厄災竜こそ私が助けるべき相手なのです。そうですね……」
私は目を細めた。
ドンッと轟音が響く。
擬態の巨竜はついそこまで迫っていた。
足を止めると、長い首を持ち上げ、威嚇するように大きな翼を広げる。
『やめろ! 我は厄災竜! 世界に幕を引く邪竜! 助けなど必要としない!!』
「いいえ。私には聞こえています。あなたの本心を……」
私はそっと球根形になった本体に触れる。
「おい、聖女!! 何をする気か知らないが、1つだけ約束しろ」
1000年前の聖女と名乗る私に向かって、ぶっきらぼうに言ったのは、ゼクレア師団長だった。
敬うということを知らないわけじゃない。
ただ彼もまた本心では、どうやら心配らしい。
「なんでしょうか?」
「ミレニアを五体満足に返せ。それは俺の部下だからな」
(し、師団長……)
うっ! 今、迂闊にもクラッと来てしまった。
〝俺の〟とか言われたら、例えゼクレア師団長でもドキッとするわ。
そもそも、この人の心って随分と私を心配してるみたいだし。
やっぱり邪険にされつつ、変に世話好きなのね、ゼクレア師団長。
アーベルさんに会ってほしいとか言ったりとか。
その優しさを普段から発揮できないものかしら。
「ご心配なく。あなたの大事な部下はちゃんとお返しします」
「べ、別に大事なんて……。……ただ、その、まだ1度もしごいていないのに、入団前にいなくなるのが勿体ないだけだ」
な、何よ。
訓練で日頃のうさでも晴らそうとしていたの。
前言撤回――やっぱり鬼だわ、この人。
「わかった。……あんたがその本体を助けている間に、俺たちはあの擬態が入ってこないように全力で防ぐ」
「……はい。お願いします」
ゼクレア師団長は全団に指示を出す。
本当によくわからない人だ。
後ろ姿を見ながら肩を竦めると、横でアーベルさんも笑っていた。
そして勇者も再び防衛戦に入ってきた厄災竜の擬態へと望む。
ヴェルやルース、マレーラたちも加わった。
「さあ、それじゃあ、聞かせてもらうわよ。あなたの心……」
本体に手を添え、私はそっと小さな声に耳を傾けた。
流れ込んできたのは、イメージだった。
それは遠い遠い昔の話だろう。
多分、ムルンが人に知恵を与えていたぐらいの時代の話だ。
厄災竜は、生まれた時から厄災の竜であった。
世界を滅ぼす呼び笛。終末の獣。
確かに厄災竜によって、世界が幾度も終わりを告げて、人類やその文明は滅んでいった。
人類はそんな厄災竜の存在を“悪”だと決めつけた。
邪竜と呼ぶものもいた。
でも、厄災竜にとって自分の存在理由こそが、世界の終わらせることであり、彼は淡々とその任務を遂行していった。
何度も、何度も世界を滅ぼし、何度も、何度も人類や生命の叫びを聞き、何度も、何度も“悪”だと決めつけた。
それが厄災竜が生まれた来た意味であるにも関わらず。
世界を滅ぼすこと以外、彼が知らないことを知らずに、ただ呪詛を吐き捨てるだけで、人類は滅んでいった。
何度も、何度も……。
何度も、何度も……。
そうやって繰り返すうちに、厄災竜もまた徐々に自分のやっていることに疑問をもつようになる。
何故、自分は世界を滅ぼすのか?
世界を滅ぼすことは“悪”なのか?
厄災竜は答えを出せない。
何故なら彼は世界を滅ぼすこと以外、知らないからだ。
疑問があっても、厄災竜は世界を滅ぼす。
葛藤があっても、厄災竜は人類を根絶やしにする。
自分ではどうにもできない。
それは小さな声となって、届けられた。
『助けて……。我を止めてくれ』
と――――。
何度も手を伸ばした。
でも、別の厄災竜は言う。
『それは必要ない。何故なら我らの使命は最初から決まっているからだと』
世界を滅ぼすこと。
そして、それから厄災竜は2つになった。
世界を滅ぼす厄災竜と、助けを求める厄災竜。
擬態は何重にも覆われた殻の中に本体を押し込み、その声を封じ込めた。
「あなたも苦労したのね、厄災竜。大丈夫。任せなさい! このミレニア・ル・アスカルドが助けてあげる」
それが、聖女の使命だからね!
集中して聞かなければ、単なる風鳴りだけで聞き逃してしまう。
風前に灯る蝋燭のようなか弱く、今にも消え去りそうな声だった。
声というのは、あまりにも弱々しい。
きっと誰の耳にも聞こえていない。
そう。私以外には……。
私には覚えがあった。
カーサとピクシーが最初に見つめあっていた時。
確かにあの時、2人の声が聞こえたのだ。
それはきっと心の声。
2人の本心。
だからというわけじゃないけど、私は2人の恋のキューピッドになることを決めた。
2人の心の声に気づけたのは、神様からもらったチートのおかげだろう。
人の言葉や文字だけじゃない。
どうやらチートは、人の心の声にまで及んでいるらしい。
でも、何でも聞こえるわけじゃない。
多分、私が人の心に触れたいと思った時だけ発動する限定的なチートなのだろう。
思えばムルンの時も、アーベルさんを助けた時もそうだった。
2人のうちなる声が聞こえ、そしてその心に触れることによって彼らを解放することができたのだと思う。
きっと今、ムルンとアーベルさんの時と同様のことが起こっているのだ。
「厄災竜が助けを呼んでいるですって! そんなことがあり得るはずがないでしょ、ミレニア。……いや、聖女様? ああ! もう!! 調子狂うわね! とっとと元の馬鹿ミレニアに戻りなさいよ!」
赤毛を振り乱し、ヴェルが顔を真っ赤にして怒っていた。
怒っているけど、今の私にはわかる。
ヴェルは怒っているんじゃない。
私が何者かに乗っ取られたことを心配してるのだ。
「ありがとう、ヴェル」
私は薄く微笑むと、ヴェルはさらに顔を真っ赤にした。
「ですが、本当のことです。ここにいる厄災竜こそ私が助けるべき相手なのです。そうですね……」
私は目を細めた。
ドンッと轟音が響く。
擬態の巨竜はついそこまで迫っていた。
足を止めると、長い首を持ち上げ、威嚇するように大きな翼を広げる。
『やめろ! 我は厄災竜! 世界に幕を引く邪竜! 助けなど必要としない!!』
「いいえ。私には聞こえています。あなたの本心を……」
私はそっと球根形になった本体に触れる。
「おい、聖女!! 何をする気か知らないが、1つだけ約束しろ」
1000年前の聖女と名乗る私に向かって、ぶっきらぼうに言ったのは、ゼクレア師団長だった。
敬うということを知らないわけじゃない。
ただ彼もまた本心では、どうやら心配らしい。
「なんでしょうか?」
「ミレニアを五体満足に返せ。それは俺の部下だからな」
(し、師団長……)
うっ! 今、迂闊にもクラッと来てしまった。
〝俺の〟とか言われたら、例えゼクレア師団長でもドキッとするわ。
そもそも、この人の心って随分と私を心配してるみたいだし。
やっぱり邪険にされつつ、変に世話好きなのね、ゼクレア師団長。
アーベルさんに会ってほしいとか言ったりとか。
その優しさを普段から発揮できないものかしら。
「ご心配なく。あなたの大事な部下はちゃんとお返しします」
「べ、別に大事なんて……。……ただ、その、まだ1度もしごいていないのに、入団前にいなくなるのが勿体ないだけだ」
な、何よ。
訓練で日頃のうさでも晴らそうとしていたの。
前言撤回――やっぱり鬼だわ、この人。
「わかった。……あんたがその本体を助けている間に、俺たちはあの擬態が入ってこないように全力で防ぐ」
「……はい。お願いします」
ゼクレア師団長は全団に指示を出す。
本当によくわからない人だ。
後ろ姿を見ながら肩を竦めると、横でアーベルさんも笑っていた。
そして勇者も再び防衛戦に入ってきた厄災竜の擬態へと望む。
ヴェルやルース、マレーラたちも加わった。
「さあ、それじゃあ、聞かせてもらうわよ。あなたの心……」
本体に手を添え、私はそっと小さな声に耳を傾けた。
流れ込んできたのは、イメージだった。
それは遠い遠い昔の話だろう。
多分、ムルンが人に知恵を与えていたぐらいの時代の話だ。
厄災竜は、生まれた時から厄災の竜であった。
世界を滅ぼす呼び笛。終末の獣。
確かに厄災竜によって、世界が幾度も終わりを告げて、人類やその文明は滅んでいった。
人類はそんな厄災竜の存在を“悪”だと決めつけた。
邪竜と呼ぶものもいた。
でも、厄災竜にとって自分の存在理由こそが、世界の終わらせることであり、彼は淡々とその任務を遂行していった。
何度も、何度も世界を滅ぼし、何度も、何度も人類や生命の叫びを聞き、何度も、何度も“悪”だと決めつけた。
それが厄災竜が生まれた来た意味であるにも関わらず。
世界を滅ぼすこと以外、彼が知らないことを知らずに、ただ呪詛を吐き捨てるだけで、人類は滅んでいった。
何度も、何度も……。
何度も、何度も……。
そうやって繰り返すうちに、厄災竜もまた徐々に自分のやっていることに疑問をもつようになる。
何故、自分は世界を滅ぼすのか?
世界を滅ぼすことは“悪”なのか?
厄災竜は答えを出せない。
何故なら彼は世界を滅ぼすこと以外、知らないからだ。
疑問があっても、厄災竜は世界を滅ぼす。
葛藤があっても、厄災竜は人類を根絶やしにする。
自分ではどうにもできない。
それは小さな声となって、届けられた。
『助けて……。我を止めてくれ』
と――――。
何度も手を伸ばした。
でも、別の厄災竜は言う。
『それは必要ない。何故なら我らの使命は最初から決まっているからだと』
世界を滅ぼすこと。
そして、それから厄災竜は2つになった。
世界を滅ぼす厄災竜と、助けを求める厄災竜。
擬態は何重にも覆われた殻の中に本体を押し込み、その声を封じ込めた。
「あなたも苦労したのね、厄災竜。大丈夫。任せなさい! このミレニア・ル・アスカルドが助けてあげる」
それが、聖女の使命だからね!
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