聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

文字の大きさ
74 / 74
第五章

幕間2 とある賢者の受難

しおりを挟む
お久しぶりです。
賢者との決着が着いてなかったので、書きました!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


(幕間 とある賢者の受難の続きです)

 ミレニアの家庭教師を引き受けた謎の賢者「先生」。
 当主ヤーゴフ曰く、天才という娘の鼻柱を折って欲しいと言われるが、逆に折られる始末。のっけから醜態をさらした「先生」は果たしてミレニアの家庭教師を続けられるのでしょうか?



 なんと言うことだ……!

 よもやミレニアが、あれ程の才ある若者だったとは。

 子どもだと思って油断してしまった。

 だが、私も在野に下ったとはいえ、【賢者】と言われた魔術師。

 かつては1万人以上の門弟を教え、魔術の深淵を探求した者。

 【賢者】カンダレフと讃えられ、多くの王や大公たちから我が知恵を欲した者。

 いくら100年、いや1000年に1度の天才だとしても、元教育者として黙っているわけにはいかん。

 しかし、我の権威は失墜しかけている。

 特にご当主の評価は日増しに下がっていっている。それは差し入れられる菓子と飲み物のレベルでわかる。

 最初は、高級茶葉を使った紅茶だったのに、出涸らしになり、ついに今日は水だけだった。

 いかん。このままでは【賢者】の沽券に関わる。

 だが、私は焦っていない。

 何故なら、今日は実践訓練の日だからだ。

 いくら魔術文字が読めたところで、実践において使えなければ意味がない。

 魔術は高い集中力と、体内での魔力の練り上げが必要になる。

 確かにミレニアの魔力には目を見張るところがあるが、果たしてその魔力を効率良く使うことができるかな。

「ミレニア、今日は実践だ」

「はい。よろしくお願いします」

「よい。返事だ。それではまずはお前の力量を知りたい。早速だが、我と戦え」

「先生と戦うんですか?」

 ミレニアは目が泳ぐ。

 そうであろう。貴族の子女が戦うなんてことは、これまでしてこなかったはずだ。

 喧嘩すらまともにやったことがないだろう。

 だが、これはミレニアの高くなった鼻を折るために致し方ないこと。

 我はこの戦いに勝って、ミレニアとご当主を呼び正体を明かすつもりだ。

 【賢者】カンダレフといえば、ミレニアもご当主も目の色を変えるだろう。

 そして上には上がいることを諭し、我は高級紅茶を出してもらえるほどの信頼を勝ち取るのだ。

「怖じ気づいたか? それともこの老いぼれに魔術を向けるのは、気が引けるか? 舐めるなよ、ミレニア。すでに一線からは遠ざかっていても、我はかつて【賢者】呼ばれた魔術師……」

「え? 先生って、【賢者】って呼ばれていたんですか??」

「あ? いやいやいやいやいや……。いいいいい、い、今のはなし! じょ、冗談じゃよ」

 し、しまったぁぁぁぁああああ!!

 つい口が勝手に動いてしまった。

 ミレニアを負かした後で、格好良く名乗り出るところだったのにぃ!!

 不覚! なんたる不覚!!

 笑って誤魔化したが、多分バレたのではないか?

「あははは……。そうですよね。王国の生き字引といわれる稀代の魔術師にして【賢者】の称号を持つカンダレフ様のわけないですよね。あははははは!」

 ミレニアは朗らかに笑う。

 くぅ! 誤魔化し大成功だけど、なんか腑に落ちん!

 ま、まあ良い。実践訓練でミレニアを負かせば、万事問題ない。

 悪いがミレニア! 最初から全開でいかせてもらうぞ。

「常夜のすべて亘る者よ。牙を研ぎ、爪を光らせ、雷天に狂え。我はそなたに傅く者……。我はそなたの使命を代行する者なり。神すら呷る其は力。我が前に顕現し、ヤードラーの海を穿て!!」


 【虎神雷牙陣サンダー・ライガー】!!


 600年前、ナーガ記における魔術文字の中でも、もっとも上級の雷属性魔術――。

 魔王の腕すら穿つと言われた、雷属性魔法威力をとくと見るがいい!!

 カンッ!

「はあ?」

 我の渾身の魔術は、ミレニアが展開した防御魔術であっさり弾かれてしまった。

 我は顎が外れるぐらいショックを受ける。

 対するミレニアは、そんな我の顔を見て、苦笑を浮かべた。

「さすが、先生ですね。では、次は私の方から――――」

「炎冠に座す魔神よ――――」

 な、何じゃ。【魔炎灼弾ブラストフレア】ではないか。

 確かになかなかの魔術じゃが、この程度なら我でもなんとかなろう。

 どうやら実践を想定して、使いやすい魔術文字を選んだと見える。

 判断としては正しいが、その程度では我を防御魔法を抜くことは――――。

「――――って! ちょっと待て!!」

 ミレニアの手に握られていたのは、巨大な火塊。

 小さなアルカルド子爵家の屋敷ながら、すっぽりと覆うほどの大きさだった。

「なんじゃこれは! 嘘じゃろ! これが――――」

「悪鬼、人ならざるものを討ち払え……」


 【魔炎灼弾ブラストフレア】!!


 ジュドォォォォォォォオオオオオオンンンンンンン!!

 その後、命からがら生き延びた我は、名を名乗ることもなく、自ら家庭教師を辞退することを告げて、再び野に下った。

 我が1つミレニアに言うことがあるとすれば、そなたに教えられるものなどいないということだ。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

新作『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』を投稿しております。
元錬金術師の主人公が、おいしい時短調理器具を作って、隣国の王子にご飯を作ってもらうお話となります。
是非こちらもご賞味下さい。
しおりを挟む
感想 35

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(35件)

2023.01.06 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
まほ
2022.06.17 まほ

今日偶然見つけて読了致しました。
非常に私好みで(何様目線だよと思われるかもしれませんが…)読み進めるのが楽しかったです。

ただ一つ気になったのが、紹介文にある魔王(黒猫)と、隣国の王子(既に登場していて正体をまだ明かしてないのか、これから出てくるのか)の存在というところが本編で触れられていなかったと思われるので、本編完結ということでしたらその文章のみ削除された方がいいかもしれません。
今後続編の可能性があれば申し訳ありません。
余計なお世話かもしれませんが、一応報告させて頂きました。

何はともあれ、素敵な作品に出会えたこと嬉しく思います。更新お疲れ様でした!

解除
とらきち
2022.05.12 とらきち

いつも楽しく読ませていただいてます!
恋愛要素を期待して読んでいたので、恋愛よりもファンタジー要素満載で終わってしまって少し残念です。
ただ、作品としてはとても面白く、続きが読みたいので、しれっと更新されることを期待してお気に入り登録しながら待ってます( ≧∀≦)ノ
完結お疲れ様でした!

解除

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。