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1章
プロローグ
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久しぶりに新作を投稿しました!
よろしくお願いします
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
血に濡れたような赤い雲の下、勇者と魔王が戦っていた。
白銀の鎧を纏った勇者は光のように空を疾駆し、魔王は黒衣と背中から生えた翼を羽ばたかせ、相手に迫る。
視界の中央に来た時、2人はぶつかり合い、激しい剣戟の音は衝撃波となって大地を揺るがした。
その光景は映画でもなければ、アニメでも、まして超高度なVRMMOでもない。
ひたすら現実なのだ。
ここ俺がかつていた日本という世界からかけ離れた異世界アナストリア。
そして俺が見ているのは、アナストリアの命運を賭けた一戦だった。
日本人の俺が何故、こんな戦いの場にいるのかというと、召喚されてきたのだ。
それも勇者側ではない。魔族側によってだ。
元々アナストリアは、魔族の世界だった。
だが、突如アナストリアの上位世界である神界の侵攻を受ける。
神は別世界から特異な力を持つ勇者を召喚し、どんどん魔族を追い詰めていった。
困った魔王は神と同じく、異世界から人材を召喚することにした。
それが俺――久方大地だ。
俺は単なるサラリーマンだったが、この世界に召喚される際、あるスキルを得る。
それを使い、俺は魔王軍を育成し、強くしていった。
やがて俺はいつしか魔族からこう呼ばれるようになる。
裏ボス、と――――。
そして俺が育てた魔王が、今ついに異世界から召喚された勇者と対峙しているというわけである。
「頑張れぇぇぇぇええええ! エヴノス!!」
俺は魔王の名前を呼んでエールを送る。
人事は尽くした。
もはや俺が育てたエヴノスを信じるしかない。
拳を握りしめ、勝利を祈る。
だが、意外にも決着は早かった。
「喰らえ! 邪竜の一撃!!」
エヴノスの手の爪が、大きく伸びる。
鋭く赤い空の下で閃くと、勇者に向かっていった。
勇者もまた剣を掲げ、空を駆る。
お互い最後の一撃を放った瞬間、鈍い音が鳴り響いた。
勇者の剣が真っ二つに折れて、俺の側に突き刺さる。
さらに、鎧を抉り、勇者の肉体に到達すると、深い掻き傷から血煙が舞った。
決まった。
俺は確信する。
勇者の意識はふっと消え、そのまま落下を始めた。
地面に叩きつけられるかと思ったが、勇者が没したのは魔王城の裏手に広がる海だ。
白い鎧を朱に染め、白波の中に勇者は消えた。
この辺りの海には、巨大な魔魚が存在する。
たとえ生きていたとしても、その魔魚から逃れる術はない。
「勝った…………」
反射的に俺は拳を突き上げていた。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
同時に周囲から歓声が上がる。
俺と同じく、この一戦を見守っていた魔族たちもまた声を上げた。
空から降りてきた魔王エヴノスに、一斉に駆け寄っていく。
時を同じくして、別の方向からも歓声が上がった。
「見ろ!」
「おお!! この一戦を観戦していた神々が……」
「撤退していくぞ」
「オレ様たちの完全勝利だ!!」
黒狼族が吠声を上げ、蜥蜴族が足を踏み鳴らす。
スケルトンが骨を鳴らし、巨人族たちが胸を叩いて喜びを露わにした。
それは長かった魔族と神々の戦いの終焉を表す光景だった。
「やった……」
俺は勝利を噛みしめる。
今まで気を張っていたのだろう。
ふと腰砕けになり、膝を突く。
それでも俺は何度もガッツポーズを取った。
「やりましたね、ダイチ様」
声をかけてくれたのは、エヴノスの側付きのアリュシュアだ。
メイド服が似合うサキュバス族のアリュシュアは、妖艶ではなく楚々と笑っていた。
大地というイントネーションがいまだに慣れないらしい。
ちょっとだけ訛っているのだが、それは魔族全員に言えることだった。
「ああ……。さすがお前のご主人様だよ」
「はい。さすがは魔王エヴノス様です」
「お前もだ、アリュシュア。お前がいなかったら、俺はこの世界では生きていけなかった。俺がこの世界で生き抜かなければ、この勝利はなかったよ。ありがとう、アリュシュア」
「そ、そんなことはありません」
アリュシュアの白い肌がポッと赤くなる。
サキュバス族は皆、セクシーで大胆な恰好をしていることが多いが、アリュシュアは別だ。奥ゆかしくて、気立てのいい女性だった。
何度彼女に助けられたかわからない。
「ダイチ……」
気が付くと、エヴノスが俺の前に立っていた。
異形の者たちに囲まれ、1人人間っぽい見た目をしたエヴノスは、もちろん目立つ存在だった。
彼は邪竜と吸血鬼の混血らしい。
おかげで、竜の姿にもなれるし、今のように吸血鬼になることもできるようだ。
すると、エヴノスは俺を前にして傅いた。
「――――いや、グランドブラッドよ。あなた様のおかげで、我は神との戦に勝利することができた。感謝しても仕切れない」
グランドブラッドというのは、俺の魔族名みたいなものだ。
正式には大魔王グランドブラッドというらしいが、知り合いはたいていダイチと呼ぶ。
「寄せよ、エヴノス。そんなことされる筋合いはない。勇者に勝てたのも、神界に勝てたのも、お前の真の実力が彼らより勝っていたからだ。お前の実力なんだよ」
「それでも、あなた様の力がなければ、勝てなかったことは事実だ。ありがとう、グランドブラッド」
「せめて、いつも通りダイチって呼んでくれよ」
俺は肩を竦めた。
「ダイチ、我は本気だ。本気であなた様に恩義を感じている。すでに褒賞を用意してあるんだ」
「ほ、褒賞?」
「受け取ってくれないだろうか?」
俺は1度は受け取りを拒否したが、エヴノスはどうしてもと譲らなかった。
結局、俺は断り切れず、有り難くもらうことにした。
「エヴノスがそこまで言うなら……」
「良かった。楽しみにしていてくれよ」
エヴノスはがっしりと俺の手を掴む。
さっきまで勇者と激闘を演じていたとは思えないぐらい快活な笑顔だった。
だが、その時俺は知らなかったのだ。
その笑顔の裏にあったエヴノスの思惑を……。
◆◇◆◇◆
神々との戦いが終焉した3日後。
俺の姿は洋上にあった。
巨大な海竜の背に乗り、東へと向かっている。
エヴノスが用意していた褒賞というのは、マナストリアの大陸の1つらしい。
なんとエヴノスは俺に、丸ごと大陸の支配権を与えたのだ。
太っ腹というか。
器がでかいというか。
世界の半分というわけではないが、大昔のRPGの有名な問いかけを思い出してしまった。
大陸か……。
さて何をしようかな。
だが、まずはゆっくり休みたいな。
マナストリアに来て、いきなり戦い続きだったからな。
息を吐く暇もなかった。
今はゆっくりと身体を休めたい。
それから考えるのも悪くないだろう。
日本人の俺に、かつての世界に戻るという選択肢はなかった。
エヴノスに頼めば、戻ることも可能だといわれたが、俺は選択しなかった。
日本には苦い思い出があるからだ。
考えごとをしていると、海竜の動きが止まった。
海竜を操る船頭の魚人族が到着したことを告げる。
そこは切り立った崖だった。
俺は崖に出来た階段を上り、ついに大陸の姿を目にする。
「なんだよ……。これ…………」
半分リゾート気分だった俺はショックを受ける。
椰子が繁り、綺麗な蒼い海が広がる――そんなゆったりとした空気は皆無だ。
広がっていたのは、荒涼とした大地だった。
ぺんぺん草すら生えていない。
いや、それどころか生物の気配もなかった。
空を望めば分厚い雲が、マナストリアの陽の光を遮っている。
まだ昼間だというのに、宵闇のように暗かった。
「おい! どうなって――――」
振り返る。
だが、ここまで先導してくれた魚人族の姿はない。
見えたのは、海竜が西に向かって泳いでいく姿だけだった。
「嘘だろ……」
遠ざかっていく海竜の姿を見ながら、俺は膝を突いた。
夢じゃないかと思い、再び振り返ったが、広がっていたのは、あくまで暗黒に染まった大陸だった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
本日は3話投稿予定です。
よろしくお願いします
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
血に濡れたような赤い雲の下、勇者と魔王が戦っていた。
白銀の鎧を纏った勇者は光のように空を疾駆し、魔王は黒衣と背中から生えた翼を羽ばたかせ、相手に迫る。
視界の中央に来た時、2人はぶつかり合い、激しい剣戟の音は衝撃波となって大地を揺るがした。
その光景は映画でもなければ、アニメでも、まして超高度なVRMMOでもない。
ひたすら現実なのだ。
ここ俺がかつていた日本という世界からかけ離れた異世界アナストリア。
そして俺が見ているのは、アナストリアの命運を賭けた一戦だった。
日本人の俺が何故、こんな戦いの場にいるのかというと、召喚されてきたのだ。
それも勇者側ではない。魔族側によってだ。
元々アナストリアは、魔族の世界だった。
だが、突如アナストリアの上位世界である神界の侵攻を受ける。
神は別世界から特異な力を持つ勇者を召喚し、どんどん魔族を追い詰めていった。
困った魔王は神と同じく、異世界から人材を召喚することにした。
それが俺――久方大地だ。
俺は単なるサラリーマンだったが、この世界に召喚される際、あるスキルを得る。
それを使い、俺は魔王軍を育成し、強くしていった。
やがて俺はいつしか魔族からこう呼ばれるようになる。
裏ボス、と――――。
そして俺が育てた魔王が、今ついに異世界から召喚された勇者と対峙しているというわけである。
「頑張れぇぇぇぇええええ! エヴノス!!」
俺は魔王の名前を呼んでエールを送る。
人事は尽くした。
もはや俺が育てたエヴノスを信じるしかない。
拳を握りしめ、勝利を祈る。
だが、意外にも決着は早かった。
「喰らえ! 邪竜の一撃!!」
エヴノスの手の爪が、大きく伸びる。
鋭く赤い空の下で閃くと、勇者に向かっていった。
勇者もまた剣を掲げ、空を駆る。
お互い最後の一撃を放った瞬間、鈍い音が鳴り響いた。
勇者の剣が真っ二つに折れて、俺の側に突き刺さる。
さらに、鎧を抉り、勇者の肉体に到達すると、深い掻き傷から血煙が舞った。
決まった。
俺は確信する。
勇者の意識はふっと消え、そのまま落下を始めた。
地面に叩きつけられるかと思ったが、勇者が没したのは魔王城の裏手に広がる海だ。
白い鎧を朱に染め、白波の中に勇者は消えた。
この辺りの海には、巨大な魔魚が存在する。
たとえ生きていたとしても、その魔魚から逃れる術はない。
「勝った…………」
反射的に俺は拳を突き上げていた。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
同時に周囲から歓声が上がる。
俺と同じく、この一戦を見守っていた魔族たちもまた声を上げた。
空から降りてきた魔王エヴノスに、一斉に駆け寄っていく。
時を同じくして、別の方向からも歓声が上がった。
「見ろ!」
「おお!! この一戦を観戦していた神々が……」
「撤退していくぞ」
「オレ様たちの完全勝利だ!!」
黒狼族が吠声を上げ、蜥蜴族が足を踏み鳴らす。
スケルトンが骨を鳴らし、巨人族たちが胸を叩いて喜びを露わにした。
それは長かった魔族と神々の戦いの終焉を表す光景だった。
「やった……」
俺は勝利を噛みしめる。
今まで気を張っていたのだろう。
ふと腰砕けになり、膝を突く。
それでも俺は何度もガッツポーズを取った。
「やりましたね、ダイチ様」
声をかけてくれたのは、エヴノスの側付きのアリュシュアだ。
メイド服が似合うサキュバス族のアリュシュアは、妖艶ではなく楚々と笑っていた。
大地というイントネーションがいまだに慣れないらしい。
ちょっとだけ訛っているのだが、それは魔族全員に言えることだった。
「ああ……。さすがお前のご主人様だよ」
「はい。さすがは魔王エヴノス様です」
「お前もだ、アリュシュア。お前がいなかったら、俺はこの世界では生きていけなかった。俺がこの世界で生き抜かなければ、この勝利はなかったよ。ありがとう、アリュシュア」
「そ、そんなことはありません」
アリュシュアの白い肌がポッと赤くなる。
サキュバス族は皆、セクシーで大胆な恰好をしていることが多いが、アリュシュアは別だ。奥ゆかしくて、気立てのいい女性だった。
何度彼女に助けられたかわからない。
「ダイチ……」
気が付くと、エヴノスが俺の前に立っていた。
異形の者たちに囲まれ、1人人間っぽい見た目をしたエヴノスは、もちろん目立つ存在だった。
彼は邪竜と吸血鬼の混血らしい。
おかげで、竜の姿にもなれるし、今のように吸血鬼になることもできるようだ。
すると、エヴノスは俺を前にして傅いた。
「――――いや、グランドブラッドよ。あなた様のおかげで、我は神との戦に勝利することができた。感謝しても仕切れない」
グランドブラッドというのは、俺の魔族名みたいなものだ。
正式には大魔王グランドブラッドというらしいが、知り合いはたいていダイチと呼ぶ。
「寄せよ、エヴノス。そんなことされる筋合いはない。勇者に勝てたのも、神界に勝てたのも、お前の真の実力が彼らより勝っていたからだ。お前の実力なんだよ」
「それでも、あなた様の力がなければ、勝てなかったことは事実だ。ありがとう、グランドブラッド」
「せめて、いつも通りダイチって呼んでくれよ」
俺は肩を竦めた。
「ダイチ、我は本気だ。本気であなた様に恩義を感じている。すでに褒賞を用意してあるんだ」
「ほ、褒賞?」
「受け取ってくれないだろうか?」
俺は1度は受け取りを拒否したが、エヴノスはどうしてもと譲らなかった。
結局、俺は断り切れず、有り難くもらうことにした。
「エヴノスがそこまで言うなら……」
「良かった。楽しみにしていてくれよ」
エヴノスはがっしりと俺の手を掴む。
さっきまで勇者と激闘を演じていたとは思えないぐらい快活な笑顔だった。
だが、その時俺は知らなかったのだ。
その笑顔の裏にあったエヴノスの思惑を……。
◆◇◆◇◆
神々との戦いが終焉した3日後。
俺の姿は洋上にあった。
巨大な海竜の背に乗り、東へと向かっている。
エヴノスが用意していた褒賞というのは、マナストリアの大陸の1つらしい。
なんとエヴノスは俺に、丸ごと大陸の支配権を与えたのだ。
太っ腹というか。
器がでかいというか。
世界の半分というわけではないが、大昔のRPGの有名な問いかけを思い出してしまった。
大陸か……。
さて何をしようかな。
だが、まずはゆっくり休みたいな。
マナストリアに来て、いきなり戦い続きだったからな。
息を吐く暇もなかった。
今はゆっくりと身体を休めたい。
それから考えるのも悪くないだろう。
日本人の俺に、かつての世界に戻るという選択肢はなかった。
エヴノスに頼めば、戻ることも可能だといわれたが、俺は選択しなかった。
日本には苦い思い出があるからだ。
考えごとをしていると、海竜の動きが止まった。
海竜を操る船頭の魚人族が到着したことを告げる。
そこは切り立った崖だった。
俺は崖に出来た階段を上り、ついに大陸の姿を目にする。
「なんだよ……。これ…………」
半分リゾート気分だった俺はショックを受ける。
椰子が繁り、綺麗な蒼い海が広がる――そんなゆったりとした空気は皆無だ。
広がっていたのは、荒涼とした大地だった。
ぺんぺん草すら生えていない。
いや、それどころか生物の気配もなかった。
空を望めば分厚い雲が、マナストリアの陽の光を遮っている。
まだ昼間だというのに、宵闇のように暗かった。
「おい! どうなって――――」
振り返る。
だが、ここまで先導してくれた魚人族の姿はない。
見えたのは、海竜が西に向かって泳いでいく姿だけだった。
「嘘だろ……」
遠ざかっていく海竜の姿を見ながら、俺は膝を突いた。
夢じゃないかと思い、再び振り返ったが、広がっていたのは、あくまで暗黒に染まった大陸だった。
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本日は3話投稿予定です。
応援ありがとうございます!
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