隣に住む学校一の美少女にオレの胃袋が掴まれている件(なおオレは彼女のハートを掴んでいる模様)

延野 正行

文字の大きさ
6 / 37

3.5限目 どうやら俺の胃袋は……(後編)

しおりを挟む
「私の話を聞いてくれませんか?」

 そう切り出した白宮は、こんこんと話を始めた。
 白宮はとある事情で親元を離れ、1人暮らしを始めることにした。
 ちなみに白宮家は、代々著名な料理人を輩出する名家なのだという。
 とある事情とやらも、それが関係していると俺は考えたが、それ以上立ち入ったことは聞かなかった。

 家ではお嬢さまと呼ばれるほど、何不自由ない暮らしをしていたそうなのだが、白宮は思いの外すぐに1人暮らしに順応した。

 初めての1人暮らしは、順風満帆かと思われたのだが……。

「お恥ずかしい話なのですが……。意外と自分が寂しがり屋なんだと気付きまして」

「でも、お前。学校にはいっぱい友達がいるだろう。部屋に連れてくればいいじゃないか」

「学校のみなさんは、みんな私が大きなお屋敷に住んでいると思っているようでして。誘っても、気後れするのでなかなか……。それに、生徒のみなさんの夢を壊すのもちょっと――」

「俺ならいいのかよ」

「玄蕃先生はお隣さんじゃないですか」

「今日まで知らなかったけどな」

 俺は肩を竦めた。

「話ってのは、それだけか?」

「いえ。ここからが本題です」

 すると、白宮は自分のお腹を押さえた。

「実は寂しさからか、ここのところずっと食欲がなくて」

「そうは見えなかったけどな」

 白宮の前にある空になった皿を、俺は見つめた。

「おかげで、2ヶ月で10キロも体重が落ちてしまって」

「10キロ!!」

 俺は反射的に身を乗り出していた。

 いや、それはまずい。
 医者に言った方が良いレベルだ。

「あまりこういうことは言いたくないけどな。教師として言わせてもらうと、白宮――お前、実家に帰った方がいいぞ」

「…………それは、イヤです」

 白宮は目を背けた。
 ここまで明確に言葉にも表情にも、嫌悪感をむき出しにした白宮を、俺は初めて見た。
 よほどの事があったのだろう。
 ふと児相のことが頭によぎったが、まだ事を荒立てる段階にないと判断した。
 未成年がアパートを借りているのだ。
 少なくとも保護者は、白宮がここで暮らしていることは、把握しているはずである。

 俺は一旦気持ちを落ち着けようと、椅子に座り直した。

「わかった。で? 俺に話を聞いてほしいというからには、何か俺にしてほしいことがあるんだろ?」

「はい。どうやら、私。人が一緒だと、ご飯が食べられるみたいです」

「そのようだな」

 俺はもう1度、白宮の前の空皿に視線を向けた。

「だから、先生――」


 毎晩、うちでご飯を食べに来てくれませんか?


 白宮は花が咲いたように笑顔で言い放った。
 一方、俺は石像のように固まる。

「ま、毎晩……」

「はい。毎晩です。悪くないと思いますが」

「いや、だって俺とお前は」

「教師と教え子ですよね」

「嬉しそうにいうなよ。わかってるなら――」

「でもお隣さん同士です。お隣同士、助け合って生きていきませんか?」

「助け合うって」

「失礼ですが、玄蕃先生は食生活で困っていたりしませんか?」

「うっ――」

「毎晩、コンビニ弁当とか。ウィンダーをキメるだけの食生活になってませんか?」

「高校生が“キメる”とかいうなよ……」

「玄蕃先生は私に栄養満点のご飯を作ってもらう。私は玄蕃先生と一緒にご飯を食べる。これって立派な共生関係だと思いますが、いかがでしょうか?」

 白宮は畳みかけてくる。
 情けないことに、俺はJKにやられっぱなしだ。
 ぐうの音も出ない。
 口では否定しても、心の奥底ではその共生生活を望んでいる自分がいる。

 そもそも眼に焼き付いて離れないのだ。

 テーブルに並んだ白宮の料理が……。

「玄蕃先生?」

 気がつけば、白宮の顔が目の前にあった。
 大きな黒目には、戸惑いの表情を浮かべた俺が、ばっちり映り込んでいる。
 鼻先に香る匂いは、酸っぱいコールスローの匂いではない。
 フローラルなシャンプーの香りだった。

 甘ったるい匂いに、俺の理性は陥落寸前だ。
 それでも俺は――。

 ぐぅぅ……。

 腹の音が鳴った。
 むろん俺は驚いたわけだが、たぶんそれは俺の正直な気持ちだったのだろう。

 その音を聞いた白宮は頬杖を突いた状態で、鬼の首でも取ったかのように微笑んでいた。
 「玄蕃先生のお腹は、随分食欲旺盛なのですね」と、柔からな曲線を描いた口元から聞こえてきそうだ。

「わかった」

 結局、俺は完落ちした。

「だが、勘違いするな。お前がこのまま鬱とか拒食症になって、不登校にでもなれば、後々面倒だと思っただけだ」

「ふーん」

「なんだよ」

「玄蕃先生って、意外とツンデレだったんですね」

「誰がツンデレだ! 23歳新米教師のツンデレなんて、どこに需要があるんだよ」

「さあ……。でも、意外と需要があるかもしれませんよ」

 白宮は目を細める。
 勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 それでも、俺は反論できない。
 一瞬振り上げそうになった手を、自分の腹に置く。
 ちょうど8分目に収まった俺の胃は、俺自身をいさめるようにぐるぐると動いていた。

 ――こいつめ!

 どうやら、俺の胃袋は教え子が作る料理に懐柔されたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...