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5限目 幸せ調味料
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「ふー」
私はパソコンのディスプレイから顔を上げた。
画面には、申請された部活の予算表が映っている。
上書き保存し、シャットダウンすると、固まった筋肉をほぐすように大きく伸びをした。
「終わった……」
気がつけば、夕方である。
私がいる生徒会室には誰もいない。
皆、帰ってしまったのだ。
校内は静まり返っていて、外から野球部の声と、遠くからは吹奏楽部の音が聞こえた。
そろそろ帰ろうと部屋の戸締まりをし、鍵を職員室に返却しに行く。
私はそのまま帰らず、人気のないトイレをわざわざ選び、個室の中に入った。
鞄の中からロングのウィッグと、眼鏡を取り出す。
それを装着すると、そのまま真っ直ぐ校門を出ていった。
自分が二色乃高校を騒がす美少女という噂が立っているのは知っている。
だから、そのままの恰好で出ると、たいがい誰かに声をかけられてしまう。
「一緒に帰ろう」などと誘われるのは、過去何度もあったので、下校時刻ギリギリまで校内に残り、変装をして帰ることにしていた。
私が二色ノ荘に住んでいることを、生徒に知られるわけにはいかない。
もっというなら、私と玄蕃先生が住んでいるアパートに近寄ってほしくない。
二色ノ荘は、私にとって聖域だから。
無事、二色乃高校を脱出した私は、そのまま駅近くの商店街に寄った。
今日の夕飯の食材選定である。
「さて、何をしようかしら」
昨日は魚だったし、今日はお肉かしら。
豚? 鶏? ここは奮発して、牛とか?
うーん。でも先生の健康とか考えるとね……。
あとお味噌汁の具材はどうしよう。
いや、汁物はスープ系にしようかしら。
そうなると、ステーキ?
いやいや、初日から頑張りすぎでしょ。
あんまり高いものだと、玄蕃先生の性格だったら、絶対遠慮するし。
「悩むわ」
私は息とともに言葉を吐き出す。
昨日まではこんなことはなかった。
けれど、今はすっごく悩む。
たぶん、鮮明に玄蕃先生の顔が浮かぶ。
食べてる時の顔が……。
――おいしそうに食べてたな。
耳たぶまで赤くして、子どもみたいに大きな口を開けて。
私は口元を押さえた手の中で、思い出し笑いを吐き出す。
今脳裏に浮かべても嬉しくなる。
小さい頃から親から料理の手ほどきを受けてきた。
私にとって料理は1品1品が試練だった。
だから、誰かのために作るのは、これが初めてだったのだ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。いつもありがとね」
精肉店の店主が、一緒に切り盛りしている奥さんと一緒に顔を出す。
肉が並んだガラスケースの前で固まっていると、私に声をかけてきた。
2ヶ月も通っているので、すっかり常連扱いだ。
「今日は豚バラが安いよ。オススメだよ、どうだい?」
「えっと……」
悩んでいると、横の奥さんも声をかけてきた。
「生姜焼きとかどうだい?」
「生姜焼き、か……」
ふと思い出す。
少し前ぐらいのことだ。
昼休みが終わる時間に学校の食堂に入ってきた玄蕃先生が、生姜焼き定食を頼んでいるを見たことがあった。
そこでふと私は耳にしたのである。
『俺、しっとり柔らかい生姜焼きの方が好きなんだよな』
やや厚めに切られた豚の生姜焼きを、少々恨めしそうに囓っていた。
「じゃあ、豚バラで」
「毎度。いくつ?」
「200…………あ、やっぱ300で」
「ありがとうございます」
早速、店主が肉を秤にかけ、横で奥さんが会計をはじめる。
見事な連携だった。
「ありがとよ、お嬢ちゃん。ところで、なんかいいことあったのかい?」
店の名前が入った袋の中に肉を入れると、店主が尋ねてきた。
「え? そうですか?」
「なんか嬉しそうだし」
「さっきも思い出し笑いしてたしね」
――わ。見られてたのか。ちょっと恥ずかしい。
「彼氏でもできた?」
「そ、そういうわけじゃないです。昨日小説のことを思い出しちゃって」
私は苦笑いを浮かべ、誤魔化すのやっとだ。
差し出された肉の袋を掴み、精肉店を後にした。
その後も、青果店を梯子して、二色ノ荘を目指して帰った。
途中、私と同じ袋を持った若い夫婦を見つめながら、私はつい思う。
――なんだか、新妻みたい……。
誰かのために料理をするため、材料を買って、家に戻る。
持っている材料の重さすら愛おしく感じてしまう。
とにかく、今は料理をしたくてたまらなかった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
料理を作り終え、テーブルの上で課題をしていた私は、隣のドアが開く音を聞いた。
二色ノ荘に来た当初、このドアの開く音が気味悪くて苦手だったが、今では良かったと思っている。
玄蕃先生が帰ってきたことがわかるからだ。
「なんだか緊張してきた」
心臓が私の胸を強く打ち付ける。
私は気持ちを落ち着けるように椅子に座ったまま、玄蕃先生を待った。
しばし沈黙が訪れる。
なかなか隣の部屋のドアが開く音がしない。
着替えているのだろうか。
それとも、疲れて玄関で寝てる?
そもそもだ。
「本当に来てくれるかな」
よく考えてみたら、それが一番の問題だった。
確かに約束した。
だからといって、教え子の部屋に来て、ご飯を食べるのは勇気がいる。
――逆の立場だったら、私はどうしていただろうか。
そんなくだらない「もしも」の話が頭に浮かぶ。
ぎぃいぃぃいいいぃいい……。
魔女が笑った。
隣の部屋のドアが開いたのだ。
施錠をした音に続いて、足音が私の部屋に近づいてくる。
そして、扉の前に止まった。
こんこん……。
「来た……。ホントに来た……」
落ち着け。
取り乱すな。
1度、深呼吸しろ。
すー……。
はー……。
そして、私は玄蕃先生が知る白宮このりになった。
「はーい」
努めて淑やかに声を上げる。
今すぐ駆け出したいのを押さえて、なるべくゆっくりと部屋の廊下を歩いた。
施錠を下ろし、魔女の悲鳴を聞きながら、ドアを開ける。
立っていたのは、紛れもなく玄蕃先生だった。
「あら、玄蕃先生。本当に来てくれたんですね」
私――白宮このりは、玄蕃先生を迎え入れた。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
自分の家に玄蕃先生がいる。
それだけで嬉しくなる。
心が無闇に弾む。
自分ではないような気さえする。
気がつけば、皿を取る手が震えていた。
良かった、あらかじめご飯を作っておいて。
今から作ったら、きっと何か失敗したに違いない。
昨日は大っ嫌いな虫から始まって、いきなり玄蕃先生が押しかけてきて、気がついたら無我夢中で料理をしてっていう感じだった。
だから、あまりなんとも思わなかった。
いや、緊張する間もなく、時間が過ぎ去っていった。
そんな感覚だった。
でも、今日は違う。
しっかりと準備して、献立を作って、待っていたんだ。
実質、私と玄蕃先生の夕飯生活の初夜といっていいだろう。
――大丈夫かな? おいしいっていってくれるだろうか?
急に不安になってくる。
玄蕃先生が来る前までは、あんなにウキウキしていたのに。
温め直した味噌汁と、最後に豚の生姜焼きが載った大皿を目の前に置く。
すると――。
「おお……」
玄蕃先生の口から歓声が漏れ聞こえた。
一体なんだろう、と思って、私は玄蕃先生の顔を見る。
――めっちゃ喜んでる!!
なんなのあの目?
すごいキラキラしてる。
口を開けて……あ――涎を垂れそう。
「ぐぅ」って……。
お腹まで鳴ってるし。
――よっぽどお腹空いていたんだ。
「さあ、食べましょうか」
私は椅子に座る。
玄蕃先生の顔を見てたら、なんだか落ち着いてきた。
というか、緊張してた自分が馬鹿らしくなる。
「「いただきます」」
私と玄蕃先生の声が重なる。
早速、箸を伸ばしたのは、豚の生姜焼きだ。
玄蕃先生の顔は、学校の食堂で見た顔とは違う。
表情がツルツルに輝き、宝石でも愛でるように生姜焼きを見つめている。
おそらく50gぶんぐらいはあるだろう。
それを一気に口を開けて食べた。
――あれを一気で行くんだ。男の人ってすごい、良かった。大目に買ってきて。
もぐもぐ、と玄蕃先生の口が動く。
栗鼠のように頬を膨らましながら、バターのように顔がとろけていくのがわかる。
玄蕃先生の勢いは衰えない。
再び豚の生姜焼きに手を付ける。
――また……!?
三角食べを無視して、また生姜焼きを持ち上げる。
今度は、輝く白米の上に載せた。
生姜焼きのたれが、白米に深く浸透していく。
それを一気に、玄蕃先生は持ち上げる。
――え? そんな深く白米を突き刺して食べられるの。あ……!
いった!
寿司のシャリぐらいある白米と、豚の生姜焼きが口の中に吸い込まれていく。
もぐもぐと今日一番大きく口を動かし、咀嚼する。
何回も何回も何回も……。
ゆっくりと白米の1粒1粒を味わい尽くすように。
その姿を見てるだけで、お腹いっぱいになりそうだ。
ぐぅ……。
私のお腹が小さく鳴った。
我ながら空気の読めないお腹だ。
幸い玄蕃先生は気付いていないらしい。
料理に夢中になっている。
――私も食べよう……。
一緒に食べるといった手前、私がご飯を食べないというのもおかしい。
それにあれだけおいしそうに食べられると、私も味が気になる。
すでに何度か味見はしてるけれど、玄蕃先生と一緒に食べてみたくなった。
ちょっと玄蕃先生を真似して、大きく口を開けて食べてみる。
――おいしい……。
味見をした時よりも、ずっとおいしい。
冷めたことによって、味がしみ込んだのかもしれない。
いや、きっと――。
――玄蕃先生と一緒に食べてるからだ。
屋敷で食べたどんな贅沢な料理よりも、商店街で安売りで買った豚バラの生姜焼きの方が、何倍もおいしかった。
私はパソコンのディスプレイから顔を上げた。
画面には、申請された部活の予算表が映っている。
上書き保存し、シャットダウンすると、固まった筋肉をほぐすように大きく伸びをした。
「終わった……」
気がつけば、夕方である。
私がいる生徒会室には誰もいない。
皆、帰ってしまったのだ。
校内は静まり返っていて、外から野球部の声と、遠くからは吹奏楽部の音が聞こえた。
そろそろ帰ろうと部屋の戸締まりをし、鍵を職員室に返却しに行く。
私はそのまま帰らず、人気のないトイレをわざわざ選び、個室の中に入った。
鞄の中からロングのウィッグと、眼鏡を取り出す。
それを装着すると、そのまま真っ直ぐ校門を出ていった。
自分が二色乃高校を騒がす美少女という噂が立っているのは知っている。
だから、そのままの恰好で出ると、たいがい誰かに声をかけられてしまう。
「一緒に帰ろう」などと誘われるのは、過去何度もあったので、下校時刻ギリギリまで校内に残り、変装をして帰ることにしていた。
私が二色ノ荘に住んでいることを、生徒に知られるわけにはいかない。
もっというなら、私と玄蕃先生が住んでいるアパートに近寄ってほしくない。
二色ノ荘は、私にとって聖域だから。
無事、二色乃高校を脱出した私は、そのまま駅近くの商店街に寄った。
今日の夕飯の食材選定である。
「さて、何をしようかしら」
昨日は魚だったし、今日はお肉かしら。
豚? 鶏? ここは奮発して、牛とか?
うーん。でも先生の健康とか考えるとね……。
あとお味噌汁の具材はどうしよう。
いや、汁物はスープ系にしようかしら。
そうなると、ステーキ?
いやいや、初日から頑張りすぎでしょ。
あんまり高いものだと、玄蕃先生の性格だったら、絶対遠慮するし。
「悩むわ」
私は息とともに言葉を吐き出す。
昨日まではこんなことはなかった。
けれど、今はすっごく悩む。
たぶん、鮮明に玄蕃先生の顔が浮かぶ。
食べてる時の顔が……。
――おいしそうに食べてたな。
耳たぶまで赤くして、子どもみたいに大きな口を開けて。
私は口元を押さえた手の中で、思い出し笑いを吐き出す。
今脳裏に浮かべても嬉しくなる。
小さい頃から親から料理の手ほどきを受けてきた。
私にとって料理は1品1品が試練だった。
だから、誰かのために作るのは、これが初めてだったのだ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。いつもありがとね」
精肉店の店主が、一緒に切り盛りしている奥さんと一緒に顔を出す。
肉が並んだガラスケースの前で固まっていると、私に声をかけてきた。
2ヶ月も通っているので、すっかり常連扱いだ。
「今日は豚バラが安いよ。オススメだよ、どうだい?」
「えっと……」
悩んでいると、横の奥さんも声をかけてきた。
「生姜焼きとかどうだい?」
「生姜焼き、か……」
ふと思い出す。
少し前ぐらいのことだ。
昼休みが終わる時間に学校の食堂に入ってきた玄蕃先生が、生姜焼き定食を頼んでいるを見たことがあった。
そこでふと私は耳にしたのである。
『俺、しっとり柔らかい生姜焼きの方が好きなんだよな』
やや厚めに切られた豚の生姜焼きを、少々恨めしそうに囓っていた。
「じゃあ、豚バラで」
「毎度。いくつ?」
「200…………あ、やっぱ300で」
「ありがとうございます」
早速、店主が肉を秤にかけ、横で奥さんが会計をはじめる。
見事な連携だった。
「ありがとよ、お嬢ちゃん。ところで、なんかいいことあったのかい?」
店の名前が入った袋の中に肉を入れると、店主が尋ねてきた。
「え? そうですか?」
「なんか嬉しそうだし」
「さっきも思い出し笑いしてたしね」
――わ。見られてたのか。ちょっと恥ずかしい。
「彼氏でもできた?」
「そ、そういうわけじゃないです。昨日小説のことを思い出しちゃって」
私は苦笑いを浮かべ、誤魔化すのやっとだ。
差し出された肉の袋を掴み、精肉店を後にした。
その後も、青果店を梯子して、二色ノ荘を目指して帰った。
途中、私と同じ袋を持った若い夫婦を見つめながら、私はつい思う。
――なんだか、新妻みたい……。
誰かのために料理をするため、材料を買って、家に戻る。
持っている材料の重さすら愛おしく感じてしまう。
とにかく、今は料理をしたくてたまらなかった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
料理を作り終え、テーブルの上で課題をしていた私は、隣のドアが開く音を聞いた。
二色ノ荘に来た当初、このドアの開く音が気味悪くて苦手だったが、今では良かったと思っている。
玄蕃先生が帰ってきたことがわかるからだ。
「なんだか緊張してきた」
心臓が私の胸を強く打ち付ける。
私は気持ちを落ち着けるように椅子に座ったまま、玄蕃先生を待った。
しばし沈黙が訪れる。
なかなか隣の部屋のドアが開く音がしない。
着替えているのだろうか。
それとも、疲れて玄関で寝てる?
そもそもだ。
「本当に来てくれるかな」
よく考えてみたら、それが一番の問題だった。
確かに約束した。
だからといって、教え子の部屋に来て、ご飯を食べるのは勇気がいる。
――逆の立場だったら、私はどうしていただろうか。
そんなくだらない「もしも」の話が頭に浮かぶ。
ぎぃいぃぃいいいぃいい……。
魔女が笑った。
隣の部屋のドアが開いたのだ。
施錠をした音に続いて、足音が私の部屋に近づいてくる。
そして、扉の前に止まった。
こんこん……。
「来た……。ホントに来た……」
落ち着け。
取り乱すな。
1度、深呼吸しろ。
すー……。
はー……。
そして、私は玄蕃先生が知る白宮このりになった。
「はーい」
努めて淑やかに声を上げる。
今すぐ駆け出したいのを押さえて、なるべくゆっくりと部屋の廊下を歩いた。
施錠を下ろし、魔女の悲鳴を聞きながら、ドアを開ける。
立っていたのは、紛れもなく玄蕃先生だった。
「あら、玄蕃先生。本当に来てくれたんですね」
私――白宮このりは、玄蕃先生を迎え入れた。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
自分の家に玄蕃先生がいる。
それだけで嬉しくなる。
心が無闇に弾む。
自分ではないような気さえする。
気がつけば、皿を取る手が震えていた。
良かった、あらかじめご飯を作っておいて。
今から作ったら、きっと何か失敗したに違いない。
昨日は大っ嫌いな虫から始まって、いきなり玄蕃先生が押しかけてきて、気がついたら無我夢中で料理をしてっていう感じだった。
だから、あまりなんとも思わなかった。
いや、緊張する間もなく、時間が過ぎ去っていった。
そんな感覚だった。
でも、今日は違う。
しっかりと準備して、献立を作って、待っていたんだ。
実質、私と玄蕃先生の夕飯生活の初夜といっていいだろう。
――大丈夫かな? おいしいっていってくれるだろうか?
急に不安になってくる。
玄蕃先生が来る前までは、あんなにウキウキしていたのに。
温め直した味噌汁と、最後に豚の生姜焼きが載った大皿を目の前に置く。
すると――。
「おお……」
玄蕃先生の口から歓声が漏れ聞こえた。
一体なんだろう、と思って、私は玄蕃先生の顔を見る。
――めっちゃ喜んでる!!
なんなのあの目?
すごいキラキラしてる。
口を開けて……あ――涎を垂れそう。
「ぐぅ」って……。
お腹まで鳴ってるし。
――よっぽどお腹空いていたんだ。
「さあ、食べましょうか」
私は椅子に座る。
玄蕃先生の顔を見てたら、なんだか落ち着いてきた。
というか、緊張してた自分が馬鹿らしくなる。
「「いただきます」」
私と玄蕃先生の声が重なる。
早速、箸を伸ばしたのは、豚の生姜焼きだ。
玄蕃先生の顔は、学校の食堂で見た顔とは違う。
表情がツルツルに輝き、宝石でも愛でるように生姜焼きを見つめている。
おそらく50gぶんぐらいはあるだろう。
それを一気に口を開けて食べた。
――あれを一気で行くんだ。男の人ってすごい、良かった。大目に買ってきて。
もぐもぐ、と玄蕃先生の口が動く。
栗鼠のように頬を膨らましながら、バターのように顔がとろけていくのがわかる。
玄蕃先生の勢いは衰えない。
再び豚の生姜焼きに手を付ける。
――また……!?
三角食べを無視して、また生姜焼きを持ち上げる。
今度は、輝く白米の上に載せた。
生姜焼きのたれが、白米に深く浸透していく。
それを一気に、玄蕃先生は持ち上げる。
――え? そんな深く白米を突き刺して食べられるの。あ……!
いった!
寿司のシャリぐらいある白米と、豚の生姜焼きが口の中に吸い込まれていく。
もぐもぐと今日一番大きく口を動かし、咀嚼する。
何回も何回も何回も……。
ゆっくりと白米の1粒1粒を味わい尽くすように。
その姿を見てるだけで、お腹いっぱいになりそうだ。
ぐぅ……。
私のお腹が小さく鳴った。
我ながら空気の読めないお腹だ。
幸い玄蕃先生は気付いていないらしい。
料理に夢中になっている。
――私も食べよう……。
一緒に食べるといった手前、私がご飯を食べないというのもおかしい。
それにあれだけおいしそうに食べられると、私も味が気になる。
すでに何度か味見はしてるけれど、玄蕃先生と一緒に食べてみたくなった。
ちょっと玄蕃先生を真似して、大きく口を開けて食べてみる。
――おいしい……。
味見をした時よりも、ずっとおいしい。
冷めたことによって、味がしみ込んだのかもしれない。
いや、きっと――。
――玄蕃先生と一緒に食べてるからだ。
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