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第9話
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「なあ圭吾」
軽く2.3品と言って買いに出たが、ジョイスの手元には既に4つも袋が握られていた。
「ちょっと買いすぎたか?まあ奢りだし。でもな、晩飯もお奢りとなると…」
「いや、違うくて、あの翔って子の話」
ピザの自販機の前に立ち止まる圭吾に追いついて、ジョイスは隣に並んだ。
「なんか変じゃないか?」
「何が」
16インチのピザを選んで、圭吾はジョイスに向き直る。
なにがといいながら、実は圭吾も釈然としないものを感じていたのだ。
圭吾はジョイスもやはり警官だったか、と感心しようとした矢先
「だってさ?今時キスっくらいで、泣くかな…泣かないよな?」
圭吾の肩がガックリと落ち込む。もう信用せん…
「ジョイス。自分のしたことを棚に上げるなよ?今時って言ったって、そう言う子もいるだろう」
「でもな?仮に!仮にだよ?翔くんがそう言う子だったとしてだよ?蒼真はなんなんだ?えっらそうにさー!」
ムキーーッとカッカしてでっかい猿になっているジョイスだったが圭吾は、はたと気づく。そういえばジョイスは翔が10%の確率で助けられないと聞いた時の蒼真の取り乱し方を知らないんだったな、と。
しかしそう考えてみると、あの姿を見る限り『実験に使われていた翔をたすけて逃げ出してきた』…と言うだけでは言い切れない何かを圭吾は感じていた。
「あ!じゃあさ!したことなかったのかな」
まだ考えてたのか!呆れを通り越して放っておきたい気分だ。しかしジョイスは今度は罪悪感を募らせてきたようだ。
「そうかもしれないな。そんな純情な子のファーストキスをあんな形で奪った罪は重いぞジョイス」
そんなジョイスに適当なことをいって、流そうとしたが、その言葉は思ったよりも深く突き刺さったらしい。
ガーンとした顔をして立ち尽くしている。
「つっ償わなきゃだよな!なんとしても。うん。しかしなあ、あのクソガキがなぁ…」
ー何でこんなに蒼真と合わないんだジョイスは…ーこっちはこっちで不思議な感情を抱いていた。
「いや、ジョイス、償うとかそこまではいいんじゃないか?」
「いいやっそうしなきゃだめだっ!俺の気がすまない!」
何だこのカッカメラメラは…しんどいな…と思う反面、まさかジョイスは…と言うのもなくはない。
しかしそれをジョイスに言うのはやめておいた。なんせ本人にその自覚が無いのだ。
オマタセシマシタ
流暢だがでもどこか機械の声で箱入りピザが吐き出されてきた。
圭吾はじっとジョイスを見る。
「はいはい…」
仕方なさそうにジョイスはピザをとり、
「ちょっと2、3品な量じゃねえぞこれ。もういいんじゃないか?」
確かにこの量は、夕飯までも賄えそうだ。
「そうだな」
圭吾も、足らなかったらデリバリーでいいかと、その荷物を見て頷いた。
圭吾の部屋の端末がなっていた。
部屋へ着いてからは、買ってきたもので酒盛りが始まってしまい、バカな話で盛り上がっている時の呼び出しコールである。
「嫌な予感がする」
と、圭吾はさほど酔っていない足取りで端末へ向かう。
普段なら携帯端末で済むのだが、こういう本体が…特に電話機能が鳴る時は高確率で嫌な連絡の時だ。なんせ相手はきっちりと顔を見て話すことを要求していると言うことなのだから。
圭吾は送信者の顔を画面に表示する。
「やっぱりやな電話だったな」
「聞こえてるぞ、カーランクル」
ジョイスのセカンドネームを呼んだのは、麻薬取締特捜部の部長だった。例の、空港で圭吾に逃げられたあの、部長さんである。
「はいーすいません」
ジョイスは背筋を伸ばして敬礼すると、向こうから見えない位置へコソコソと移動した。
「何も隠れることはないだろう」
呆れた部長さんの声がして、圭吾も色んな意味でのため息をつく。
「それで、何か御用ですか?」
圭吾たちは実質上、今は少年課のお巡りさんなのだ。その少年課に麻取の部長さんが何の用があると言うのか。
部長さんはーはぁぁ~ーとそれは深いため息をついた。
「何か用ですか…?と、言うんだな?」
渋めの声がそう伝えると、圭吾はーしまったーとは思ったらしい。ガックリと頭を下げて
「いえ…あの…」
口籠る。今日の空港の一件を失念していた。
「まあ、用があるのは確かだ。カーランクルも一緒なら手間が省けていい。明日午前10時に私の所へ来るように」
圭吾は胸騒ぎがした。が、そんなことはお構いなしに、
「部長!お言葉ですが、我々は今休暇中で…」
午前10時なんて、休みの日にとんでもない!とばかりにジョイスがカメラの前に割り込んで来る。
「おまえ、やめろ」
小さな声で圭吾が言う間に
「カーランクル…お前は自分が何をしたのか判っていないようだ…」
「あ…」
「今から空港の被害状況と、したくもない裏工作、厄介な裏取り引き、空港の片付けの顛末等々、じっくり聞かせてやってもいいんだぞ」
部長さんの言葉が一層静かさを増している。傍で声だけ聞いていた蒼真と翔も『おっかね~』と密かにビビっていた。
ジョイスは慌ててカメラから引っ込んで、遠くの方から
「ジョイス・カーランクル!明日10時にウォーターミッツ部長の元へ出頭いたします!」
と叫ぶ。見えない位置ながら、ちゃんと敬礼はしていた。
「酔ってんの?」
蒼真が翔にきく
「らしいね」
翔も苦笑してジョイスを見上げている。
「よし、高梨は」
「高梨圭吾 出頭いたします」
「んっ、それでは明日」
そう言って画面は消えた。
「はあああ~~」
大きなため息と共に、ジョイスはソファーへ乱暴に座る。
「あんまり馬鹿なことしてくれるなジョイス」
戻りながら、圭吾はジョイスの足を蹴る。
「大丈夫だよあのくらい。だいたい年寄りは朝が早くていけねえや」
言いながら、目の前の水割りをぐいいっと空けた。
「さて、じゃ明日早いことになったし、俺帰るわ」
「泊まって行ったらどうだ?どうせ明日一緒に出頭だし」
座ろうとしたが、帰ると言うので取り敢えずたったまま圭吾は言う。
「いや~ほら、愛しのキャシーが待ってるんでね~」
「キャシー?」
蒼真が怪訝な声を出す。
「ウサギのことだ」
と圭吾が教えてくれる。蒼真は『はっだろうね』と、最後のピザを取り上げた。
かっわいくねえ~~~と呟いて、ジョイスはキッチン脇へゆき、エレベーターのボタンを押した。
到着後、見送りについて行った圭吾は
ー
「なんでそんなに仲が悪いんだ?蒼真とジョイス」
と、ジョイスに聞いてみるが、さあ、と言って開いたドアへ入って行った。
「じゃあね~翔ちゃん。また明日」
「はい、明日。あ、今日はご馳走様でした」
「いやいやいいんだよ~~」
翔にだけ手を振って、にこやかに去ってゆく。
「気をつけてな」
「あいよ」
ドアが閉まって、リビングに戻ると蒼真は仏頂面でケーキを食べていた。
圭吾は翔と顔を見合わせ、お互いに肩をすくめあった。
この2、3時間でジョイスは翔を宥めることに成功していたのだ。圭吾は蒼真に目をやり
「翔がもう怒ってないんだから、お前もいい加減にしろ」
頭をポンとたたいて、圭吾はその場に座った。
「翔、眠いのか?」
圭吾の手伝いをしてあらかた片付けた頃、翔がソファでウツラウツラしていた。
「ん…ちょっとな。あの薬から無理やり目を覚ましたみたいなもんだから、少し残ってるのかな」
強い薬だったよな…と蒼真が言う。
自分なんかは多分だけど缶に塗られただけのを一部飲んだだけだったのに、丸一日眠ってしまったのだ。
注射器で打たれた翔などは量が半端ない。
「じゃあ休むか?」
そう言いながら圭吾は寝室へ入り、寝具を取り替えた。
「そうさせてもらえ、翔」
「うん。じゃあおやすみなさい」
圭吾にぺこりと頭を下げて、寝室へ入ってゆく。
「じゃあ俺はシャワー浴びさせてもらっていいかな」
翔が寝室へ入ったのを見届けて蒼真が言う。
「ゆっくりするといい」
「一緒に入る?」
その言葉に圭吾はつい寝室のドアを見てしまった。
「あ、やらしいこと考えた!じゃあ入らない」
そんなことを笑いながら言って、蒼真は浴室へ向かう。
振り回されてるなぁと思いながら、圭吾は画面に映っている映画に目をとめた。
軽く2.3品と言って買いに出たが、ジョイスの手元には既に4つも袋が握られていた。
「ちょっと買いすぎたか?まあ奢りだし。でもな、晩飯もお奢りとなると…」
「いや、違うくて、あの翔って子の話」
ピザの自販機の前に立ち止まる圭吾に追いついて、ジョイスは隣に並んだ。
「なんか変じゃないか?」
「何が」
16インチのピザを選んで、圭吾はジョイスに向き直る。
なにがといいながら、実は圭吾も釈然としないものを感じていたのだ。
圭吾はジョイスもやはり警官だったか、と感心しようとした矢先
「だってさ?今時キスっくらいで、泣くかな…泣かないよな?」
圭吾の肩がガックリと落ち込む。もう信用せん…
「ジョイス。自分のしたことを棚に上げるなよ?今時って言ったって、そう言う子もいるだろう」
「でもな?仮に!仮にだよ?翔くんがそう言う子だったとしてだよ?蒼真はなんなんだ?えっらそうにさー!」
ムキーーッとカッカしてでっかい猿になっているジョイスだったが圭吾は、はたと気づく。そういえばジョイスは翔が10%の確率で助けられないと聞いた時の蒼真の取り乱し方を知らないんだったな、と。
しかしそう考えてみると、あの姿を見る限り『実験に使われていた翔をたすけて逃げ出してきた』…と言うだけでは言い切れない何かを圭吾は感じていた。
「あ!じゃあさ!したことなかったのかな」
まだ考えてたのか!呆れを通り越して放っておきたい気分だ。しかしジョイスは今度は罪悪感を募らせてきたようだ。
「そうかもしれないな。そんな純情な子のファーストキスをあんな形で奪った罪は重いぞジョイス」
そんなジョイスに適当なことをいって、流そうとしたが、その言葉は思ったよりも深く突き刺さったらしい。
ガーンとした顔をして立ち尽くしている。
「つっ償わなきゃだよな!なんとしても。うん。しかしなあ、あのクソガキがなぁ…」
ー何でこんなに蒼真と合わないんだジョイスは…ーこっちはこっちで不思議な感情を抱いていた。
「いや、ジョイス、償うとかそこまではいいんじゃないか?」
「いいやっそうしなきゃだめだっ!俺の気がすまない!」
何だこのカッカメラメラは…しんどいな…と思う反面、まさかジョイスは…と言うのもなくはない。
しかしそれをジョイスに言うのはやめておいた。なんせ本人にその自覚が無いのだ。
オマタセシマシタ
流暢だがでもどこか機械の声で箱入りピザが吐き出されてきた。
圭吾はじっとジョイスを見る。
「はいはい…」
仕方なさそうにジョイスはピザをとり、
「ちょっと2、3品な量じゃねえぞこれ。もういいんじゃないか?」
確かにこの量は、夕飯までも賄えそうだ。
「そうだな」
圭吾も、足らなかったらデリバリーでいいかと、その荷物を見て頷いた。
圭吾の部屋の端末がなっていた。
部屋へ着いてからは、買ってきたもので酒盛りが始まってしまい、バカな話で盛り上がっている時の呼び出しコールである。
「嫌な予感がする」
と、圭吾はさほど酔っていない足取りで端末へ向かう。
普段なら携帯端末で済むのだが、こういう本体が…特に電話機能が鳴る時は高確率で嫌な連絡の時だ。なんせ相手はきっちりと顔を見て話すことを要求していると言うことなのだから。
圭吾は送信者の顔を画面に表示する。
「やっぱりやな電話だったな」
「聞こえてるぞ、カーランクル」
ジョイスのセカンドネームを呼んだのは、麻薬取締特捜部の部長だった。例の、空港で圭吾に逃げられたあの、部長さんである。
「はいーすいません」
ジョイスは背筋を伸ばして敬礼すると、向こうから見えない位置へコソコソと移動した。
「何も隠れることはないだろう」
呆れた部長さんの声がして、圭吾も色んな意味でのため息をつく。
「それで、何か御用ですか?」
圭吾たちは実質上、今は少年課のお巡りさんなのだ。その少年課に麻取の部長さんが何の用があると言うのか。
部長さんはーはぁぁ~ーとそれは深いため息をついた。
「何か用ですか…?と、言うんだな?」
渋めの声がそう伝えると、圭吾はーしまったーとは思ったらしい。ガックリと頭を下げて
「いえ…あの…」
口籠る。今日の空港の一件を失念していた。
「まあ、用があるのは確かだ。カーランクルも一緒なら手間が省けていい。明日午前10時に私の所へ来るように」
圭吾は胸騒ぎがした。が、そんなことはお構いなしに、
「部長!お言葉ですが、我々は今休暇中で…」
午前10時なんて、休みの日にとんでもない!とばかりにジョイスがカメラの前に割り込んで来る。
「おまえ、やめろ」
小さな声で圭吾が言う間に
「カーランクル…お前は自分が何をしたのか判っていないようだ…」
「あ…」
「今から空港の被害状況と、したくもない裏工作、厄介な裏取り引き、空港の片付けの顛末等々、じっくり聞かせてやってもいいんだぞ」
部長さんの言葉が一層静かさを増している。傍で声だけ聞いていた蒼真と翔も『おっかね~』と密かにビビっていた。
ジョイスは慌ててカメラから引っ込んで、遠くの方から
「ジョイス・カーランクル!明日10時にウォーターミッツ部長の元へ出頭いたします!」
と叫ぶ。見えない位置ながら、ちゃんと敬礼はしていた。
「酔ってんの?」
蒼真が翔にきく
「らしいね」
翔も苦笑してジョイスを見上げている。
「よし、高梨は」
「高梨圭吾 出頭いたします」
「んっ、それでは明日」
そう言って画面は消えた。
「はあああ~~」
大きなため息と共に、ジョイスはソファーへ乱暴に座る。
「あんまり馬鹿なことしてくれるなジョイス」
戻りながら、圭吾はジョイスの足を蹴る。
「大丈夫だよあのくらい。だいたい年寄りは朝が早くていけねえや」
言いながら、目の前の水割りをぐいいっと空けた。
「さて、じゃ明日早いことになったし、俺帰るわ」
「泊まって行ったらどうだ?どうせ明日一緒に出頭だし」
座ろうとしたが、帰ると言うので取り敢えずたったまま圭吾は言う。
「いや~ほら、愛しのキャシーが待ってるんでね~」
「キャシー?」
蒼真が怪訝な声を出す。
「ウサギのことだ」
と圭吾が教えてくれる。蒼真は『はっだろうね』と、最後のピザを取り上げた。
かっわいくねえ~~~と呟いて、ジョイスはキッチン脇へゆき、エレベーターのボタンを押した。
到着後、見送りについて行った圭吾は
ー
「なんでそんなに仲が悪いんだ?蒼真とジョイス」
と、ジョイスに聞いてみるが、さあ、と言って開いたドアへ入って行った。
「じゃあね~翔ちゃん。また明日」
「はい、明日。あ、今日はご馳走様でした」
「いやいやいいんだよ~~」
翔にだけ手を振って、にこやかに去ってゆく。
「気をつけてな」
「あいよ」
ドアが閉まって、リビングに戻ると蒼真は仏頂面でケーキを食べていた。
圭吾は翔と顔を見合わせ、お互いに肩をすくめあった。
この2、3時間でジョイスは翔を宥めることに成功していたのだ。圭吾は蒼真に目をやり
「翔がもう怒ってないんだから、お前もいい加減にしろ」
頭をポンとたたいて、圭吾はその場に座った。
「翔、眠いのか?」
圭吾の手伝いをしてあらかた片付けた頃、翔がソファでウツラウツラしていた。
「ん…ちょっとな。あの薬から無理やり目を覚ましたみたいなもんだから、少し残ってるのかな」
強い薬だったよな…と蒼真が言う。
自分なんかは多分だけど缶に塗られただけのを一部飲んだだけだったのに、丸一日眠ってしまったのだ。
注射器で打たれた翔などは量が半端ない。
「じゃあ休むか?」
そう言いながら圭吾は寝室へ入り、寝具を取り替えた。
「そうさせてもらえ、翔」
「うん。じゃあおやすみなさい」
圭吾にぺこりと頭を下げて、寝室へ入ってゆく。
「じゃあ俺はシャワー浴びさせてもらっていいかな」
翔が寝室へ入ったのを見届けて蒼真が言う。
「ゆっくりするといい」
「一緒に入る?」
その言葉に圭吾はつい寝室のドアを見てしまった。
「あ、やらしいこと考えた!じゃあ入らない」
そんなことを笑いながら言って、蒼真は浴室へ向かう。
振り回されてるなぁと思いながら、圭吾は画面に映っている映画に目をとめた。
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