SHORT CAKES

とうこ

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第20話

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「圭吾、蒼真が出るぜ」
 ジョイスの言葉に、タバコをもみ消した。
「どこへ行くんだろう」
「とにかく追うぞ」
 圭吾とジョイスは蒼真が歩いて行く後から尾行を開始する。しかし
「なあ、あの先はタクシー乗り場しかないぞ。タクシー乗るつもりかな」
 ジョイスは自分の記憶を頭上の案内で確認した。
「じゃあ俺は車を取ってくる。ジョイス悪いが蒼真の乗ったタクシーのナンバー控えてくれ。それと、タクシーじゃなかった場合は連絡をくれ」
「あいよ」
 圭吾は蒼真が気になりながらもジョイスから離れ車を取りに向かう。

 正面へやってくると、ジョイスが手を振っていた。
「どうだ?」
「うん、タクシー結構混んでたんだけどな、大人しく待って乗って行った。なんか様子がおかしかった気はするけどね」
 ジョイスが乗り込んで、発進する。
「おかしかった?」
「ん、なんていうか…正気がないっていうか、ぼんやりしてたんだよな」
 元気な様に見えて、変に落ち込む様なところは多少合ったが、ぼんやりと歩くまでは見たことはなかった。
「翔になにかあったのかな…」
 ジョイスも、蒼真の様子で色々考える。
「陽動ということも考えられるが…」
「俺たちに気づいてってこと?それとも…」
 言いかけて、ジョイスは端末が震えるのを確認して、チノパンの後から端末を取り出した。
「あ、ユージだ。はい、俺」
 圭吾がオープンにしてくれというので、オープン会話へ。
『あ、ユージっす。いきなりなんですけど、いまどこにいます?』
「今は、ナリタから蒼真が乗って行ったタクシーを追っているところだ」
 圭吾がそう言うと
『あ、やっぱ昨日のメッセージでバレました?』
 笑った声で言うユージに
「そう言うことだ。で、どうした」
 考えてみれば、仲間しかかかってこないとはいえ、メッセージに直接伝言入れると言うのもなかなか乱暴な話だ。
『追ってるんなら話が早いや。色々有ったんだけど、とにかく蒼真は今MBL(ホットスタッフ)に向かってる』
「「なんだって?」」
 見事にハモったが、それも仕方がないことだ。
「なんでまた…」
「わかった!翔だな。翔がMBLホットスタッフに捕まったんだろ」
 恋する男の勘ときたら。
『そうなんすよ。ここへ連れてきてくれる方々の所でトラブルあったらしくて』
 多くは語らずに、ユージは淡々と経緯を伝えるだけだ。そして少し間を置いてから
『ホットスタッフ…行くんすか?』
 と、聞いてきた。
 実際圭吾とジョイスが乗り込んだ所で、どうにかなるのかな…と言う考えもある。
「もちろん行くさ」
 意気込んでいるのはジョイスだが、圭吾にも迷いはない。
『蒼真たちのことは…』
「あらかた聞いている」
 ならいいな、とユージは言った。
 あの2人がMBLに戻ることが嫌なのは、お互い一致している。
『高梨さん。蒼真を頼むよ。俺じゃあ止められなかったんだ。頼む、取り返してきてくれ。お願いだから』
 切羽詰まった声が胸をついた。
 ユージも、蒼真たちが逃げ出してからずっと影ながら守ってきていたのだ。今更帰すわけになんか行かないのだ。
「俺に…できるなら、極力…」
『出来なきゃ頼まねえよ。案外鈍いなあんた。まあいいや、とにかく頼んだぜ!あ、それとMBL行ったら、地下に行くといい。地下何階あるかまでは知らないけど、昔蒼真がそんなこと言ってたから参考にしてくれ。じゃあな』
 最後ぶっきらぼうに切ったが、泣き出しそうな声に聞こえたのは圭吾だけではなかったはずだ。
「責任重大だぜ…」
 ジョイスが真っ直ぐに前を見た。
 ともかく行き先がわかったら、追う必要もない。ただただ急いで、MBLの本拠地へ乗り込むだけだった。


 MBL日本本部は、表はいわゆる病院で、入院患者もいれば、毎日外来の患者さんも数多くやってくる。
 場所は郊外の一等地。緑もたくさん取り込めるように森を背景にして建っていた。
 蒼真はタクシーを降りると、慣れた足取りで職員の出入りする入り口へ向かう。
「ここは、職員以外立ち入り禁止ですので、一般の方は回っていただいて…」
 入り口に立っていた警備員が、蒼真を止めようと前に立ち塞がった。
 ユージの言っていた噂のせいで、警備も少し厳重だなと思いながら蒼真はIDカードを取り出して見せると、『失礼しました』と一歩引いてくれた。
 一年も勤めれば大抵の職員の顔は覚えているだろうに、IDカードだけで信じちゃっていいのかな、俺5年ぶりだぞ。それとも新人?
 などと考えながら入り込んだが、まあ楽で良かったよ。と歩を進める。
 とある一室では、モニターを見ながら笑う男が1人。
「やっと来たねえ、蒼真」
 ハワードは大きな画面に映し出されている蒼真を眺め
「おかえり」
 と、お茶ではあるが画面に掲げた。

「ウヒャーッ威圧感バリバリだな」
 病院の前に立って、ジョイスは上まで見上げて眩しさに手を翳している。
 医学的レベルは世界最高峰だし、設備も万全なので難病の人々には心強い病院だ。
 もちろん風邪くらいではここには来られないので、ジョイスも圭吾も実際に足を踏み入れるのは初めてだった。
「さてどうする」
 来てみたはいいが、普通に入って地下に行ってどうにかできるものだろうか…と目の前にして考え込む。
「ま、動いてみないとだよ圭吾。地下っていうんなら地下行ってみようぜ」
 背中を文字通り押されて、2人は足を踏み出した。

 エレベーターを待ちながら、地下の階数を確認する。
「地下は4階まであるんだねえ…」
 とりあえず各階を全部探索するには少なくない階数だ。ジョイスはうんざりだな…と呟いて
 降りてきたエレベーターに乗り込んだ。
  

 蒼真はある一室の前で立ち止まった。
 すれ違う者たちは何故か蒼真を顧みない。当たり前の人が歩いているくらいにしか思っていない感じだ。
 はっ、と強めに息を吐いてから、ドアをノックする。
「どうぞ」
 と声がしたと同時にドアが自動的に開き、中に両手を広げているハワードが立っていた。
「よく帰ってきたね、嬉しいよ、蒼真」
「今回ばかりはあんたのしつこさに頭が下がったよ」
 嫌そうな顔を隠しもせずに、蒼真は一歩入ったところから一歩も動かずにハワードを睨みつけた。
「翔は?」
「もちろん無事に保護しているよ。お前の大切な人だからね」
 この、人の良い笑顔がどんなに醜悪な考えで作られているのかを知っている蒼真は、吐き気を堪えるのに一苦労である。


「ジョイス、このままでは埒が開かない。二手に別れよう」
 圭吾がそう提案してきたのは、2階も半分ほど調べた時だった。
「そうだな、二手になればとりあえず調べる時間は半分になるか」
 ジョイスは腕時計を確認して、
「今11時10分に合わせて、そうだなあまり長くうろついてもまずいから30分。11時40分に取り敢えず、さっき入った正面玄関に一度戻ろう。見つけられなくてもだ」
「わかった。11時40分に正面玄関だな。OK」
 時計の時間を合わせてジョイスは頷いた。
「よし、行こう。気をつけてな」
「お互いな」
 と、ハイタッチをして離れる。
 圭吾は取り敢えず最下層から調べることにした。目標は、立ち入り禁止場所。
 地下4階は、検査や手術を行う階らしく眼科、内科といった科別のそれぞれの施設
が並ぶ場所だった。
 午前中だが、よっぽど計画的に検査等が組まれているのか通路に待っている人もおらず、時折使用中と思われる部屋もあったがすれ違う人間は一般の人も多いので、それほど怪しまれずに歩いていられた。
 壁ばかりの通路を抜けて突き当たると、正面に『←手術室 ICU→』と書かれた表示があり、圭吾は手術室は関係ないかなと直感だが考え、ICUへと足を進めた。
 右へ曲がってまた突き当たるが、そこがICUらしく今はそうそう忙しそうでもなさそうだ。そう思いながら歩いて行くと、ICU入口の手前になんの表示もないドアがあった。
 階段かとも思ったが位置的におかしいし、よく見れば立ち入り禁止のステッカーが貼ってある。
ーここかなー圭吾は周りを見回してドアを開けた、ドアはすんなり開いて、あれ、楽勝か?と思ったが又、目の前にドアが現れそこには『この先許可なき者の入室を禁ずる』というディスプレイが表示されていた。
 多分IDカードでもないと入れないのだろう。下手に操作すれば警報は確実だ。どうするか…
「どうされました?」
 警報を鳴らして突き進むか、何か他に手はないか考えていると、急に後ろから声が掛かって圭吾はビクッと肩を振るわせた。
 振り向くと30くらいの男がパックのジュースとサンドイッチを持って立っていた。
「すいませんね、ここは一般の方は入れなくなっていまして」
 と丁寧な言葉で説明してくれる男に、圭吾は咄嗟に
「あ、ええと…今日からここへ…配属になったんですが……そう言えばカードを支給されてなかったなあ…っと考えていたとこ…ろで」
 どうせつくならもっとマシな嘘はつけないのか自分!と自分の言葉を呪ったが、男は、
「ああ、貴方でしたか。聞いてます。それならどうぞ」
と、自分のカードを当てて圭吾を中へいざなってくれた。
ーえ?え?ーと思ってる間に侵入に成功してしまい、男は
「早いうちに事務室に行った方がいいですよー。僕の時もそうだったんです」
と話し出す。
「カードの発行に時間かかりますから、早い方がいいですよ。実は僕もまだ新人の部類なので、事務室にあまり言えなくて、お手伝いはできないんです。お役に立てなくて」
 お役に立てないどころか、充分だ…と難なく入れたことを喜ぶ前にちょっとびっくりしていた圭吾は、では、と去る男に頭を下げて、幸先がいいことには変わりない、と気を引き締めて行くしかなかった。


「久しぶりに会ったんだから、そんな怖い顔をするもんじゃあないよ」
 ハワードは、フル装備のオペレーションシステムを背に座った。
 この部屋は地下の研究室の中枢を担っている所で、あらゆる部屋のあらゆる事項がこの場で全て、手に取る様にわかるのだ。
「お前に会いたくて来たわけじゃない」
 蒼真はこの部屋へ足を踏み入れた場所から、未だに一歩も動いていない。
「そんなに心配なら見せてあげようか」
 振り向いて、ある場所のキーをトントンと操作して映し出された画面を確認すると、
「これが見たかったんだろう?」
 と再び振り返った。
「翔っ」
 翔のアップが映される。
 壁に寄りかかり寂しそうな…怖そうな顔でうつむいて、必死に何かに耐えながら座っていた。
 その画面が次第に引いてゆく。
 翔を中心に引いて行く画面は、周りが映し出されてゆき、そこに映し出されて来たものは人が10数人いて、窮屈ではない程度の広さの中で、思い思いの動作で遊んでいるのか何をしているのか動き回っているものいれば、座り込んで自分の指を不思議そうにながめているものもいる。
 しかし異様なのは、その中にいる全員が同じ顔、年齢に多少の差はあるものの、そこにいる全員が全て『翔』なのであった。
「あんな中に入れてるのか!気が狂う!」
「お仕置きだよ。手こずらされたからね、お前たちには…」
「翔は『オリジナル』だぞ。あんな扱いを受ける謂れはないはずだ」
「言っただろう?『お仕置き』だとね」
 そう言ってハワードはクックッと笑う。
「お前の言う『オリジナル』があの扱いだったら蒼真…お前にはどんなお仕置きがいいだろうねえ」
 ハワードの言葉に蒼真は唇を噛んだ。
「まだ…ゲスな研究を続けているみたいだな…」
 拳を握りしめて蒼真は悔しいながらもじっとハワードを睨みつけている。
 画面に映し出されている『翔達』は、肌に無数の斑点があったり、傷があったり、痣があったり顔が腫れてたり、手足が一部無かったり…様々な病の研究に使われていることが如実にわかる容姿をしていた。
 無事な姿をしている子は数人いるかいないか…その子達だっていずれは…
「お陰様でね。しかし、新しい業務も始めたんだよ。お好きな方々にはとても喜ばれていることをね」
「お好きな方々…?」
 ハワードの後ろで画面が切り替わり、綺麗な肌の翔が数体並んでいた。
 データを脳に送られているのか、ヘッドギア様のものをつけ箱に立たせられている。
「お前……まさか…」
 画面から視線をハワードへ戻して、何かを言い募ろうとした時、
 フォンフォンという警報が鳴り響いた。
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