SHORT CAKES 番外編1

とうこ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

SHORT CAKES 番外編

しおりを挟む
 警察署と言うのは、どの時代も多少レトロな雰囲気が残っているもので、圭吾たちが詰めているTOKYO中央本部も『TOKYO』の『中央』な割には、旧式の建物で、中もお年寄りには和むと評判の警察署だった。
 だからまだ『掲示板』などと言うものが存在し、そこには署内の部活動や、シェアハウスの同居人募集など多種多様な事柄が掲示してあったが、ある日ジョイスと圭吾は朝イチでその前に立ち尽くす羽目になった。

『高梨圭吾✳︎ジョイス・カーランクル 結婚!』
 最初に飛び込んできたのがこれで、まるでジョイスと圭吾が結婚するような書き方に、最初はびっくりしたものだが、よくよく見てみると圭吾と蒼真、ジョイスと翔が各々2人で歩いている写真や、経歴書から抜いた圭吾とジョイスの写真と、盗撮もどきの蒼真と翔の写真を並べて❤️などがついていて、当人たちもびっくりするしかない。
「なんっだこれ」
 あっけに取られたジョイスがやっとの思いで絞り出した声。圭吾に至っては呆然としすぎて声も出ない様子だ。しかも圭吾の方は、蒼真に初めて会った日の圭吾が連れて行った酒場でのキスシーンまで添付されている。
『お相手はこの方かー?』
 圭吾とジョイスはその掲示をすぐにでも外したかったが、ガラスが貼ってあって広報にしかできないので、次の瞬間には広報へ足を向けて走っていた。
「「あの掲示をなんとか外してくれないか!」」
 声を揃えて広報課の主任であるカワバタ主任のところへ直訴する。
「プライバシーの侵害じゃないか?」
「あまり顔を晒したくないんだけど!」
 実を言えばそれが1番大きい。
 蒼真は既にオーストラリアへ行っているが、翔はTOKYOで暮らしている。バイオレットの捜査時には2人の面も割れているので、出かける際は極力顔が見えないような風にしてでかけているのだ。それをわざわざ署内で掲示しなくても。特捜の部長に見られれば、大変なことになりかねない。
 まあ、翔も髪をかなり切り、髪色も変えて雰囲気は当時の面影はないと言えばないけれど。
「いやあ~お二人のファンクラブがねえ…昨日帰りがけに押しかけてきましてね」
 ファンクラブ…?
「いや密かにあるんですよ?他にも交通課の枚方さんや、1課のマリオーニさんとか」
 その話は別にいんだけど取り敢えず、あれは外してくれないと困る。
 ギャーギャー広報室で交渉を続けている2人の元に、眼鏡をかけた女性エマ・フィーリング課長補佐がやってきた。
「にぎやかですね、どうしました」
「ああ、課長補佐なら話が早い、エントランスの掲示をやめて欲しいんですけど、今すぐ、即刻に」
「自分らだけならまだしもですが、相手は関係ないですよね。盗撮もどきもありますし、即刻外していただきたい」
「あれは…」
半ば食い気味にエマが話す。
「私が許可しました。署内で人気がある方々は、これまでことごとく同じことされてきたのはご存知でしょう?」
 確かに、先月結婚した刑事3課のロイ・マッシーモも、掲示板でやられていた記憶が…。
「あなた方だけ特別にはできませんよ。陰ながら応援していた方々の最後の祝福なんですから、甘んじて受けていただかないと…私も、されましたので…」
 ファーガソン課長補佐は大層な美人で、補佐になった時の発表では傾城とまで言われ、あらぬ噂までたった人物だ。実際そんなことはあり得なかったが。
 自分らは少し事情があって…とも言えず…。この課長補佐に言われたらぐうの音も出ない…
「はい、就業時間です。あなた方の仕事を始めてください」
 パンパン!と手を叩かれ半ば強制的に退場させられた二人は
「部長に見られたりしたら…やばくないか…」
「あそこに掲示されてたら嫌でも目につくよな…どうする…」
 こそこそと話しながら歩いて行く。
 その2人を、すれ違う人々が拍手を送るので、その度に『いやぁ~どうもぉ~』と愛想笑いをするのももう疲れる。

 表向きは刑事4課の所属となっている2人が、渋々と部屋へ入ってゆくと部長が待ち構えていたように迎えに出てきて
「おめでとう。水臭いぞ。もっと早く言ってくれればよかったのに」
 こちらも拍手で迎えてくれるし、つられて部屋のみんなも拍手をしてくれる。
 ほんとやめてほしいんですぅ 半ば泣きそうになって
「いや、もうその辺で…あ、仕事しましょうみなさん」
 ジョイスが自分のデスクに向かって歩き、圭吾は部屋の棚から今日調べようと思ってたことの資料メモリーを取り出す、などとやってみるが部長は諦めず
「今度お相手も連れて、課内パーティーでもしようじゃないか。お披露目は大事だぞ」
 ひいぃ!もうほんと勘弁してください。
 どうやら部長さんは掲示された写真では2人が特定できなかったらしく、それはホッとした。

 その後昼休みになると、もうぐったりして食欲もない2人は課の客様応接セットでだらりと伸びていた。
 その時10数人の男女が
「失礼します」
「しつれいしまーす」
「失礼いたします」
 と 課へやってきた。みんなが何事かと見守る中、その集団は少しキョロッとした後その応接セットをロックオンし、まっすぐに向かって来た。
「え、なに?なになになに?」
 入り口に背を向けていた圭吾がジョイスの様子に振り向くと、すぐそこに集団が立っている。
「え…と、…え?」
 戸惑っていると、2人の男女が前にでてきて、まず男性が
「高梨圭吾を見守る会代表 小出マイケルです」
「ジョイス・カーランクルを愛でる会代表 エミリー・ロバーツです」
 みまも…る?とか 愛でる…とかもう尋常じゃない。
 2人は各々手にした箱を、各々の推し(w)に差し出した。
 昼休みで少ないながらも、課の人間達はかなり面白がって見ている。
「みんなからの祝福です。受け取ってください」
 圭吾もジョイスも圧倒されてしまって、
「あ…ああ、ありがとう…」
と受け取るしかなかった。次は代表2人が下がった後、列が半分に割れ、一人一人が
「お幸せに」
「悔しいけど、幸せになってください」
「好きでした」
 と 一言メッセージを伝えながら、プレゼントを置いてゆく。  
 もう呆気に取られるしかなく、好きにして…な感じで愛想笑いを2人は振り撒き続けた。

 画面の向こうで蒼真がお腹を抱えて大爆笑をしている。
「笑い事じゃないんだよ、ほんと」
 ジョイスの部屋へ寄って翔にこのことを話してたら、翔も爆笑してこれは蒼真にも聞かせなきゃ!と端末本体で今日のことを伝えた。その結果のことであった。
『すっごいね、おもしろっぎゃははははは』
 もう転げ回る勢いで笑っていて、しばらくは収まりそうもない。
 頂いたものは、署の固いソファーの上で魂抜けた感じで座っていた2人の代わりに、課の人達が箱詰めしてくれて、ちゃんと持ち帰って来ていた。
 翔がジョイスの分を今も開け続けていて、大体がペアのものだったが中には写真でイメージしたのか翔へのキャップや服も入っていたりして、お相手さんへと書かれたものを翔は結構喜んでいた。
『俺のもあるー?』
 と少し落ち着いたらしい蒼真が、画面の向こうでワクワクし始めた。まだ笑ってはいるけれど。
「今見てあげる」
 翔が圭吾に許可を得て箱を確認すると、
「あるよー。これとか」
 現在人気の新進デザイナーの服や
「これとか」
 圭吾の写真が秒で変わる写真盾 
 それを見た圭吾は、ビールを吹き出しそうになり、画面の向こうの蒼真は椅子から落ちてまた大爆笑を始めた。ジョイスもそれには爆笑したが俺にはないよねさすがに…と箱をあらためている。
「この人、蒼真が離れてること知ってるんだね。ファンクラブって怖いねえ」
「欲しい欲しい 今すぐそれ欲しい」
 ゲラゲラ笑いながら画面外で蒼真は叫んでいる。 
「いい加減にしろ…」
 本当になんの日なんだ今日は…

 蒼真がオーストラリアへ行って半月
 もう一波乱が待ち受けている4人だが、こんな日もあったという話
 

 番外編は、もう少し書きたいので、見てやってくださいね♪




2.3日後に正規の番外編あげます~。ここだけの話ですが、もうAVです←
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...