エレガントエレファンツ

うらや 

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2章

13話

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※自殺についての言及があります。

 坂を登り切った先の道をしばらく歩く。腰はオーギュストに抱かれたまま、少しでも背が曲がるとケツを引っ叩かれた。
「ミツバチは猫背のまま体作りをしてしまったんだね。ほら、尻も筋肉の割にちょっと硬い」
 叩かれるついでにガッツリ揉まれている。遠慮や躊躇など一切感じない手付きである。
「演技の時は伸びてたけど、普段がこうということは意識して伸ばしていたということだ。それじゃあパフォーマンスにかける意識のコストが奪われる」
 もっともらしいこと言っているが、その間もオーギュストは手のひら全体で俺の尻を揉みしだいている。今腕にギプスがはまっていなければ、この男の首をプロレスよろしく固めていたところだった。
「所作、姿勢、視線、すべてをその骨身に染み込ませれば、自然と真の意味でパフォーマンスに専念することができるはず。あとこのお尻ももっと柔らかくなるね」
 とどめとばかりに、ぺん、と軽く叩かれ、尻を揉んでいた手が腰に戻ってくる。複雑な気持ちだ。こいつの言葉に納得する自分と、いつかセクハラで訴訟を起こす算段をつけ始めている自分がいる。
 坂道がもう時期終わる。もう一踏ん張りと思うと自然と足に力が入った。邪魔くさいオーギュストの手もついでに払う。
 ふと風が顔を撫でる。いつのまにか汗ばんでいた額を撫でるそれは心地よく、ふわりと初夏の香りを運んでいた。
 時刻はすでに夕方だった。夕焼けの差し込む坂の上、坂道から見てやや斜めに門が聳えている。白いそれは堅牢であるものの美しい。その奥、青々とした緑の糸杉が等間隔に生えた道の先、門と同じく白い屋敷が佇んでいた。
「ようこそ! あの家こそ我が邸宅、そして君の仮宿だ」
 かつ、とオーギュストが一歩踏み出し、こちらを振り返る。赤い日差しが、ギラギラと燃えていた。

ーーーーーー

「ここが客間。当分は君の私室として扱ってもらって結構だ」
 簡素だが整頓された部屋。俺の実家の部屋より明らかに広い。
「ここが居間。ここも過度に汚したりしなければ好きに使ってくれ」
 アンティーク調の家具が多い部屋。当然、俺の実家の居間より大きい。
「ここが書斎。出入り自由だけど、飲食は厳禁」
 ふわりと古書特有の香りがする。黄ばんだ本がちらほらと見て取れ、禁煙ではないのだと察する。
「そしてここが私の私室。夜這いに来てくれてもいいよ」
 隣に立つオーギュストの太ももの裏に膝を入れた。
「で、ここがスタジオ」
 最後、館の一階端の部屋を案内される。ぱ、と照明が点けば鏡張りの壁面とポール、フローリングの室内が顕になる。
「当分は基礎練になる。客室よりも、ここにいる時間が長いだろうね」
 オーギュストはそう言うとスタジオの照明を落とす。
 こっち、と案内されるがままについて行けば先ほど案内された居間につく。
「座るといい」
 アンティーク調の豪奢な二人がけのソファに案内される。ソファの端に腰掛ければ、オーギュストは別の一人がけのソファに座った。
「この中にうちの事務所のモデルが一人だけいる。誰だと思う?」
 ぴ、とオーギュストがリモコンを操作すれば、壁にかけられていたテレビに映像が映る。ファッションショーの映像だった。様々な女性が入れ替わり立ち替わり映り込む。この中に一人だけいる特定のモデル。
 ふと、目を惹かれる。
 カメラの角度が変わった拍子だった。画面手前、客席にいる女。どこにでもいそうな、ブロンドに眼鏡をかけた地味な服装の女だった。
 ステージ上にいるモデルと比べて、明らかに身なりに差がある。しかし、不思議とその女から目を離せない。シンプルなオフィスシャツの上からでもわかるほど、美しい骨の形をしていた。
 映像が止まる。
「彼女はアマンダ。当時はまだ駆け出しのファッションライターだった」
 かち、とライターの音がして煙草越しにオーギュストの口元に火が灯る。
「特別な訓練は何もしていない。生まれ持っての骨格と、背を曲げて歩いてはいけない、という祖母の教えを忠実に守っているだけだったらしい」
 紫煙が立ち上る。ふわりとタバコの香りが頬を撫でる。
「この後、アマンダは私がヘッドハンティングしてモデルとしてデビューした」
「ふうん。……活躍してるんだろうね」
「いや、死んだよ」
 灰皿に灰が落とされる。じくじくと、露出したタバコの先が傷口のように燃えている。
「自殺だ。可哀想に、まだ二十代だった」
 細い息が天井へ向かって立ち上る。ゆらゆらと揺れる白い煙の向こうで、一時停止したアマンダの横顔が霞んでいる。
「……他人事なんだな、自分がスカウトしたのに」
「怖いかい」
 ぎしりとソファが揺れて、いつの間にかオーギュストが隣に座っていた。黄金色の瞳がぎらぎらと俺の体を余すことなく突き刺している。
「軽蔑してるんだ」
 そう言って睨みつければ、オーギュストは力が抜けたように笑った。
「ミツバチはそう簡単に死ななそうで、嬉しいよ」
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