ゆきの彼方

んんん

文字の大きさ
15 / 32
第2章

第13話 それでも進む時の針2

しおりを挟む
01月17日

翼プロダクション事務所


「紗雪、さん……、嘘だよね」
「嘘じゃないわ。私はこの事務所を辞める」

月城ゆきとそのマネージャー佐藤紗雪が事務所で話していた。

「な、んで……どうして」
「……彼方くんが、ああなったのは、全て私の責任。会場のチェックが甘かった、あらゆる事象への想定が甘かった。そして彼をあそこへ向かわせたものも、私。…私が殺したのも同然なのよ。あなたはそんな私を許せるの」

「そんなこと、あんなの誰も予想出来ません、あれは、どうしようもなかった事故です…それに、紗雪さんがああしなかったら、私が死んでました」

「それでも、私はっ…」

激昂するマネージャーに、ゆきは抱きついた。

「ゆ、き」
「もうやめて、これ以上自分を責めないで」

叫ぶゆきに、マネージャーは冷静さを取り戻す。

「う……」
「紗雪さんは私を見つけてくれた人。あなたがいなければ今の私はなかった。あなたも、私の大切な人なの。……これ以上、私の前から居なくならないで……」

「……ゆき。……」
「あの時のことは、お兄ちゃんが無勝手に理言ってやらせたんでしょ。そういう人だもん。それに、お兄ちゃんもこんな事望んでないよ」

「……ごめんなさい、私、どうかしてたわ」
「紗雪さんは色々背負い過ぎだよ、少し落ち着いて休んだ方がいいよ。仕事は私がやっておくから」

「……いいの?ゆき」
「うん。何かやってないと落ち着かなくて」

そういうゆきにマネージャーは少し考えていった。
「ふぅ。わかったわ、しばはくはあなたに任せてみる。何かあったらすぐ連絡するのよ」
「うん。ありがとう」

そして、マネージャーは事務所を出ていった。
ゆきはそれから、数時間マネージャーから託された事務業務をひたすらこなした。


@@@@@@@@@@

01月17日 夜


ある病院の病室にて

事務所の仕事からの帰りに、ゆきは病院へ寄った。
向かった先の病室には男が眠っていた。
月城ゆきは、ベッドで眠りについている男を見る。
「お兄ちゃん」

月城彼方、ゆきの兄。 
コンサート中の事故からゆきを救い、そのまま意識不明となったまま目覚めないでいた。

「どうして…………どうして…………」

「お兄ちゃん……約束したのに……、ずっと……。ずっと、傍で見てくれるって…… 」

涙は、なかった。
既に泣き尽くした後なのか、涙も出ないほど現状を受け入れられないのか。
ゆきはひたすらに頭を俯けたまま、
悲しみにくれた。
その両腕でノノのぬいぐるみを抱えながら。

しかし、ゆきと、眠りについている彼方の2人しかいない静かな部屋から。
突如声がした。


「…………て」

「……?」

「元気……出して……」

「え?……だれ?」

「ボク……だよ」

その声は、ゆきの持つぬいぐるみから発せられているようだった。

「あなた…なの、ノノ…?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...