ゆきの彼方

んんん

文字の大きさ
17 / 32
第2章

第15話 ``ノノ``

しおりを挟む


01月17日 病室


「元気……出して……」

「あなたなの、ノノ」

ぬいぐるみから発せられた声に、ゆきは驚いた。
そして、ぬいぐるみは再び言葉を紡ぐ。

「そう、だよ。ボクだよ……ノノ、だよ……」
「……!」

突然の出来事、あまりに現実感のない現象に。ゆきは夢でも見ているのかと、思った。しかし、ほっぺをつねってもなにも起こらない。間違いなく現実だった。

「本当にノノなの、どうして……」
「……」

しかし、ノノはまた喋らなくなった。
「え、ノノ……」

ゆきは、やはり夢だったのだろうかと思った。
それから5分後

「……ゆき!」
突然ノノが叫んだ。ゆきは驚いてノノを落とした。
「えっ!?あ、ご、ごめんなさい、ノノ……。やっぱりノノなのね」

ゆきの言葉に、ノノは10秒ほど黙った。
そして、言った。

「うん。…………ボクは、ノノだよ」

「でも、どうして急に喋るように」
「それは、見ていられなかったからさ。キミが」
「え」
「ずっと悲しみにくれるキミを方って置けなかった。だからボクは、目覚めた。……神様が叶えてくれたんだ。ボクをゆきと話せるようにしてくれって願いを」
「そ、そんなこと…」

「現実だよ。ボクの事も、君のおにいさんの事も、全て現実だよ。それは受け入れて進むしかないことなんだ」

おにいさん、という言葉にゆきは、現実を思い出し、再び気が沈んでしまう。

「で、で、でも……、そんなの、受け入れられないよ…」
「……」
「あんな、終わり方なんて…。私。お兄ちゃんにちゃんと、した。お別れすら言えなかった……。気持ちが、ずっと宙ぶらりんで。なにも考えられない。私、これからどうしたらいいのか、分からないよ……」

「…………」

ノノはしばらく、何も言わなかった。
ゆきは、未だに癒えない悲しみに身を任せた。
やがて、数分経ったあと、ノノは言った。

「……そんなんじゃ、おにいさんも、安心して目覚められないよ」
「え」

目覚められない、という言い回しにゆきは、違和感を覚えた。
「どういう、こと…?お兄ちゃんは、死んだんじゃ」
「まだだよ。まだ、確実に死んだわけじゃない。……あの人の「魂」はまだ、この世にある」
「??」
「魂と肉体はセットだ。魂があるということ肉体もまだ生きているはずなんだよ。同じ魂の存在であるボクだからこそわかる」

「……本当なの」
「……確証はない。でも、可能性はある」

「……」
「だから、何時までも、そんな風にしてちゃダメなんだよ。お兄さんが目覚めた時、安心して迎えられるように。頑張ろう」
「…………」

ゆきは、
ベッドに眠る月城彼方の肉体を見た。
眉ひとつ動くことなく、静かに安らかに眠るその顔を、ゆきはただじっと見つめた。
そして、ゆきは、彼方のでこに手のひらを載せた。

……

その手に何を感じたのか。

ゆきは手を離すと、何かを考えるように黙ったまま彼方を見つめていた。そんなゆきをノノも静かに見ていた。

「………………」
「ゆき……」

そして、ゃがて、ゆきはノノに言った。

「ごめん、ノノ…私やっぱり、信じられないよ。お兄ちゃんがまだ、生きているなんて。そんなの、有り得ない」

「ゆき…」

「でも……でもね。有り得ないことは、既に起こっているんだよね。……ノノとこうして、話しているっていう」

「え……」

「だから、もう少しだけ、頑張ってみるよ」
「ゆき……」


「ありがとう、ノノ…。私を元気付けようとしてくれていたんでしよう。私は、大丈夫だから…………そうだ。挨拶ちゃんとしてなかったよね」

そう言ってゆきは、ノノを机に置き、自分と同じ高さの目線に合わせた。

「私、月城ゆき。改めて、よろしくねノノ」
「うん。ボクはノノ、ノノベアーのノノだよ、よろしくね、ゆき」

ゆきはノノの丸い手を親指と人差し指でちょんと、摘んだ。
そらが握手のつもりだった。

ずっと沈んでいた、ゆきの表情に僅かに明るさが戻っていたことに、安堵するノノであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...